3 / 80
第一章
3.あっという間に追い出される私
しおりを挟む長槍で押さえつけられ、地面に身を伏している私に手を差し伸べたのは、とんでもなく美しい顔をした王子様ルックだった。
なんだろう。この夢、王子様ルックが流行っているのだろうか。いや、夢だから流行るも何もないと思うけど、それにしても王子様ルックって誰でも着るようなものじゃないよね。
なんてことを考えていると、新しい王子様ルックは、私を見下ろしながら告げる。
「ジェルドノラ侯爵令嬢、よければうちに——我が国に来ませんか?」
「へ?」
うちに来ませんか? なんて、今まで男の人に言われたことがあっただろうか。
よほど私を憐れに思ったのか。そのわりに、王子様ルックは好奇心いっぱいの目をしていて、なんだか珍獣でも見ているような顔をしていた。
————怪しい。
こういう時、普通に綺麗なお姫様なら、喜んで助けられるかもしれないけど、私は彼の言葉を心の底から信用する気にはなれなかった。
「……えっと、ごめんなさい。せっかくのお誘いですけど、お断りします」
すると、私が断った瞬間、周囲がざわついた。
「さすが侯爵令嬢だ。ここで他国の手をとれば王室に反旗を翻すことと取られても仕方ない。賢い選択だろう」
「ああ。あのような才女を国外追放するなど、王太子殿下も血迷ったか」
コソコソと聞こえてくる周囲の言葉に、私の欲しい情報は一つもなかった。
結局、私はなんでこんな状況になってるわけ?
などと思っていると、私をこんな風にした元祖王子様ルック——ロナルド王子が声を荒げた。
「不敬だぞ! 次期国王の面前にしてそのような戯言を! 諸侯諸君は恥ずかしくはないのか!? 今回の件は侯爵令嬢の立派な反逆行為であり、私は責をもってこの者を処罰する! 異論は受け付けぬぞ!」
なんだかよくわからないけど、ロナルド王子の怒りっぷりは尋常ではなかった。
私はよほど嫌われているらしい。このままここにいれば、きっとロナルド王子に殺されるに違いない。それならまだ、国外追放のほうがよほどマシではないだろうか?
なら、私が選べる道は一つしかない。
「国外追放でもなんでもしてください! 王子様の目の入る場所にはもう二度と現れませんから、私を放っておいてください!」
夢の中で言えることは、それが精一杯だった。
なんで自分の夢なのに、自由にできないんだろう。もっと私に都合の良い世界でも良くない? ていうか、なんで床が冷たくて、痛いのよ。こんなリアルな夢、初めて見るわよ。
私が自分から負けて出ると、どういうわけかロナルド王子はあっけに取られた顔をしていた。そしてもう一人の王子様ルックが吹き出した。
「いやはや、どうせ追放されるなら、我が国に来てくださいよ、侯爵令嬢」
「いやだって言ってるじゃん。しつこい男は嫌われるわよ」
「その物言い。ぞくぞくします」
「なんなの、あんたMなの?」
私が思わずツッコミを入れていると、そばにいた初老の男性が私を睨みつけた。
「これ、ジンテール殿下に向かってなんという口の利き方をするか!」
「知らないわよ! 国外追放するなら、早く解放して追放しなさいよ! でないと、舌噛んで死んでやるわよ!」
とうとう切れた私がめちゃくちゃなことを言って騒ぎ立てると、ロナルド王子が慌てて衛兵たちを下がらせた。
ようやく解放された私は、その場で安堵の息を放つ。そして、そんな私の元に色素……じゃなくて、メラニンと呼ばれた聖女がやってくる。
「少し怪我をしてますね? 回復します」
「メラニン! そんなやつ放っておけ」
「王太子殿下。わたくしは生者を平等に扱う聖女として、侯爵令嬢の怪我を見過ごせません」
「なんて優しい人だ……やはり君こそ次の王妃にふさわしい」
ロナルド王子がうっとりした顔で言うと、メラニンとかいう女の子はやれやれといった感じでため息を吐いた。
そして私の耳にそっと吹き込む。
「今回の件はわたくしの取り巻きがやったこと。本当に面目ありませんわ。ですが、いつか必ずわたくしが迎えに行きますから、それまで待っていてください。それに、わたくしたちはじきに行動を起こしますわ」
そう言ってメラニンは私の頬に手を当てた。するとメラニンの手から暖かい光が溢れて、なんだかホッとした。
それから私は、衛兵に連れられて、馬車に詰め込まれると、あっという間に舞踏会を追い出されたのだった。
70
あなたにおすすめの小説
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。
和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……?
しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし!
危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。
彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。
頼む騎士様、どうか私を保護してください!
あれ、でもこの人なんか怖くない?
心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……?
どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ!
人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける!
……うん、詰んだ。
★「小説家になろう」先行投稿中です★
【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。
櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のセラフィーナには生まれつき前世の記憶があったが、覚えているのはくだらないことばかり。
そのどうでもいい知識が一番重宝されるのが、余興好きの国王が主催する夜会だった。
毎年余興の企画を頼まれるセラフィーナが今回提案したのは、なんと「借り物競争」。
もちろん生まれて初めての借り物競争に参加をする貴族たちだったが、夜会は大いに盛り上がり……。
気付けばセラフィーナはイケメン王太子、アレクシスに借りられて、共にゴールにたどり着いていた。
果たしてアレクシスの引いたカードに書かれていた内容とは?
意味もなく異世界転生したセラフィーナが、特に使命や運命に翻弄されることもなく、王太子と結ばれるお話。
とにかくツッコミどころ満載のゆるい、ハッピーエンドの短編なので、気軽に読んでいただければ嬉しいです。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
小説家になろう様への投稿時から、タイトルを『借り物(人)競争』からただの『借り物競争』へ変更いたしました。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました
あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。
どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる