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ツイてる?
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『乙女座のあなた! 今日はツイてツイてツキまくっているでしょう!』
リビングのテレビから流れてきたのは、ニュース番組の星座占いだった。
そんなものを俺——御堂智紀は信じていないが、良い内容であれば気分が上がるというものだ。しかも今日は庶務課の田中さんとデートなのだ。この先良い関係になるためにも、今日は絶対に悪いところは見せられないのである。
だが俺は知らなかった。この時の星座占いが、今日の俺の運命をどれほど狂わせることになるかを……。
土曜日の朝ということもあり、街中は人が少ない。オフィス街というほどではないが、商業施設の少ない道は、閑散としていた。
と、その時。ふいに前を歩く人がマフラーを落としていることに気づいて、俺はそれを拾い上げる。すると、前を歩いていた女性が振り返った。
「あの、落としましたよ」
俺がすかさずマフラーを手渡すと、妙齢の女性はうるんだ目で俺を見上げた。
「まあ! なんて紳士かしら。そのマフラーは大切な人から貰った大切なものなのよ。ありがとう、お礼にお茶をご馳走したいわ」
大切な人から貰ったマフラーを落とすなよ、と思わずツッコミたくなる俺だったが、あえて笑顔で「大したことじゃないですから、お礼は不要です」と対応すると、彼女はますます目を輝かせた。
「なんて謙虚! 今時の子とは思えないわ。ねぇ、あなた、うちの娘なんてどうかしら?」
言って、彼女はいきなりスマホを見せつけてきた。そこには可愛らしいお嬢さんが写っていたが、俺は丁重にお断りをした。だがそれからも女性は食い下がって、お礼がしたいといって聞かないので、仕方なくお茶をごちそうになったのだった。
待ち合わせよりも三時間早く出て正解だった。
女性が離してくれた頃には、四十分が経過していた。
そして気を取り直して街中を歩いていると、今度は謎の黒服集団が俺の元にやってくる。そして黒服の中心にいた女性が、俺の前に立ってサングラスを持ち上げた。
「ねぇ、君。モデルになる気はないかしら?」
「は?」
「君ならビッグになれると思うわ。ねぇ、どこの事務所とも契約していないなら、うちに来なさい」
「いや、俺はモデルになるつもりはありません」
「なら、今から撮影に来ない? 一日だけ参加してくれたら、謝礼を弾むわ」
「いえ、急いでますので」
俺は先に進もうとするが、そんな俺に縋りついてきた黒スーツの女性。
引きずられるようにしてついてくるので、俺はため息を吐いて尋ねる。
「申し訳ないですけど、これからデートなんです。邪魔しないでくれませんか?」
「君みたいな逸材はなかなかいないと思うのよ! ねぇ、お願い! せめて一時間——いや、三十分だけでもお願いできないかしら?」
「……三十分なら」
あまりの必死さに負けた俺は、仕方なく黒スーツの女性についていったが。
結局、化粧なども入れたら、三十分では終わらず、一時間半かかったのだった。
その後化粧を落とさずに待ち合わせ場所に向かった俺だが。
綺麗にしてもらったせいか、街中で声をかけられまくり、しかもスカウトの嵐に遭って、さらには迷子の子供を交番に届けたら謝礼を貰った。
そんなこんなで残り十分というところで、俺はようやく待ち合わせ場所の招き猫の銅像前にやってきた。
綺麗なワンピースを着た彼女を見た瞬間、俺は手を上げるが——ちょうどその時、何者かが後ろで奇声をあげた。何事かと振り返ってみれば、四十代前半くらいの男がナイフを振り回していた。
これでも柔剣道の有段者である俺は、咄嗟に男を取り押さえる。周囲から拍手喝采が巻き起こる中、そこに警察が駆けつけた。そしてそのまま帰れるかと思いきや——警官に事情を聞きたいと言われ、連れていかれたのだった。
————ああ、今日のデートは終わった。
警察から解放されるまでに、二時間かかった俺は、期待しないながらも待ち合わせ場所に向かった。すると、なぜか田中さんが笑顔で待っていた。
「て、天使がいる……」
すでにヨレヨレになった俺が、慌てて駆けつけると、田中さんは優しい笑顔で迎えてくれた。
「こんなに遅くなってすみません……」
「暴漢を取り押さえるところ、見てました! すごく格好良かったです!」
頬を染めて興奮気味に言う田中さんに、俺は泣きそうになる。
今日初めて、自分がツイていると実感した瞬間だった。
リビングのテレビから流れてきたのは、ニュース番組の星座占いだった。
そんなものを俺——御堂智紀は信じていないが、良い内容であれば気分が上がるというものだ。しかも今日は庶務課の田中さんとデートなのだ。この先良い関係になるためにも、今日は絶対に悪いところは見せられないのである。
だが俺は知らなかった。この時の星座占いが、今日の俺の運命をどれほど狂わせることになるかを……。
土曜日の朝ということもあり、街中は人が少ない。オフィス街というほどではないが、商業施設の少ない道は、閑散としていた。
と、その時。ふいに前を歩く人がマフラーを落としていることに気づいて、俺はそれを拾い上げる。すると、前を歩いていた女性が振り返った。
「あの、落としましたよ」
俺がすかさずマフラーを手渡すと、妙齢の女性はうるんだ目で俺を見上げた。
「まあ! なんて紳士かしら。そのマフラーは大切な人から貰った大切なものなのよ。ありがとう、お礼にお茶をご馳走したいわ」
大切な人から貰ったマフラーを落とすなよ、と思わずツッコミたくなる俺だったが、あえて笑顔で「大したことじゃないですから、お礼は不要です」と対応すると、彼女はますます目を輝かせた。
「なんて謙虚! 今時の子とは思えないわ。ねぇ、あなた、うちの娘なんてどうかしら?」
言って、彼女はいきなりスマホを見せつけてきた。そこには可愛らしいお嬢さんが写っていたが、俺は丁重にお断りをした。だがそれからも女性は食い下がって、お礼がしたいといって聞かないので、仕方なくお茶をごちそうになったのだった。
待ち合わせよりも三時間早く出て正解だった。
女性が離してくれた頃には、四十分が経過していた。
そして気を取り直して街中を歩いていると、今度は謎の黒服集団が俺の元にやってくる。そして黒服の中心にいた女性が、俺の前に立ってサングラスを持ち上げた。
「ねぇ、君。モデルになる気はないかしら?」
「は?」
「君ならビッグになれると思うわ。ねぇ、どこの事務所とも契約していないなら、うちに来なさい」
「いや、俺はモデルになるつもりはありません」
「なら、今から撮影に来ない? 一日だけ参加してくれたら、謝礼を弾むわ」
「いえ、急いでますので」
俺は先に進もうとするが、そんな俺に縋りついてきた黒スーツの女性。
引きずられるようにしてついてくるので、俺はため息を吐いて尋ねる。
「申し訳ないですけど、これからデートなんです。邪魔しないでくれませんか?」
「君みたいな逸材はなかなかいないと思うのよ! ねぇ、お願い! せめて一時間——いや、三十分だけでもお願いできないかしら?」
「……三十分なら」
あまりの必死さに負けた俺は、仕方なく黒スーツの女性についていったが。
結局、化粧なども入れたら、三十分では終わらず、一時間半かかったのだった。
その後化粧を落とさずに待ち合わせ場所に向かった俺だが。
綺麗にしてもらったせいか、街中で声をかけられまくり、しかもスカウトの嵐に遭って、さらには迷子の子供を交番に届けたら謝礼を貰った。
そんなこんなで残り十分というところで、俺はようやく待ち合わせ場所の招き猫の銅像前にやってきた。
綺麗なワンピースを着た彼女を見た瞬間、俺は手を上げるが——ちょうどその時、何者かが後ろで奇声をあげた。何事かと振り返ってみれば、四十代前半くらいの男がナイフを振り回していた。
これでも柔剣道の有段者である俺は、咄嗟に男を取り押さえる。周囲から拍手喝采が巻き起こる中、そこに警察が駆けつけた。そしてそのまま帰れるかと思いきや——警官に事情を聞きたいと言われ、連れていかれたのだった。
————ああ、今日のデートは終わった。
警察から解放されるまでに、二時間かかった俺は、期待しないながらも待ち合わせ場所に向かった。すると、なぜか田中さんが笑顔で待っていた。
「て、天使がいる……」
すでにヨレヨレになった俺が、慌てて駆けつけると、田中さんは優しい笑顔で迎えてくれた。
「こんなに遅くなってすみません……」
「暴漢を取り押さえるところ、見てました! すごく格好良かったです!」
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今日初めて、自分がツイていると実感した瞬間だった。
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