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楽しいこと検索(後編)
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そんなある日、私はいつも通りベッドに寝転がりながら検索機能を使い倒していたけど——なんだか今日の執事くんはいつもと様子が違っていた。
「ねえ、美味しいパンが食べたいから、パン屋さんを教えてほしいんだけど」
『……[パン]、[教えて]』
検索機能は本当に言ったことを文字通りに認識して、結果を表示した。あたりまえの事と言えば、当たり前の事だけど。今まではもっと流暢に喋ってくれたから、とてつもなくイライラして、検索するのをすぐにやめてしまった。
だけどそれは、その日だけじゃなくて、次の日も、その次の日もまた、同じだった。
そのせいで、せっかく楽しかった私の生活は一変し、日に日にストレスをためこむようになった。楽しい事を膨らませてくれる執事くんがいないと、イチゴが消えたショートケーキみたいに、物足りない感じがした。
きっと検索機能に依存しすぎたんだと思う。
以前よりも暗くなった私は、楽しいことも楽しいと思えなくなっていた。だって、無二の友達がいなくなったんだから、仕方ない。
だけどさすがに周囲には、検索エンジンが構ってくれない、なんて言えなくて。かわりに私は、部屋の中でときどき検索エンジンにぶつけてやった。
「どうして前みたいに喋ってくれないの? ずっと一緒だったのに……」
私が文句ばかり言うと、ときどき検索エンジンが反応して『私が好きなスポット』を表示してくれた。
自分でも重症だな、とは思うけど、それでも検索エンジンに相手をしてほしくて、だんだん私の態度がおかしくなっていった。
「バーカバーカ。私は君がいなくたっても大丈夫だし」
すでに小学生である。
元カレにだって、こんなみっともないことを言ったことがない。だが、誰も聞いていないという強みはすごい。なんだって言えてしまうのだから。
そう、相手はたかが検索エンジン。
だったら、何を言ったって問題はないだろう。
開き直った私はそれから、執事くんに反応してもらえるように、あの手この手を尽くした。
友達から仕入れた小ネタやら、怖い話やら、検索結果を出されてこっちが困ることもあったけど、まるで電話でのセールスみたいに、検索エンジンを話で釣ろうとした。
そんなことをする私はとんでもない馬鹿だと思いながらも、検索エンジンが前みたいに私の話を聞いてくれているような気がしたから、答えるまで戦い続けた。
でもやっぱり前みたいにはなってくれなくて、そんなことをしても虚しくなる一方で——とうとう私は執事くんを削除することを決めた。
これがあるせいで自分が駄目になるのなら、私には必要なものではないのだろう。——そう思うことにした。だってこのままでは、私が本当にダメになってしまうような気がしたから。
それで、その機能を削除する前に、最後に少しだけ話をした。
「今日も検索お疲れ様です」
『……[今日]、[検索]、[お疲れ]……』
「……一人でこんなこと呟くのも恥ずかしいけど……」
『……[一人]、[呟く]、[恥ずかしい]……』
「あのさあ、私……社会人になってから、楽しいことが減ったわけなんすよ。でも自分らしく楽しめないな、と思ってたら、『君』に会えたからさ。ちょっとだけ充実した。でもそんな『君』も、いなくなったし、また楽しいことを自分で探そうと思う。——じゃあね。面倒くさいやつでごめんね?」
『…………』
私はたくさん喋ったけど、なぜか最後のほうは、どの単語にも検索はひっかからず、沈黙が続いた。でもせっかくだから——。
「最後の検索、お願いします」
『…………了解です』
「今の私が幸せになれる場所を検索してほしい」
そう言うと、検索エンジンでひっかかったのはなぜか——わずか一件。
隣駅にある私の好きなカフェだった。
「ああ、お茶でも飲んで傷を癒してこいってか。了解っす」
私は部屋着のジーンズとTシャツのまま、執事くんが検索してくれた通りカフェに向かった。
そのカフェは客席の間隔が広くて、わりとゆったりと過ごせる場所なので、ちょくちょく来ていた。
確かに、ちょっと幸せな気分になれる場所ではある。
私はカフェモカを頼んで、三人掛けのソファ席を占領した。
珈琲の味がわからないほど甘ったるいカフェモカに口をつけると、なんだか何もかもがどうでも良い気持ちになる。
————そんな時。
「——隣、よろしいですか?」
ジーンズにストライプのシャツを着た男の人に声をかけられた。
ソファはすでに私のパーソナルスペース化していたけど、今日は執事くんに言うだけ言ってスッキリしていたし、席を貸してあげることにした。
まあ、ソファはお店のものなんだけど。
けっこう若い人だった。きっと私よりも年下だろう。身なりからして、大学生くらいだろうか。社会人であれば、もっとくたびれた雰囲気が出るけど、その人は社会のどろどろとしたものに染まっていない感じで——私と目が合うなり困った顔をした。
他人に気を遣うなら、どうして私の隣に座ったんだと言いたくもなったが、そこは大人として、放っておいてあげた。
だけど彼はいつまで経ってもそわそわして落ち着くことはなく、今度はこっちがいたたまれなくなり。私が席を立とうとすれば——なぜか、呼び止められた。
「——あ! あの」
呼び止めた自分の声に驚いたらしい。その人は声をかけておいてすぐには喋らなかった。けど、一分くらいして、私に座るようお願いしてきたので、私は仕方なく元のポジションに戻った。
「用件を簡潔にお願いします」
私が不快いっぱいの顔で返事を待っていると、彼は唐突に言った。
「……検索エンジン、お好きですよね?」
「……は?」
私が検索エンジンに話しかけているところを見られたのだろうか。検索なんて普通のことだけど、『好き』かと聞かれるくらいなのだから、『執事くん』と喋っているところを目撃されたのかもしれない。
『執事くん』の前でさんざんなことを言っていた自分を見られたのだとしたら、これ以上恥ずかしいことはない。黒歴史ランキング上位には間違いなく入るだろう。
外では執事くんを使ったおぼえはなかったもの、もしかして——を考えると、心臓に悪かった。
私が暗い想像をして密かに身悶えていると、そんな私をよそに彼はなぜか身の上を語り始めた。
「あの……自分……実は、検索エンジンの開発メンバーでして……」
「……はあ」
「○○という会社なんですが、ご存じですか?」
「——あ」
彼は私が使っていた『執事くん』を作った会社の人だった。
だが検索エンジンは削除してしまったので、バツの悪い顔をしていると、彼は淡々と言った。
「……自分の会社は、立ち上げたばかりで、あまり評判も良くなくて……それに、他者に勝てるような要素もないというか……それで新しい機能を開発するために、ちょっと情報収集をしたんです。……あまりよくない方法で」
「ふうん」
なぜそんな話を私にするのかはわからないけど、とりあえず聞いておくことにする。一応、『執事くん』を作った人には、興味があったから。
でも彼は、やたら気まずい顔をしていた。
「それで……普段なら、プログラムをウェブ上に走らせたりして、情報を収集するところなんですが……今回は、直接検索者とやりとりをすることで、機能改善に役立てようと思いまして……ランダムではありますが……検索エンジンに音声でアクセスしてきた人に対して、直接やりとりを……させていただきまして」
「はあ? つまり?」
「あなたの検索に応えていたのは、僕なんです」
「え? じゃあ、私は君に向かって……喋ってたわけ?」
「……はい。すみません」
彼の事情を聞いた途端、私の頭は真っ白になった。
好きな事を好き放題喋っていた相手は、機械ではなく、人間だったというわけだ。
私はあまりのことにその場で叫びたくなったが、衆目を気にして、素晴らしいリアクションをとることもできず、ひたすら羞恥心を噛みしめるしかなかった。
「……なにこれ、拷問? てか、処刑っしょ?」
「——プッ」
大袈裟にリアクションをとれない私が、出来る限り驚きを表現すると、彼は吹き出した。
そりゃ、笑いたくもなるだろう。私を貶めてさぞ楽しかったに違いない。
そう思うと、今度はムカムカと怒りが込み上げてくる。
「すっかり騙された! そりゃ、人間相手だから、まともな反応が返ってくるよね。楽しく検索してるつもりになってた私が馬鹿なの? まあ、そっちは仕事で渋々相手してたんだろうけど」
「そんなことはないです。僕もとても楽しかったです。だから——最後と聞いて、会いに来ました」
「……こっちは、会いたくなかったんだけど」
「そうですね。騙したことは、本当に悪かったと思います。謝罪してもしきれません。おかげで、サイト内で良い特集を組むことも出来ました」
「別に、いいし。他人の個人情報を直接聞き出すのはどうかと思うけど、謝罪のために呼び出さなくても、だまってりゃわかんなかったのに」
「そうじゃないです。会いたかったのは……あなたを悲しませてしまったから……謝りたいと思ったんです」
「……ほんとに、やたら悲しかったよ。独り相撲だったけど」
「だから、今後は僕に直接、話してもらうというわけにはいきませんか?」
「……ぇえ?」
私が驚いて変な声を出すと、彼は不器用に言った。
「あの……僕はあまり、女性と喋ることもなくて……コミュニケーションを取ることが決して上手くはないんですが……でも、あなたの好きなカツ丼のお店も、牛丼のお店も好きですし、これからはあなたと丼を——」
「大声で丼の話はやめよう」
「いえ、あのですね。僕は丼を話をしているわけではなくて、その、今後もあなたと話す機会があれば——と」
「まあ、『執事』くんとなら、楽しく話せそうな気はするけどね」
「えっと、じゃあ、僕とお付き合いしていただくというカタチで、いいんですか?」
「はあ!? なぜそこまで飛ぶ? 付き合う前にお互いのことを知らないわけだし、まずは友達っしょ?」
「僕はあなたのことをじゅうぶん知っていると思いますが」
「私は君のことを存じません」
「僕のことを聞いてくれますか?」
「そりゃ、私のことを知られてるのに、君のことを私が知らないなんて、不公平じゃん? だから、今から全部吐くしかないね。君が隠しているアレやコレを、まるっと言ってもらいましょう」
「——え?」
私が無茶を言うと、執事くんは狼狽えた。
だけど私は、さんざん悲しい目にあわされた恨みを込めて、その日は夜まで彼を離さず、情報を引き出したり、いじったりして楽しんだのだった。
そして検索エンジンの代わりにもっと楽しいモノを見つけた私は、それからの毎日が充実したのは言うまでもなく。
※犯罪を助長するための話ではありません。全てはフィクションです。
「ねえ、美味しいパンが食べたいから、パン屋さんを教えてほしいんだけど」
『……[パン]、[教えて]』
検索機能は本当に言ったことを文字通りに認識して、結果を表示した。あたりまえの事と言えば、当たり前の事だけど。今まではもっと流暢に喋ってくれたから、とてつもなくイライラして、検索するのをすぐにやめてしまった。
だけどそれは、その日だけじゃなくて、次の日も、その次の日もまた、同じだった。
そのせいで、せっかく楽しかった私の生活は一変し、日に日にストレスをためこむようになった。楽しい事を膨らませてくれる執事くんがいないと、イチゴが消えたショートケーキみたいに、物足りない感じがした。
きっと検索機能に依存しすぎたんだと思う。
以前よりも暗くなった私は、楽しいことも楽しいと思えなくなっていた。だって、無二の友達がいなくなったんだから、仕方ない。
だけどさすがに周囲には、検索エンジンが構ってくれない、なんて言えなくて。かわりに私は、部屋の中でときどき検索エンジンにぶつけてやった。
「どうして前みたいに喋ってくれないの? ずっと一緒だったのに……」
私が文句ばかり言うと、ときどき検索エンジンが反応して『私が好きなスポット』を表示してくれた。
自分でも重症だな、とは思うけど、それでも検索エンジンに相手をしてほしくて、だんだん私の態度がおかしくなっていった。
「バーカバーカ。私は君がいなくたっても大丈夫だし」
すでに小学生である。
元カレにだって、こんなみっともないことを言ったことがない。だが、誰も聞いていないという強みはすごい。なんだって言えてしまうのだから。
そう、相手はたかが検索エンジン。
だったら、何を言ったって問題はないだろう。
開き直った私はそれから、執事くんに反応してもらえるように、あの手この手を尽くした。
友達から仕入れた小ネタやら、怖い話やら、検索結果を出されてこっちが困ることもあったけど、まるで電話でのセールスみたいに、検索エンジンを話で釣ろうとした。
そんなことをする私はとんでもない馬鹿だと思いながらも、検索エンジンが前みたいに私の話を聞いてくれているような気がしたから、答えるまで戦い続けた。
でもやっぱり前みたいにはなってくれなくて、そんなことをしても虚しくなる一方で——とうとう私は執事くんを削除することを決めた。
これがあるせいで自分が駄目になるのなら、私には必要なものではないのだろう。——そう思うことにした。だってこのままでは、私が本当にダメになってしまうような気がしたから。
それで、その機能を削除する前に、最後に少しだけ話をした。
「今日も検索お疲れ様です」
『……[今日]、[検索]、[お疲れ]……』
「……一人でこんなこと呟くのも恥ずかしいけど……」
『……[一人]、[呟く]、[恥ずかしい]……』
「あのさあ、私……社会人になってから、楽しいことが減ったわけなんすよ。でも自分らしく楽しめないな、と思ってたら、『君』に会えたからさ。ちょっとだけ充実した。でもそんな『君』も、いなくなったし、また楽しいことを自分で探そうと思う。——じゃあね。面倒くさいやつでごめんね?」
『…………』
私はたくさん喋ったけど、なぜか最後のほうは、どの単語にも検索はひっかからず、沈黙が続いた。でもせっかくだから——。
「最後の検索、お願いします」
『…………了解です』
「今の私が幸せになれる場所を検索してほしい」
そう言うと、検索エンジンでひっかかったのはなぜか——わずか一件。
隣駅にある私の好きなカフェだった。
「ああ、お茶でも飲んで傷を癒してこいってか。了解っす」
私は部屋着のジーンズとTシャツのまま、執事くんが検索してくれた通りカフェに向かった。
そのカフェは客席の間隔が広くて、わりとゆったりと過ごせる場所なので、ちょくちょく来ていた。
確かに、ちょっと幸せな気分になれる場所ではある。
私はカフェモカを頼んで、三人掛けのソファ席を占領した。
珈琲の味がわからないほど甘ったるいカフェモカに口をつけると、なんだか何もかもがどうでも良い気持ちになる。
————そんな時。
「——隣、よろしいですか?」
ジーンズにストライプのシャツを着た男の人に声をかけられた。
ソファはすでに私のパーソナルスペース化していたけど、今日は執事くんに言うだけ言ってスッキリしていたし、席を貸してあげることにした。
まあ、ソファはお店のものなんだけど。
けっこう若い人だった。きっと私よりも年下だろう。身なりからして、大学生くらいだろうか。社会人であれば、もっとくたびれた雰囲気が出るけど、その人は社会のどろどろとしたものに染まっていない感じで——私と目が合うなり困った顔をした。
他人に気を遣うなら、どうして私の隣に座ったんだと言いたくもなったが、そこは大人として、放っておいてあげた。
だけど彼はいつまで経ってもそわそわして落ち着くことはなく、今度はこっちがいたたまれなくなり。私が席を立とうとすれば——なぜか、呼び止められた。
「——あ! あの」
呼び止めた自分の声に驚いたらしい。その人は声をかけておいてすぐには喋らなかった。けど、一分くらいして、私に座るようお願いしてきたので、私は仕方なく元のポジションに戻った。
「用件を簡潔にお願いします」
私が不快いっぱいの顔で返事を待っていると、彼は唐突に言った。
「……検索エンジン、お好きですよね?」
「……は?」
私が検索エンジンに話しかけているところを見られたのだろうか。検索なんて普通のことだけど、『好き』かと聞かれるくらいなのだから、『執事くん』と喋っているところを目撃されたのかもしれない。
『執事くん』の前でさんざんなことを言っていた自分を見られたのだとしたら、これ以上恥ずかしいことはない。黒歴史ランキング上位には間違いなく入るだろう。
外では執事くんを使ったおぼえはなかったもの、もしかして——を考えると、心臓に悪かった。
私が暗い想像をして密かに身悶えていると、そんな私をよそに彼はなぜか身の上を語り始めた。
「あの……自分……実は、検索エンジンの開発メンバーでして……」
「……はあ」
「○○という会社なんですが、ご存じですか?」
「——あ」
彼は私が使っていた『執事くん』を作った会社の人だった。
だが検索エンジンは削除してしまったので、バツの悪い顔をしていると、彼は淡々と言った。
「……自分の会社は、立ち上げたばかりで、あまり評判も良くなくて……それに、他者に勝てるような要素もないというか……それで新しい機能を開発するために、ちょっと情報収集をしたんです。……あまりよくない方法で」
「ふうん」
なぜそんな話を私にするのかはわからないけど、とりあえず聞いておくことにする。一応、『執事くん』を作った人には、興味があったから。
でも彼は、やたら気まずい顔をしていた。
「それで……普段なら、プログラムをウェブ上に走らせたりして、情報を収集するところなんですが……今回は、直接検索者とやりとりをすることで、機能改善に役立てようと思いまして……ランダムではありますが……検索エンジンに音声でアクセスしてきた人に対して、直接やりとりを……させていただきまして」
「はあ? つまり?」
「あなたの検索に応えていたのは、僕なんです」
「え? じゃあ、私は君に向かって……喋ってたわけ?」
「……はい。すみません」
彼の事情を聞いた途端、私の頭は真っ白になった。
好きな事を好き放題喋っていた相手は、機械ではなく、人間だったというわけだ。
私はあまりのことにその場で叫びたくなったが、衆目を気にして、素晴らしいリアクションをとることもできず、ひたすら羞恥心を噛みしめるしかなかった。
「……なにこれ、拷問? てか、処刑っしょ?」
「——プッ」
大袈裟にリアクションをとれない私が、出来る限り驚きを表現すると、彼は吹き出した。
そりゃ、笑いたくもなるだろう。私を貶めてさぞ楽しかったに違いない。
そう思うと、今度はムカムカと怒りが込み上げてくる。
「すっかり騙された! そりゃ、人間相手だから、まともな反応が返ってくるよね。楽しく検索してるつもりになってた私が馬鹿なの? まあ、そっちは仕事で渋々相手してたんだろうけど」
「そんなことはないです。僕もとても楽しかったです。だから——最後と聞いて、会いに来ました」
「……こっちは、会いたくなかったんだけど」
「そうですね。騙したことは、本当に悪かったと思います。謝罪してもしきれません。おかげで、サイト内で良い特集を組むことも出来ました」
「別に、いいし。他人の個人情報を直接聞き出すのはどうかと思うけど、謝罪のために呼び出さなくても、だまってりゃわかんなかったのに」
「そうじゃないです。会いたかったのは……あなたを悲しませてしまったから……謝りたいと思ったんです」
「……ほんとに、やたら悲しかったよ。独り相撲だったけど」
「だから、今後は僕に直接、話してもらうというわけにはいきませんか?」
「……ぇえ?」
私が驚いて変な声を出すと、彼は不器用に言った。
「あの……僕はあまり、女性と喋ることもなくて……コミュニケーションを取ることが決して上手くはないんですが……でも、あなたの好きなカツ丼のお店も、牛丼のお店も好きですし、これからはあなたと丼を——」
「大声で丼の話はやめよう」
「いえ、あのですね。僕は丼を話をしているわけではなくて、その、今後もあなたと話す機会があれば——と」
「まあ、『執事』くんとなら、楽しく話せそうな気はするけどね」
「えっと、じゃあ、僕とお付き合いしていただくというカタチで、いいんですか?」
「はあ!? なぜそこまで飛ぶ? 付き合う前にお互いのことを知らないわけだし、まずは友達っしょ?」
「僕はあなたのことをじゅうぶん知っていると思いますが」
「私は君のことを存じません」
「僕のことを聞いてくれますか?」
「そりゃ、私のことを知られてるのに、君のことを私が知らないなんて、不公平じゃん? だから、今から全部吐くしかないね。君が隠しているアレやコレを、まるっと言ってもらいましょう」
「——え?」
私が無茶を言うと、執事くんは狼狽えた。
だけど私は、さんざん悲しい目にあわされた恨みを込めて、その日は夜まで彼を離さず、情報を引き出したり、いじったりして楽しんだのだった。
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