アンチ悪役令嬢の私がなぜか異世界転生して変人王子に溺愛される話

悠木全(#zen)

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第三章

67.卑屈な再会

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 きっかけは、聖女見習いのミナが森へ果物を狩りに出かけたことだった。

 夕方になっても一向に帰らないミナを心配して、司教見習いの子たちが探しに出かけた。

 それでも見つからなくて、とうとう私やゴリランも出動したのだけど。ミナが見つかったのは、明くる朝だった。

 大木の幹に張り付けるようにして、木の枝でぐるぐる巻きにされたミナは、息をしておらず。生きていないことはひとめでわかった。

 そしてそれが、魔王復活の予兆だということは誰の目にも明らかだった。

 こんなに早くその時が来るなんて、誰が思っただろうか。私がミナの棺に花を手向けている間も、魔王のことで頭がいっぱいだった。

 平和に浸りすぎたのかもしれない。もっときちんと警戒して、聖女に護衛の一人でもつけていれば、状況は変わっただろうか? そんなことを思っても、後の祭りだった。

 私は自分の至らなさを悔しく思いながらも、土に埋めるミナをどうすることもできなかった。

 私の血で生き返るなら、喜んで捧げるけど、そんなことをしても何にもならないことはわかっていた。

 森に果物を狩りに行ったのが、私だったならきっとなんとか出来たはずなのに——そんなことばかり思って、私はいつしか魔王に怒りを燃やすようになった。

 そしてその傍ら、いつもなら真っ先に声をかけてくれたゴリランが、執務室に一人閉じこもるようになった。

 けど、私はそのことに疑問を持つこともなく、魔王と戦うことばかり考え、そしてこれ以上の犠牲を増やさないよう、他の聖女たちに魔王と戦う術を教えた。

 魔王と戦うと言っても、私たちには歌うことしかできないのだけど……。

 また今回聖女のミナが犠牲になったことは、大司教が王宮にも報告したらしい。今までずっと顔を出さなかったグクイエ王子が、神殿に飛んできた。

「アコリーヌ!」

「あら、グクイエ殿下。久しぶりですね」

 少し大人びたグクイエ王子は、立派な青年という感じで、少し甘酸っぱい気持ちになったけど、今はそれどころじゃないと自分をたしなめて、形式的な笑みを浮かべた。

 すると、グクイエ王子は私に向かって伸ばしかけた手を引っ込めると、苦しそうに笑った。

「三年ぶり、かな? すっかり綺麗になったね、アコリーヌ」

「お世辞を言っている場合じゃないですわ」

「……そうだね。魔王が復活したと聞いたよ。聖女の一人が……その手にかかったと」

「まだ、魔王が完全に復活したかどうかはわからないですが、魔王の匂いが確かにしました」

「それで、どうするつもり?」

「もちろん、今度こそ封印ではなく、存在を滅します。そのために聖女をたくさん生み出しましたから」

「僕にできることはない?」

「今は御身を大切にしてください。あなた様は国の中枢を担う大切な存在なのですから」

「アコリーヌは冷たいね」

「本当のことを言っているだけです。あなた様に何かあれば、きっと国民が私を許しませんから」

「……それでも僕は、君と共に戦いたいんだ」

 昔と違って、迷いがちなその声に、私はため息を吐くしかなかった。きっと戦いたいというのは本音だろうけど、グクイエ王子の身に何かあれば、神殿の権威に傷がつくだろう。

 そのことをわかっているだけに、強くは言えない様子だった。それだけ私たちは大人になってしまったのだ。

 だから、私は一人で戦うことを決めた。

「大丈夫です。グクイエ殿下のお手を煩わせたりはしませんわ。どうか殿下は私が勝つことだけを祈ってください」

 私が強気の笑みを浮かべると、グクイエ王子は目を細めて辛そうな顔をする。

 グクイエ王子の気持ちはわかっていたけど、一緒に手をとって戦えるほど、私も無鉄砲な人間ではなくなってしまったのだ。

 そんな風に私が突き放すと、グクイエ王子はふらふらと私の方に寄ってきて——私を抱きすくめた。

 その意外な行動に驚いていると、グクイエ王子は何度も耳元で私の名を呼んだ。
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