アンチ悪役令嬢の私がなぜか異世界転生して変人王子に溺愛される話

悠木全(#zen)

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第一章

6.面白い生き物

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 ***


 
 私がいたキウイ王国の国境を越えると、石造の門を通り、私は別の国に入った。

 ジンテール王子の国だと言う。グレープ王国だそうだ。

 この世界はフルーツで出来ているのだろうか。ジンテール王子の馬に乗せられた私は、そんなしょうもないことを考える。
 
 妄想で現実逃避するのは得意だけど、なんで夢の中でまで妄想しなきゃいけないのだろう。

 そう、私はまだこれを夢だと思っていた。

 たとえ、首輪の冷たさが現実感を伴っていたとしても、これは絶対に現実だなんて私は認めないんだから。

 ましてや悪役令嬢の世界? 私の一番嫌いな世界に、なんで転生しなきゃいけないのよ。

 ゴォフの話を全部信じたわけじゃないけど、自分の置かれている状況が、ただごとではないことくらいはわかった。

 ちなみに私は、なぜかジンテール王子と一緒に馬に跨っており、その後ろで御者のいなくなった馬車をゴォフが操っていた。

 そんな感じで私たちは山道を進み、グレープ王国に繋がる門を越えると、城へと連れて行かれた。

 途中、街中を通ったりもしたけど、市場の人たちはまるで見知った人間のように、気さくにジンテール王子に話しかけていた。
 
 とても慕われているんだね……私に首輪を嵌めて連れていくような変態だけど。

 そして広い城下町を抜けると、城門にやってくる。

 城門は、ジンテール王子が指を鳴らしただけで、重い扉を開けた。

 なんだか魔法みたいだな、と思っていると——魔法だと言われた。

「ちょっとあなた、人の心が読めるの?」

「そういう顔をしていただろう?」

「そういう顔って……」

 ジンテール王子は不敵に笑う。

 その顔に、ドキリとしてしまう時点で、負けているように思えたけど、でもここで諦めるつもりもさらさらなかった。

 ————いつか絶対、逃げ出してやるんだから。

 私が固く決心する中、うまやに連れて行かれた私は、ゆっくりと馬を降りた。その時にさりげなく手を引いてくれたジンテール王子に、優しさみたいなものを感じたけど——私は気づかないふりをした。

 そして王城に入った私は、ジンテール王子にエスコートされながら、赤い絨毯が続く回廊を歩いた。回廊の壁には、たくさんの絵が飾られていた。

 私が絵に気を取られていると、そのうち回廊の向こうから柔らかい少年の声が聞こえた。

「兄さんが女性を連れているなんて珍しいですね」
 
「グクイエ」

 慌てて視線を前に移動させると、向かいにはこれまた美しい青年の姿があった。丸い目で、ウサギのような愛らしい青年に目を奪われていると、そのうちジンテール王子が私を後ろから抱きしめる。

「こら、お前は私のものだぞ」

「え、ちょっと! 何するんですかっ」
 
 私が慌てふためいていると、グクイエと呼ばれた青年は驚いた顔をする。

「なんだ、本当にジンテール兄さんの想い人なんだ?」 

 その言葉に、私が頬を赤らめるもの——ジンテール王子はかぶりを振る。

「違う、面白い生物を見つけたから、飼ってみることにしたんだ」

 ジンテール王子の言葉に、私は凍りついた。

 面白い生物って何? 飼うって……そんな、ペットみたいに。

 ていうか、さっきのは愛の告白じゃなかったわけ!? 


 ————これから君をたくさん甘やかしてとろかして、幸せにしてあげるから。

 
 ジンテール王子の言葉を思い出して、私は絶句する。

「ちょっと待って、私はあなたのペットになったってこと?」

「そうだよ。私の可愛いケイラ。君ほど面白い生き物は他にいないよ」

「ぷっ」

 呆然とする私の傍で、吹き出すグクイエという青年。

 ジンテール王子の弟らしい彼はケラケラと笑いながら説明した。

「ちょっと兄さん、このお嬢さん固まってるよ。きっと何も知らないんだろうね、兄さんのこと——ごめんね、君。兄さんは有名な珍しい生き物の収集家なんだ」

「生き物の収集家!?」

 私が思わず声をあげると、ジンテール王子は私をぎゅっと抱きしめたまま、甘く囁く。

「大丈夫、怖くないよ。これからたくさん可愛がってあげるからね」

 聞きようによっては卑猥にも聞こえる言葉だけど、その真意がわかった以上、もう惑わされることはなかった。

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