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35.悪い魔法使いの妹
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「あーあ、妹の許嫁どのは、ふられてしまいましたね。ますます面白いよ、結菜ちゃん」
静かな夜に響く、少年の声。
古い街並みの上空には、ビルの屋上に座って地上を見下ろす少年魔法使いの姿があった。
その視線の先には狼狽える大迫啓太の姿があり、怒って帰る三木結菜とを見比べながら、クスクスと小さく笑っていた。
また、気持ちのすれ違いを楽しむ少年の傍らにはブレザースカートの少女が控えており、兄と違って無表情の少女は、感情のこもらない声で口を開いた。
「お兄様」
「リアン、森の中では、どうして邪魔をしたんだ?」
「邪魔ですか? ピンチのお兄様を救ってあげただけですよ。けちょんけちょんにやられていたでしょう?」
「あれは、手加減してやったんだよ。俺が本気を出せば、啓太さんだって潰せるさ」
「お兄様は自信家ですわね」
「妹のくせに、俺の実力を疑うのか?」
「確かにお兄様は優秀ですが、啓太様は次元が違いますから」
「それよりお前、まだ諦めてないのか?」
「ええ。もちろんです。わたしくは、絶対に啓太様の花嫁になってみせますわ」
「だが、啓太さんはあの女の子——結菜ちゃんのことが好きみたいだぞ」
「そんなこと、知ったことではありません」
「お前も俺に似てしぶといやつだな」
「あら、お兄様と比べないでください。私があんな一般人に負けるわけがありませんわ」
「一般人と言うが……結菜ちゃんにも何か秘密がありそうだな。この俺に見事くらわしてくれた女は、初めてだ」
「でしたら、お兄様。お兄様は彼女を誘惑してくださいませんか? 結菜さんに振られて傷心の大迫様を私がいただきますわ」
「そうだな。その案、意外と悪くない」
少年がそう告げると、二人は風のように姿を消した。
***
「おはよう、長谷部くん」
早朝に登校するなり、廊下で長谷部くんの姿を見つけた私——結菜は、彼の元に駆け寄った。
昨日は長谷部くんが大迫くんの魔法で消されてしまったから、ずっと気になっていたんだよね。
私が顔色をうかがうと、長谷部くんは少し疲れた様子で笑顔を作って見せた。
「ああ、おはよ」
「昨日は大丈夫だった?」
「……昨日か。まさかあんなところに飛ばされるとは」
「どこに飛ばされたの?」
「いや、いいんだ。俺があんな冗談を言ったせいだし、それにあいつも悪気があってやったことじゃないと思うし」
「長谷部くんに魔法を使うなんて最悪だよ」
「で、あのあと大迫とは……どうなったんだ? 俺がおぜん立てしてやったんだから、ちょっとは進展しただろ」
「大迫くんと、どうなったって……喧嘩になったよ」
「は? 喧嘩?」
「だって、大迫くんが自分勝手だから」
「……そうきたか。お前ら、こじらせすぎだろ」
「こじらせ?」
「いや、こっちの話。俺は大丈夫だから、仲直りしろよ」
「長谷部くんは優しいね」
とその時、チャイムが鳴った。
周囲の人たちが散るのを見て、長谷部くんは慌てた様子で手を上げる。
「じゃ、俺は自分のクラスに行くわ」
「うん、またね」
こうして長谷部くんとわかれて自分の教室に向かった私だけど、教室にはすでに先生がいて——急いで席についた。
ギリギリに入ったおかげで、大迫くんの顔を見ずに済んだのは良かったかもしれない。
大迫くんとまともに顔を合わせるのはまだちょっとだけ嫌だったから。
そして先生は、クラス全員が着席したのを見計らって、黒板に何かを書き込んだ。
須藤リアン——それは名前のようで、先生がそれを書き終えると同時に、教室のドアがガラガラと開いた。
入ってきたのは、ボブヘアの、ちょっと気の強そうな顔をした美少女だった。
見覚えのある顔に、私は大きく見開く。
教壇の横に立ったその人は、文化祭で奇術部員を襲った悪い魔法使いの妹だった。
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