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第二章
43.聖女の悪巧み
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数日後、王国はジンテール王子不在のため、執務長のタナカが王子代理として働いていたけど、まるで自分が王族になったような態度のデカさで仕事にあたっていた。
それを見たグクイエ王子がなんとも言えない顔をしていたけど、グクイエ王子はジンテール王子のように内政に詳しいわけでもないから、口を出すことができないとか。
だから我が物顔で執務室を牛耳っているタナカを止められる人間は誰もいなかった。国王陛下もお年を召してらっしゃるしね。
そんな中、ジンテール王子がいない不安が、城下にも広がって——次代の王について議論されるようになっていた。
そして私はというと、相変わらずアコリーヌの日記ばかり読んでいて、現実逃避に走っていた。
けど————。
「さて、そろそろ動いてみようかしら?」
アコリーヌの日記を読み終えた私は、グクイエ王子のいる庭園の東屋に向かった。花壇に囲まれた東屋でお茶を飲んでいたグクイエ王子は、私を見て相変わらず屈託のない笑顔を浮かべる。
「ああ、ケイラ。どうしたの?」
「ちょっとアコリーヌ様のところに行こうと思うんだけど。ついてきてくれない?」
「アコリーヌ様のところって?」
「神殿よ。聖女が住まう神殿」
「あんなところになんの用があるの? 神殿といっても、今は廃れてしまっているのに」
「いいのよ。人のいない場所に行きたいだけだから」
「え?」
「とにかく! 馬車を用意するから、一緒に来てくれる?」
「いいよ。ケイラが行きたいところに、僕もお供するよ」
それから私たちは、馬車を使って森の奥深くを走り、古代の聖女の住処である神殿に赴いた。
途中、何度も視線を感じたことで、私の推測は確信に変わった。
これならきっと、計画はうまくいく——と思うけど。
「相変わらず、聖女の像がボロボロだね。予算をこちらにまわせないかな?」
「そうね。私がここで暮らすことになるのなら、綺麗にしてほしいところだけど——」
そんな風に、私とグクイエ王子が他愛のない話をしていたその時だった。
白い布をかぶった細い体躯の男たちが、私とグクイエ王子を取り囲んだ。
「なんだ!?」
グクイエ王子が私をかばうようにして前に出る中、男たちが剣を抜いた。剣先がいっせいに私の方に向かうと、グクイエ王子も腰の剣をゆっくりと抜く。
そんなグクイエ王子に、私は小さく告げた。
「お願い、ここで人を殺したりしないで。ここは聖女の聖域だから」
「……わかった」
それからグクイエ王子は白装束の男たちに立ち向かうけど——さすが魔王を倒しただけあって、強かった。
けど、私が殺さないでと言ったせいか、グクイエ王子は本気を出せなくて、そのうち剣を白装束に絡め取られてしまう。
————絶対絶命、そう思ったその時。
私たちの目の前に魔法陣が現れて、中からカエルのルーが出現した。
ルーは現れるなり、ゲコゲコと鳴いて白装束たちを手で払い除けていった。
「やっぱり、そうなんだわ」
「どうしたの、ケイラ?」
グクイエがきょとんとする中、私は大きく声を張り上げる。
「ジンテール殿下! 見てるんでしょ!? 早く出てきなさいよっ」
そう告げると、ルーがゲコゲコ言いながら、神殿の外に向かっていった。私たちもそれを追いかけると、ルーが一本の木に向かって長い舌を伸ばした。
見れば、木の後ろにジンテール王子の姿が。ルーにじゃれつかれて、戸惑った顔をしていた。
「ジンテール殿下!」
「兄さん!?」
ジンテール殿下は逃げようと踵を返すけど——その時、ジンテール王子の足元に魔法陣が浮かび上がる。
魔王を拘束した時よりも威力は弱いみたいだけど、人間を拘束するにはじゅうぶんな力だった。
魔法陣から動けなくなったジンテール王子は私を睨みつける。
「これは……どういうことだ?」
「ふふ、実は私たちを襲ったさっきの白装束の人たちは、ゴリラン大司教の元で修行している修道士さんなの」
私がそう告げると、神殿の中からゾロゾロと白い装束の男の人たちが現れる。彼らはこちらに向かってきながら口々に何かを唱えていた。
「どういうこと、ケイラ?」
グクイエ王子も驚きの目を私に向ける中——私は思っていることを口にした。
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