アンチ悪役令嬢の私がなぜか異世界転生して変人王子に溺愛される話

悠木全(#zen)

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第一章

3.あっという間に追い出される私

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 長槍で押さえつけられ、地面に身を伏している私に手を差し伸べたのは、とんでもなく美しい顔をした王子様ルックだった。

 なんだろう。この夢、王子様ルックが流行っているのだろうか。いや、夢だから流行るも何もないと思うけど、それにしても王子様ルックって誰でも着るようなものじゃないよね。

 なんてことを考えていると、新しい王子様ルックは、私を見下ろしながら告げる。

「ジェルドノラ侯爵令嬢、よければうちに——我が国に来ませんか?」

「へ?」

 うちに来ませんか? なんて、今まで男の人に言われたことがあっただろうか。

 よほど私を憐れに思ったのか。そのわりに、王子様ルックは好奇心いっぱいの目をしていて、なんだか珍獣でも見ているような顔をしていた。

 ————怪しい。

 こういう時、普通に綺麗なお姫様なら、喜んで助けられるかもしれないけど、私は彼の言葉を心の底から信用する気にはなれなかった。

「……えっと、ごめんなさい。せっかくのお誘いですけど、お断りします」

 すると、私が断った瞬間、周囲がざわついた。

「さすが侯爵令嬢だ。ここで他国の手をとれば王室に反旗を翻すことと取られても仕方ない。賢い選択だろう」

「ああ。あのような才女を国外追放するなど、王太子殿下も血迷ったか」

 コソコソと聞こえてくる周囲の言葉に、私の欲しい情報は一つもなかった。
 
 結局、私はなんでこんな状況になってるわけ?

 などと思っていると、私をこんな風にした元祖王子様ルック——ロナルド王子が声を荒げた。

「不敬だぞ! 次期国王の面前にしてそのような戯言を! 諸侯諸君は恥ずかしくはないのか!? 今回の件は侯爵令嬢の立派な反逆行為であり、私は責をもってこの者を処罰する! 異論は受け付けぬぞ!」
 
 なんだかよくわからないけど、ロナルド王子の怒りっぷりは尋常ではなかった。
 
 私はよほど嫌われているらしい。このままここにいれば、きっとロナルド王子に殺されるに違いない。それならまだ、国外追放のほうがよほどマシではないだろうか?
 
 なら、私が選べる道は一つしかない。

「国外追放でもなんでもしてください! 王子様の目の入る場所にはもう二度と現れませんから、私を放っておいてください!」

 夢の中で言えることは、それが精一杯だった。

 なんで自分の夢なのに、自由にできないんだろう。もっと私に都合の良い世界でも良くない? ていうか、なんで床が冷たくて、痛いのよ。こんなリアルな夢、初めて見るわよ。

 私が自分から負けて出ると、どういうわけかロナルド王子はあっけに取られた顔をしていた。そしてもう一人の王子様ルックが吹き出した。

「いやはや、どうせ追放されるなら、我が国に来てくださいよ、侯爵令嬢」

「いやだって言ってるじゃん。しつこい男は嫌われるわよ」

「その物言い。ぞくぞくします」

「なんなの、あんたMなの?」

 私が思わずツッコミを入れていると、そばにいた初老の男性が私を睨みつけた。

「これ、ジンテール殿下に向かってなんという口の利き方をするか!」

「知らないわよ! 国外追放するなら、早く解放して追放しなさいよ! でないと、舌噛んで死んでやるわよ!」

 とうとう切れた私がめちゃくちゃなことを言って騒ぎ立てると、ロナルド王子が慌てて衛兵たちを下がらせた。

 ようやく解放された私は、その場で安堵の息を放つ。そして、そんな私の元に色素……じゃなくて、メラニンと呼ばれた聖女がやってくる。

「少し怪我をしてますね? 回復します」

「メラニン! そんなやつ放っておけ」

「王太子殿下。わたくしは生者を平等に扱う聖女として、侯爵令嬢の怪我を見過ごせません」

「なんて優しい人だ……やはり君こそ次の王妃にふさわしい」

 ロナルド王子がうっとりした顔で言うと、メラニンとかいう女の子はやれやれといった感じでため息を吐いた。

 そして私の耳にそっと吹き込む。

「今回の件はわたくしの取り巻きがやったこと。本当に面目ありませんわ。ですが、いつか必ずわたくしが迎えに行きますから、それまで待っていてください。それに、わたくしたちはじきに行動を起こしますわ」

 そう言ってメラニンは私の頬に手を当てた。するとメラニンの手から暖かい光が溢れて、なんだかホッとした。
 
 それから私は、衛兵に連れられて、馬車に詰め込まれると、あっという間に舞踏会を追い出されたのだった。





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