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第一章
6.面白い生き物
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私がいたキウイ王国の国境を越えると、石造の門を通り、私は別の国に入った。
ジンテール王子の国だと言う。グレープ王国だそうだ。
この世界はフルーツで出来ているのだろうか。ジンテール王子の馬に乗せられた私は、そんなしょうもないことを考える。
妄想で現実逃避するのは得意だけど、なんで夢の中でまで妄想しなきゃいけないのだろう。
そう、私はまだこれを夢だと思っていた。
たとえ、首輪の冷たさが現実感を伴っていたとしても、これは絶対に現実だなんて私は認めないんだから。
ましてや悪役令嬢の世界? 私の一番嫌いな世界に、なんで転生しなきゃいけないのよ。
ゴォフの話を全部信じたわけじゃないけど、自分の置かれている状況が、ただごとではないことくらいはわかった。
ちなみに私は、なぜかジンテール王子と一緒に馬に跨っており、その後ろで御者のいなくなった馬車をゴォフが操っていた。
そんな感じで私たちは山道を進み、グレープ王国に繋がる門を越えると、城へと連れて行かれた。
途中、街中を通ったりもしたけど、市場の人たちはまるで見知った人間のように、気さくにジンテール王子に話しかけていた。
とても慕われているんだね……私に首輪を嵌めて連れていくような変態だけど。
そして広い城下町を抜けると、城門にやってくる。
城門は、ジンテール王子が指を鳴らしただけで、重い扉を開けた。
なんだか魔法みたいだな、と思っていると——魔法だと言われた。
「ちょっとあなた、人の心が読めるの?」
「そういう顔をしていただろう?」
「そういう顔って……」
ジンテール王子は不敵に笑う。
その顔に、ドキリとしてしまう時点で、負けているように思えたけど、でもここで諦めるつもりもさらさらなかった。
————いつか絶対、逃げ出してやるんだから。
私が固く決心する中、厩に連れて行かれた私は、ゆっくりと馬を降りた。その時にさりげなく手を引いてくれたジンテール王子に、優しさみたいなものを感じたけど——私は気づかないふりをした。
そして王城に入った私は、ジンテール王子にエスコートされながら、赤い絨毯が続く回廊を歩いた。回廊の壁には、たくさんの絵が飾られていた。
私が絵に気を取られていると、そのうち回廊の向こうから柔らかい少年の声が聞こえた。
「兄さんが女性を連れているなんて珍しいですね」
「グクイエ」
慌てて視線を前に移動させると、向かいにはこれまた美しい青年の姿があった。丸い目で、ウサギのような愛らしい青年に目を奪われていると、そのうちジンテール王子が私を後ろから抱きしめる。
「こら、お前は私のものだぞ」
「え、ちょっと! 何するんですかっ」
私が慌てふためいていると、グクイエと呼ばれた青年は驚いた顔をする。
「なんだ、本当にジンテール兄さんの想い人なんだ?」
その言葉に、私が頬を赤らめるもの——ジンテール王子はかぶりを振る。
「違う、面白い生物を見つけたから、飼ってみることにしたんだ」
ジンテール王子の言葉に、私は凍りついた。
面白い生物って何? 飼うって……そんな、ペットみたいに。
ていうか、さっきのは愛の告白じゃなかったわけ!?
————これから君をたくさん甘やかしてとろかして、幸せにしてあげるから。
ジンテール王子の言葉を思い出して、私は絶句する。
「ちょっと待って、私はあなたのペットになったってこと?」
「そうだよ。私の可愛いケイラ。君ほど面白い生き物は他にいないよ」
「ぷっ」
呆然とする私の傍で、吹き出すグクイエという青年。
ジンテール王子の弟らしい彼はケラケラと笑いながら説明した。
「ちょっと兄さん、このお嬢さん固まってるよ。きっと何も知らないんだろうね、兄さんのこと——ごめんね、君。兄さんは有名な珍しい生き物の収集家なんだ」
「生き物の収集家!?」
私が思わず声をあげると、ジンテール王子は私をぎゅっと抱きしめたまま、甘く囁く。
「大丈夫、怖くないよ。これからたくさん可愛がってあげるからね」
聞きようによっては卑猥にも聞こえる言葉だけど、その真意がわかった以上、もう惑わされることはなかった。
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