アンチ悪役令嬢の私がなぜか異世界転生して変人王子に溺愛される話

悠木全(#zen)

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第二章

25.不作法な来訪者

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「——ケイラ様、なんですかその格好は!」

 グクイエ王子との水遊びから部屋に戻るなり、恰幅の良いエプロンドレスの女性が声を荒げた。

 侍女長のリビである。

 ジンテール王子の恋人(?)ということで、大切にされている私は——噴水に落ちた旨を話すと、こってりしぼられた後、湯浴みで全身綺麗にしてもらった。

 そしてむきたての茹で卵のように綺麗になった私は、ベッドの上に寝転がり、またもや聖女の日記を開く。

 元々小説を読むのが好きだった私は、アコリーヌの日記がすっかり好物と化していた。

「あーあ、あと少しで終わるのね。残念だわ。でもまいっか……また繰り返し読めばいいものね」

 そんな風にベッドの上でダラダラしていると、ふいにドアをノックする音が聞こえた。
 
 けど、私は今アコリーヌの日記に夢中だし、邪魔をされたくないわけで……。

「はーい! ケイラは今いませーん!」

 思わずそんなことを言えば、そのうちノックが激しくなって、何かの曲のようにリズミカルな音をとりはじめた。

「なんなのよ、もう。面白いわね」

 リズミカルな音に釣られてドアに向かった私は、相手が誰かも聞かずにドアを開いた。

「はい、なんですか!?」

 すると、ドアの向こうには、どこかで見たことのある男の人が立っていた。

 ていうか、この人誰よ……筋肉質で、金髪の色男だけど、ジンテール王子には負けるわよね。

 なんて思っていると、男の人は一輪の赤い花を私に差し出した。

「今日もなんとお美しい」

「あ?」

 会ってそうそう寒気のする言葉に、私がドン引きしていると、男の人は持っていた花を私の耳元に差しこんだ。

 ていうか、勝手に触らないでよ。

「あの、どこかでお会いしたでしょうか?」

「もうお忘れですか? 私はあなたと会ってから、片時も忘れられないというのに」

「……はあ。で、どこで会ったの?」

 焦れったいのが嫌いな私が単刀直入に訊ねると、男の人はどこかいやらしい笑みを浮かべながら言った。

「本当は覚えていらっしゃるのではないですか? 私のような美貌を忘れるわけがないでしょう」

「そういうのを自意識過剰って言うわね」

 許してもいないのに、グイグイ迫ってくる男の人に、私はこれでもかと眉間を寄せて睨みつけてやる。すると、男の人は心底おかしそうに笑い始めた。

「あはは! 愛人が百人いるケイラ様には美貌だけでは通用しないということですか」

「愛人が百人!? 友達が百人じゃなくて!?」

「表向きはジンテール殿下一筋と聞いておりますが、私の前でまでそのようなふりをしなくても良いのですよ。全てわかっておりますゆえ」

「は!? あんたがあたしの何をわかっているっていうのよ」

「ですから、これから親密な時間をもって、貴方様のことをじっくりわかりたいのです」

「さっきから会話になってない気がするけど、あなたって通訳必要なの?」

「面白い御令嬢だ。今までさまざまな貴婦人を相手にしてきた私ですが、これほど胸が高鳴ったことはないでしょう」

「で、結局あなたは、どこの誰で、ここに何しに来たの? ことと次第によっちゃあ、衛兵を呼びますけど?」

「私はラビットソン・タナカです。執務官であるタナカを父に持つ、騎士であり伯爵位です」

「ラビットソン・タナカ! すごい名前ね。ていうか、あのおっさんにちっとも似てないじゃない」

「おかげさまで私は母親似ですので。それよりも、私が何をしに来たのかまだわかりませんか?」

「わからないわね。あなたとは初めて会ったわけだし」

「まだそんなことをおっしゃいますか。つれない御方だ。そんなところもそそられますが」

「とにかく、知らない男の人を部屋に入れるつもりはないから、帰ってちょうだい」

「またまた、そんなことを」

「そんなことじゃないわよ! こんなところ、ジンテール殿下に見られたくないのよ。あの人、普通に勘違いして笑って去りそうだし」

「それは、ジンテール殿下とはやはり不仲ということですか?」

「そうじゃないのよ。あの人はなんていうか、変な人なの! 普通に妬くだけならいいけど、そうはいかないのがあの人なのよ」

「では、ケイラ様はジンテール殿下に妬いていただきたいのですね?」

「まあ、たまにはそうね」

「でしたら、ジンテール殿下が妬くようなことをすれば良いではないですか」

「なんでそういう話になるのよ。そもそも、タナカの息子が私になんの用なの!?」

「もちろん、ケイラ様にお会いするためにやってまいりました」

「なんで!?」

「一目で恋に落ちたからですよ」

「はああああ!?」

 そこまで会話して、ようやく兎村ラビットソンがヤバいやつだということがわかった私だけど、気づいた頃には遅かった。

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