アンチ悪役令嬢の私がなぜか異世界転生して変人王子に溺愛される話

悠木全(#zen)

文字の大きさ
2 / 80
第一章

2.謎の王子様ルック

しおりを挟む

 ***




「ケイラ・エノール・ジェルドノラ、お前との婚約をここで破棄させてもらう!」


 ————はい。いったいなんのことでしょうか。


 私——高平たかひらけいは、気づくと童話に出てくる舞踏会みたいな舞台の中心に立っていた。

 しかも美しいドレスや燕尾服をまとった紳士淑女がいっせいにこちらを見ている。

 衆目の関心は、どうやら私にあるらしい。

 そしてひときわ美しい男の人にビシッと指を差されている私。

 誰か、この状況を説明してくれる人はいないだろうか。

 仕方なく私は、自分で訊ねることにした。

「あの、すみません。あなたはどなたで、これはどういう状況なのでしょうか?」

 私が真っ向から訊ねると、王子様みたいな風貌の青年は、ちょっとひるんだ。

 けど、すぐに鋭い目を私に向けて告げる。

「知らないふりをして通すつもりか! やはりお前のような女は王妃に相応しくない!」

「……はあ」

 気の抜けた返事をすると、王子様ルックの青年は激昂した。

「お前は王室を侮辱するつもりか!」

「王室? ということは、やっぱりあなたは王子様のたぐいですか?」

「私に向かってその口の利き方……侯爵家の面汚しだな。知らないふりをしたところで、お前が今までに行った悪逆非道の数々はなかったことにはできないんだぞ!」

「悪逆非道、と申しますと?」

「お前は我が国が誇る聖女、メラニンを侮辱した挙句、虐待したのだろう!」

「メラニン? それは色素ですか?」

「聖女だと言っておろうが!」

「……はあ」

 なかなかファンタジックな夢である。色素という名の聖女がいる世界で、どうやら私は何かをやらかしたらしい。

 悪逆非道というなら、ここは乗ってあげた方がいいのだろうか? それとも涙した方がいいのだろうか? どちらか迷っていると、そのうち豊満な体つきの少女が王子様の元にやってくる。

 ウエディングドレスみたいに真っ白な衣装を着た少女は、自称王子様に涙ながらに訴えた。

「おやめください、ロナルド殿下」
 
「どうしてだ、メラニン」

「侯爵家の令嬢を国外追放するなど、国内の力関係がどうなることか……火を見るよりも明らかですわ」

「ああ、聡い聖女よ。国の未来を憂いてくれるのだな。だが、たとえ内乱が起きようとも、この女だけは許せないんだ」

「王太子殿下!」

 聖女メラニンはものすごく青い顔をしているけど、王子様が譲る様子はなかった。

 なるほど。私はよほど力のある貴族——という設定なんだ?

 よく見れば、誰よりも派手なドレスを着ているし、お金持っていそうな雰囲気はあるよね。

 私が一人納得する中、ロナルド王子は私に向かって告げる。

「お前が国外追放なのはもう決定事項だ! さあ、衛兵たちよ、この者を国の外につまみだせ!」

「あ、ちょっと痛い! 何するのよ!」

 腕や髪を引っ張られ、思わず声を上げる私を、周囲は黙って見ていた。

 ただでさえ傷心なのに、こんな悲しい夢を見るなんてあんまりじゃないだろうか。

 自分の人生に嫌気がさした私は、思わず私を捕まえた衛兵の足を踏んづけて思いっきりひっぱたいてやった。

 すると、衛兵は私に長槍をつきつける。

 けど、どうせこれは夢だろうし、長槍なんて怖くもなかった。

「女性に向かってなんてことするのよ!」

 いや、待てよ。女性に向かってというのはこの場合、男女差別にあたるだろうか? なんて考えていると、私は衛兵たちに押さえつけられ、地面に身を伏す形になる。

 夢なのに床は冷たいし、痛いし、どうなっているのだろう。

 そんな中、ロナルド王子が冷徹な言葉をくだした。

「あまりに暴れるようなら、少々痛い目を見せてやればいい」

 その悪役としか思えないセリフに私はさすがに青ざめる。
 
 いくら夢でも、痛い目を見るのは嫌だし、このまま殺される可能性だってあるよね? ていうか、私さっき、車に轢かれて死んだんじゃなかったっけ? だったらこれは、死後の世界ってこと?

 ロナルド王子の発言のせいでパニックになった私は、その場で噛み付かんばかりに暴れるけど、衛兵たちの力が強いせいで、ビクともしなかった。

 けど、そんな時だった。

「まて、国外に追放するなら、私が貰い受ける」

 よく通る声がして、私は動けないながらも視線だけで周囲を確認する。

 すると、これまた美しい別の王子様ルックの青年が、こちらに向かってやってくると——私に向かって手を差し伸べたのだった。

しおりを挟む
感想 101

あなたにおすすめの小説

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。

和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……? しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし! 危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。 彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。 頼む騎士様、どうか私を保護してください! あれ、でもこの人なんか怖くない? 心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……? どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ! 人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける! ……うん、詰んだ。 ★「小説家になろう」先行投稿中です★

【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。

櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のセラフィーナには生まれつき前世の記憶があったが、覚えているのはくだらないことばかり。 そのどうでもいい知識が一番重宝されるのが、余興好きの国王が主催する夜会だった。 毎年余興の企画を頼まれるセラフィーナが今回提案したのは、なんと「借り物競争」。 もちろん生まれて初めての借り物競争に参加をする貴族たちだったが、夜会は大いに盛り上がり……。 気付けばセラフィーナはイケメン王太子、アレクシスに借りられて、共にゴールにたどり着いていた。 果たしてアレクシスの引いたカードに書かれていた内容とは? 意味もなく異世界転生したセラフィーナが、特に使命や運命に翻弄されることもなく、王太子と結ばれるお話。 とにかくツッコミどころ満載のゆるい、ハッピーエンドの短編なので、気軽に読んでいただければ嬉しいです。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。 小説家になろう様への投稿時から、タイトルを『借り物(人)競争』からただの『借り物競争』へ変更いたしました。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

処理中です...