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第一章
14.戦禍の意志
しおりを挟む「え? ゴォフ? どうしてここに?」
「ルーがケイラ様の元に行くと言って聞かなくてですね。連れて参りました」
「ルー!」
「ゲコゲコ」
巨大なカエルの体を抱きしめた私は、匂いを嗅ぐように顔を埋めた。なんでこんなに安心するんだろう。やっぱりこの子を置いていくわけにはいかないよね。
「ありがとう、ルーを連れてきてくれて。まさかここが戦争になるなんて思わないわよね。早く国の外に行きましょう」
「そうですね。それが良いでしょう。王城はもう落とされたも同然ですし」
「……え?」
王城と聞いて、私はグクイエ王子やリビのことを思い出す。彼らは無事だろうか? 決して悪い人たちではなかったから、戦に巻き込まれてほしくはなかった。
「……ジンテール殿下はどうしてるの?」
「王子ですか? 存じませんが」
「ていうか、今どういう状況なの?」
「それが……攻め込んできたキウイ王国の敵兵が、盗んだ聖女を返してほしいとおっしゃっているようでして」
「盗んだ聖女? どういうこと?」
「どうやら、キウイ王国の聖女がこの国に捕らえられているようでして」
「キウイ王国の聖女? って、色素——メラニンだっけ?」
「いえ。キウイ王国には他にも聖女がいらっしゃるとかで。敵兵が聖女を探し回り、城は混乱を極めております」
「聖女……その人を返せば、キウイ王国の聖女は撤退してくれるの?」
「おそらく」
「だったら、探さなきゃ」
「え? ケイラ様?」
「だって、この国の人たちが可哀想だもの」
どうせ夢なんだし、好きなようにすればいいよね? 私は覚悟を決めると、王城の方へと視線を向けた。
すると、道の向こうからちょうど馬車がやってきて——御者をしていたゴリラン大司教が私の存在に気づいた。
「ケイラ様! どうなさいました?」
馬車を降りて駆け寄ってくるゴリラン大司教に、私は訊ねる。
「ねぇ、ゴリラン大司教。教えてほしいの。聖女様はどこにいるの?」
「聖女ですって? いったい、なんの話ですか?」
「実は、従僕のゴォフから聞いたんだけど——キウイ王国の兵士が、盗んだ自国の聖女を返してほしいと訴えているらしいの。きっと聖女様を返してあげれば、戦は終わるわ」
「なんですって!?」
「——で、聖女はどちらに?」
「……聖女、ですか」
「聖女が住んでいる場所とかあるんでしょう?」
「確かにございますが……現在は廃墟も同然です」
「どういうこと?」
「この国には残念ながら、聖女はいないのです」
「でも自国の聖女を誘拐したって……」
「それで、その話を告げた従僕はどちらに?」
「え? あれ? さっきまでここにいたんだけど」
気づくとゴォフはいなくなっていて、巨大なカエルだけが取り残されていた。ルーは静かにゲコゲコと鳴きながら、私の頭に顎を乗せてくる。
「えっと、この生き物は?」
「可愛いでしょ? ジンテール殿下のペットをもらったの」
「そうですか。ですが、カエルは馬車には乗りそうにないですね」
「ううん。乗らなくていいの」
「どういうことですか?」
「私、この子を連れて聖女を探してみます。そして聖女様を連れて王城に向かいます」
「何をおっしゃいますか! 王城は今戦の真っ只中で——」
「大丈夫よ。私には秘密兵器だってあるんだから。それより、この戦をなんとかしておさめないと——そうだ!」
「?」
「いざとなれば、私が盗まれた聖女のふりをすればいいんだわ」
「なにを!? そんなことをしても、すぐにバレてしまいますよ」
「いいのいいの。それよりも、王子たちを助けるのが大事だよ。ペット扱いとはいえ、一宿一飯の恩があるしね」
「ケイラ様」
「だから聖女が住んでいた廃墟とやらを教えてください」
「お待ちください」
「え?」
「私も参りましょう」
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