君は魔法使い

悠木全(#zen)

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46.誤解は広がってゆく

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 放課後、奇術部の部室にやってきた私は、素振りをする大迫おおさこくんを見つけるなり、神妙な面持ちで彼の前に立った。

「あのね、大迫くん」

「どうしたの?」

 大迫くんが素振りをやめてこちらに笑顔を向ける中、私は覚悟を決めて口を開く。

「えっと、昨日の話だけど……」

 ——早く大迫くんに本当のこと言わなきゃ。

 クラスの噂では、私が大迫くんの告白を受け入れたことになってるけど、それは誤った情報であって、決して私が出した答えじゃなかった。
 
 だから早く事態を収集するためにも、言わなければならなかった。

「実は——」

 けど、私が言いかけたところで、拓未たくみくんが割り込んでくる。

「良かったね、啓太さん。結菜ゆいなちゃんと両想いになれて」

 おまけに、拓未くんの言葉に真っ先に反応したのは、真紀まき先輩だった。

「どういうこと?」

「実は、結菜ちゃんと啓太さんが付き合うことになったそうです」

「……え?」

 目を瞬かせて絶句する真紀先輩の傍ら、長谷部はせべくんが破顔する。

「へー、思ったよりも早かったな。どっちが告ったんだ?」

 長谷部くんは拓未くんの言葉を鵜呑みにして楽しそうだった。

 私は慌てて否定しようとするけど、その前に大迫くんが手を上げた。

「俺だよ」

「意外だな。大迫は自分の気持ちにも気づかない天然だと思ってたけど」

「自分の気持ちに気づかない?」

 長谷部くんの言葉に、大迫くんは目を丸くしていた。

 私が魚みたいに口をパクパクさせる中、長谷部くんはさらに大迫くんに訊ねる。

「自分の気持ちに気づいたから告白したんだろ? 何驚いた顔してるんだ」

「自分の気持ち……?」

 大迫くんは不思議そうな顔をして首を傾げる。

 まるで、自分の意志とは別に告白したみたいな様子に、引っかかりを覚えるけど、それよりも私はこの状況をどうにかしたくて慌てて口を開く。

「でも、私はまだ答えを出してな——」

「結菜ちゃんも実は好きだったんですよね、啓太さんのこと」

「!? ちょっと! 拓未くん!?」

「すみません。二人が付き合うようになったと知って、嬉しくて言いふらしちゃいました」

「だから違うの! 私は——」

「そっか。すみません。本当はみんなに内緒で付き合いたかったんですね。俺、余計なことしました……ごめんなさい、皆さん。結菜ちゃんのことは内緒にしてくださいね」

 人差し指で唇を押さえてみせる拓未くんに、もうなんて言っていいのかわからなかった。

 でも、さすがにこのままにするわけにはいかないし、私は抗議しようと前に出るけど、今度は真紀先輩がぽつりと告げる。

「……ずるい」

「へ?」

「大迫くんと結菜が付き合うなんてずるい!」

「真紀先輩、嫉妬なんてみっともないですよ」

 拓未くんの辛辣な言葉に、真紀先輩はまなじりを上げる。
 
「二人が付き合うってことは、大迫くんが結菜を独占するってことだろ? そんなのずるい! みんなのマネージャーなのに」

 真紀先輩のどこかズレた訴えに、私は思わずツッコミを入れる。

「みんなのマネージャーって、なんですか」

 すると、真紀先輩はまるで子供のように地団駄を踏んだ。
 
「みんなの結菜と言ったら、みんなの結菜だよ。悪いけど、俺は二人が付き合うのを認めないから」

「真紀先輩。結菜ちゃんだって人間ですよ? 幸せになる権利があるんだから」

 拓未くんの最もらしい言葉に、長谷部くんは感心した様子で告げる。

「いつになく良いことを言うんだな」

「俺だって大好きな先輩たちが一緒になってくれたら、嬉しいですから」

「お前の妹はどうするんだよ」

 長谷部くんがリアンさんのことを指摘すると、拓未くんは苦笑した。

「あいつには悪いけど、諦めてもらいます。妹が何か言ってきたら、俺が駆けつけますね」

 拓未くんはそう宣言すると、私の顔を見て笑みを浮かべる。

 その顔が、どこか企んでいるように見えて引っかかったけど——今はそれどころじゃなくて。

 すっかり私たちが付き合っている方向に話が進んでしまい、もはや否定するだけ無駄に思えた。
  
 ……どうしよう。もう、なんて言えばいいのかわからないよ。

 そんな感じで、私にはどうすることもできない中、

「おい、大丈夫か? 顔色が悪いぞ」

 ふいに、長谷部くんが私の肩を叩いた。

「え? あ、……うん……大丈夫」

「そうか? 真っ青に見えるけど」

 心配そうな顔をする長谷部くん。

 私が深いため息を吐く中、ずっと静かに佇んでいた藤間先輩も口を開く。

「結菜さん、もしや——」

 けど、藤間先輩が何か言いかけたその時、かぶせるようにして真紀先輩が叫んだ。

「とにかく俺は、絶対に認めないからな!」

「えー、真紀先輩ってけっこう面倒くさいんですね」

 断固として反対の姿勢を見せる真紀先輩に、拓未くんはうんざりした顔をしていた。

 ……もう私一人ではどうすることもできないよね。こうなったら、まずは大迫くんの誤解だけでも解かないと。

「あの、大迫くん」

「なに?」

「このあと、大迫くんに話したいことがあるんだけど」

「このあと? ごめん、俺……職員室に用があるから。週明けじゃダメかな?」

「そっか……じゃあ、明日の朝とかは……?」

 私が小さな声で大迫くんに確認していると、拓未くんがニヤニヤしながら訊ねてくる。

「なになに? もしかして、もうデートの約束? 土曜日にどこか行くの?」 

「そうじゃないよ」

「またまた、照れちゃって」

 冷やかしてばかりの拓未くんに困惑するばかりの私とは違い、マイペースな大迫くんはあまり聞いていないようだった。そして私がさらに口を開きかけた時、大迫くんは突然思いついたように告げる。

「そうだ! 実は遊園地の券をもらったんだけど……明日、みんなで行こうよ」

「啓太さん! そこは結菜ちゃんと二人で行くものですよ」

 拓未くんは指摘するけど、大迫くんはきょとんと目を丸くしていた。

「そうなの?」

「まったく……これだから」

 ため息を吐く拓未くんの前で、真紀先輩は思いっきり挙手をする。

「遊園地? 俺も行きたい!」

 目をキラキラさせる真紀先輩に、拓未くんがなんとも言えない顔をする中、藤間先輩も小さく手を挙げる。

「私も遊園地にお供します」

「じゃ、俺も行く」

 長谷部くんも加わって、私はなんだか複雑な気持ちになる。

「そ、そうだね。皆で行けば楽しいよね!」

 ——どうしよう、いつ言えばいいんだろう。

 私が狼狽えていると、拓未くんの方から舌打ちする声が聞こえた。



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