君は魔法使い

悠木全(#zen)

文字の大きさ
47 / 72

47.鏡の魔女

しおりを挟む

  ***



「今日は遊園地日和だな」

 遊園地のエントランスで快晴を見上げては、嬉しそうな顔をする真紀先輩。

 結局、休日に奇術部全員で遊園地に集まったのはいいとして——誤解されていることについて、大迫くんに何も告げられないままだった。

 しかもこんな状況で、どうやって伝えればいいんだろう。

 私は苦笑しながら、誰よりも楽しそうな真紀先輩に視線を送る。

「真紀先輩、張り切ってますね」

「当たり前だ! 受験前にぞんぶんに遊んでおかないとな」
 
「にしても、大迫くん……遅いな」

 気合いじゅうぶんな真紀先輩の隣で、私は駅に続く道を見つめる。
 
 チケットを持っている大迫くんがまだ来ていない状況だった。
 
 スマホにも連絡は来ていないようだし……まさかまだ家とかじゃないよね? 

 なんて心配していると、長谷部くんもぼやくように告げる。
 
「拓未のやつもまだ来ないな」

 と、その時だった。
 
 道の向こうから駆けてくる大迫くんを見つける。

 大迫くんは走ってくるなり、肩で息をしながら口を開く。

「あ、あの……お待たせ」

「え? 大迫くん?」

「ごめんね。……遅くなって」

「それはいいんだけど、なんだかいつもと雰囲気が違うね」

「拓未くんに私服ダサいって言われて、着替えさせられたんだ」

「拓未くんが?」

「啓太さん、それは言わない約束ですよ」

 そう口を挟んだのは、あとからゆっくりと歩いてきた拓未くんだった。
 
 すると、大迫くんは思い出したように頭を掻いた。

「あ、そうだった」



 それから私たちは、遊園地のアトラクションを一緒に楽しんだわけだけど。

 大迫くんに言いたいことを言えないまま、時間ばかりが経過していた。

 別行動をとって何度も大迫くんに告げようとしたのに、私が何か言おうとする度に拓未くんが現れて——まるで私の邪魔をするかのように間に入ってきたのだ。

 そして楽しい時間はあっという間に過ぎて、気づけば夜になっていた。



  ***



「すっかり暗くなったな」

 長谷部はせべあきらがライトアップされたメリーゴーランドを見て呟く。

 やや疲れた顔をするあきらを見て、並んで歩いていた須藤すどう拓未たくみは提案する。

「帰りは、バーガーショップで飯食って帰りません?」

 すると、バーガーショップと聞くなり、紺野こんの真紀まきが何やらバックパックの中を探り始める。

「お、いいな。あそこの店なら、クーポンを持ってたはず……」

「あれ? そういえば、大迫は?」

 大迫おおさこ啓太けいたがいないことに気づいたあきらが誰となく訊ねると、藤間ふじまたもつも頷いた。

「結菜さんもいませんね。さっきまで一緒にいたはずですが」

「ああ、結菜ちゃんと啓太さんなら、先に帰りましたよ」

「なにぃいいいい!?」

 拓未の答えを聞いて、真紀の声が空高く響いた。



 ***



「きょ、今日は楽しかったね」

 大迫くんとどうしても話し合いたくて、先に帰らせてもらった私——結菜ゆいなは、とりあえず当たり障りのない言葉を口にした。

 告白されて意識しているせいか、妙にぎこちなかった。

 けど、そんな私とは違って、大迫くんはいつものように優しい笑みをこちらに向ける。

「うん、先輩たちも面白かったし、皆でまた行きたいね」

「そうだね」

 ……拓未くんが二人にしてくれて良かった。今なら、あのこと言えるよね。

 ようやく訪れたチャンスに、私は気合いを入れるようにしてぎゅっと胸元を握りしめる。

 早く言わなきゃ、手遅れになってしまう前に——

 そして私は、住宅街を一緒に歩く大迫くんの隣で、立ち止まる。

「あのさ、大迫くん」

「うん、どうしたの?」

「一昨日のことだけど……」

「一昨日のこと?」

「ちゃんと返事できてなかったから、言わなきゃと思って」

「返事なら、拓未くんからもらったよ」

「そうじゃないよ。私は——」

 言いかけたその時、どこからともなく甲高い声が響く。

「啓太様!」

「リアン」

 見れば、いつの間にかリアンちゃんが目の前に立っていた。

 リアンさんは閑静な住宅街で、声高に告げる。

「結菜さんとお付き合い始めたというのは、本当ですか?」

「あ、うん……本当だよ」

「あれだけ啓太様とは関係ないみたいな顔をしていたのに、結菜さんは人をあざむくのがお上手なのですね」

「ち、違うよ!」

「何が違いますの? 私は嘘つきが嫌いですの! あなたみたいな人、私が今度こそ叩きのめして差し上げますわ」

「ええ!?」

「……リアン、やめておいたほうがいいよ」

「何をおっしゃいますの、啓太様」

「君がいくら攻撃したところで、結菜には通じないから」

「大迫くん、なにを……」

「それと、俺たちの邪魔をするなら、いくら元婚約者でも容赦はしないよ」

「啓太様まで……どうしてですの? あなた様を救えるのは、きっと私だけなのに……」

「……え?」

「結菜、リアンの話は聞かなくていいよ。行こう」

「でも」

「結菜さん、あなたはきっと、啓太様と一緒にいることを後悔しますわ」

「後悔?」

 リアンちゃんの意味深な言葉に、私が眉間を寄せていると——つむじ風とともに拓未くんが現れる。

「リアン」

「お兄様」

「せっかくいいところだったのに、どうして邪魔するかな」

「お兄様なら、お分かりでしょう? 結菜さんでは力不足ですわ」

「恋は盲目というけど、本当に面倒な妹だな」

「お兄様?」

「悪いけど、すぐに消えて」

「お兄様!」

「彼女が本当に〝鏡の魔女〟なら、今のお前がとうてい敵う相手ではないよ。痛い目にあっても、わからないようだね」

「あの時は、油断していただけですわ!」

「愚かだね。相手との力量差もわからないなんて、君が僕の妹だなんて、恥でしかない」

「お兄様は、私の味方ではなかったのですか?」

「悪いね。僕は僕の味方でしかないから」

 言って、拓未くんは魔法の杖を構えると、その先端をリアンさんに向ける。

「おにいさ——きゃあああああ」
 
 直後、リアンさんは竜巻に飲まれて姿を消した。

 不穏な空気が漂う住宅街。

 私はなんだか嫌な予感がして、大迫くんの顔を見る。

「かがみの……魔女って、何? 大迫くん」

 けど、大迫くんはどこまでも暗い顔をしていた。
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

【完結】一番腹黒いのはだあれ?

やまぐちこはる
恋愛
■□■ 貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。 三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。 しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。 ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。

リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした〜

ゆずき
恋愛
公爵家の御令嬢クレハは、18歳の誕生日に何者かに殺害されてしまう。そんなクレハを救ったのは、神を自称する青年(長身イケメン)だった。 イケメン神様の力で10年前の世界に戻されてしまったクレハ。そこから運命の軌道修正を図る。犯人を返り討ちにできるくらい、強くなればいいじゃないか!! そう思ったクレハは、神様からは魔法を、クレハに一目惚れした王太子からは武術の手ほどきを受ける。クレハの強化トレーニングが始まった。 8歳の子供の姿に戻ってしまった少女と、お人好しな神様。そんな2人が主人公の異世界恋愛ファンタジー小説です。 ※メインではありませんが、ストーリーにBL的要素が含まれます。少しでもそのような描写が苦手な方はご注意下さい。

とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮
恋愛
クリバンス王国内のフォークロス領主の娘アリス・フォークロスは、母親からとある理由で憧れである月の魔女が通っていた王都メルト魔法学院の転入を言い渡される。 しかし、その転入時には名前を偽り、さらには男装することが条件であった。 その理由は同じ学院に通う、第二王子ルーク・クリバンスの鼻を折り、将来王国を担う王としての自覚を持たせるためだった。 だがルーク王子の鼻を折る前に、無駄にイケメン揃いな個性的な寮生やクラスメイト達に囲まれた学院生活を送るはめになり、ハプニングの連続で正体がバレていないかドキドキの日々を過ごす。 そして目的であるルーク王子には、目向きもなれない最大のピンチが待っていた。 さて、アリスの運命はどうなるのか。

幽霊じゃありません!足だってありますから‼

かな
恋愛
私はトバルズ国の公爵令嬢アーリス・イソラ。8歳の時に木の根に引っかかって頭をぶつけたことにより、前世に流行った乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったことに気づいた。だが、婚約破棄しても国外追放か修道院行きという緩い断罪だった為、自立する為のスキルを学びつつ、国外追放後のスローライフを夢見ていた。 断罪イベントを終えた数日後、目覚めたら幽霊と騒がれてしまい困惑することに…。えっ?私、生きてますけど ※ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください(*・ω・)*_ _)ペコリ ※遅筆なので、ゆっくり更新になるかもしれません。

【完結】第一王子と侍従令嬢の将来の夢

かずえ
恋愛
第一王子は、常に毒を盛られ、すっかり生きることに疲れていた。子爵令嬢は目が悪く、日常生活にも支障が出るほどであったが、育児放棄され、とにかく日々を送ることに必死だった。 12歳で出会った二人は、大人になることを目標に、協力しあう契約を交わす。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

結婚する事に決めたから

KONAN
恋愛
私は既婚者です。 新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。 まずは、離婚してから行動を起こします。 主な登場人物 東條なお 似ている芸能人 ○原隼人さん 32歳既婚。 中学、高校はテニス部 電気工事の資格と実務経験あり。 車、バイク、船の免許を持っている。 現在、新聞販売店所長代理。 趣味はイカ釣り。 竹田みさき 似ている芸能人 ○野芽衣さん 32歳未婚、シングルマザー 医療事務 息子1人 親分(大島) 似ている芸能人 ○田新太さん 70代 施設の送迎運転手 板金屋(大倉) 似ている芸能人 ○藤大樹さん 23歳 介護助手 理学療法士になる為、勉強中 よっしー課長(吉本) 似ている芸能人 ○倉涼子さん 施設医療事務課長 登山が趣味 o谷事務長 ○重豊さん 施設医療事務事務長 腰痛持ち 池さん 似ている芸能人 ○田あき子さん 居宅部門管理者 看護師 下山さん(ともさん) 似ている芸能人 ○地真央さん 医療事務 息子と娘はテニス選手 t助 似ている芸能人 ○ツオくん(アニメ) 施設医療事務事務長 o谷事務長異動後の事務長 雄一郎 ゆういちろう 似ている芸能人 ○鹿央士さん 弟の同級生 中学テニス部 高校陸上部 大学帰宅部 髪の赤い看護師(川木えみ) 似ている芸能人 ○田來未さん 准看護師 ヤンキー 怖い

【完結】処刑後転生した悪女は、狼男と山奥でスローライフを満喫するようです。〜皇帝陛下、今更愛に気づいてももう遅い〜

二位関りをん
恋愛
ナターシャは皇太子の妃だったが、数々の悪逆な行為が皇帝と皇太子にバレて火あぶりの刑となった。 処刑後、農民の娘に転生した彼女は山の中をさまよっていると、狼男のリークと出会う。 口数は少ないが親切なリークとのほのぼのスローライフを満喫するナターシャだったが、ナターシャへかつての皇太子で今は皇帝に即位したキムの魔の手が迫り来る… ※表紙はaiartで生成したものを使用しています。

処理中です...