闇鍋という名の短編集

悠木全(#zen)

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何もなくても何かある

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 高校生になってから何かと世話を焼いてくれる委員長。真面目でサラサラロングヘアが綺麗な彼女のことを密かに想っている僕は、なんとか二人っきりのデートにまでこぎつけることができた。
 誘うのは簡単だった。遊園地のパスポートを二枚ゲットしたので、一緒に来てほしいと言ったのだ。もちろん、それだけだと下心が見え見えなので、ちゃんと「僕には友達がいないので」って付け加えた。優しい彼女なら、同情してくれると思っていた。これほど自分に友達がいないことをラッキーだと思ったことはないだろう。
 もちろん、遊園地のパスポートを貰ったというのも大嘘だった。やっぱり恋愛の駆け引きといえば、アレしかないだろう。

 その名も、吊り橋効果大作戦である。

 某遊園地は絶叫系の乗り物が最悪に恐ろしいとの噂なので、あえてそこを選んだのである。だが委員長——サクラさんは遊園地の名前を聞いても全く動じなかった。まさか、あの有名な遊園地を知らないとは言わないよね?
 なんて、いろんなことを思いながらも、デート当日はあっという間にやってきた。
 よく晴れた秋の休日は、最高の絶叫マシン日和に違いない。

 僕が遊園地のエントランスで意気込んでいると、そこにサクラさんがやってくる。彼女は薄いセーターにパンツルックだった。長い髪は一つにまとめていて、それはそれでいいと思う。

満留みつるくん、待った?」

 サクラさんに名前を呼ばれて、思わずだらしない顔になる僕だけど、慌ててかぶりを振って立て直した。

「サクラさんはなんでも似合いますね」

「あはは、何言ってんの。満留みつるくんも可愛いよ」

「え、かわ……」 

 イケメン雑誌を見て研究した結果、シャツにパンツというお決まりの服装になったけど、まさか可愛いと言われるとは思わなかった。少しだけショックを受けた僕だけど、それでもダサいと言われるよりはマシだと思うことにした。

「サクラさん、最初は何に乗ります?」

 園内に入った僕は、さっそくサクラさんに乗り物のことを振った。コーヒーカップなどと言われたらどうしようと思っていると、サクラさんは近くのデカい絶叫マシンを指さした。
 その名も『天まで轟けコノヤロウ』という名の、乗り物だった。高層ビル並みに高いところまで登って落ちてくる乗り物だった。
 まさか最初にそれを選ぶとは思わず、僕は思わず口を開けて乗り物を見上げた。わざとらしいくらい凄まじい悲鳴と轟音に、僕は少しだけ……ほんのちょっとだけ、ビビった。

 そして、いざ出陣! ——してみたら、

「ぎぃいいいやああああ」

「きゃー、楽しい!」

「うおわぁああああああ」

「満留くん、おもしろーい」

 サクラさんは強かった。吊り橋効果どころか、心臓に毛が生えているんじゃないかというレベルの猛者だった。逆に僕は一度目にして吐き気をもよおし、ベンチで寝転がった。吊り橋効果を発揮するには、僕も強くなくてはいけなかったのである。そんな当たり前のことに今更気づいた僕は、なさけないやら、かなしいやらで、密かにめそめそしてしまう。すると、相変わらず世話焼きのサクラさんがジュースを買ってきてくれた。

「気分が悪い時は、炭酸とかいいよ」

「……ありがとう」

 くそっ、いつもこっちがドキドキさせられてばかりなんて、ズルくはないだろうか。僕は受け取ったジュースを飲み干すと、気合いを入れ直して、別の乗り物にチャレンジすることにした。

「サクラさん、次何乗りたい?」

「え? 大丈夫なの? 全部さっきのと同じくらい激しいよ?」

「大丈夫! サクラさんとなら、なんだって楽しいから」

「……え」

「ほら、行こう!」 

「うん!」

 僕はサクラさんの手を引いて、片っ端から絶叫系に乗った。乗って乗って乗り尽くした後、足がふらふらになったところで、お化け屋敷に入ることになった。
 今度こそ吊り橋効果を! と思いきや、サクラさんはお化け屋敷でも全く動じることはなく。淡々と前を進むサクラさんに、僕の方が恐怖で足を竦ませるばかりだった。

「サクラさぁん、置いていかないでください」

「もう、仕方ないなぁ」

 サクラさんにしがみついて歩く僕は格好が悪かった。それでも、最近のお化け屋敷はリアルすぎやしないだろうか? 古民家のような内装は本当に何が出てもおかしくなさそうだった。
 そしてそんな僕を嘲笑うかのように、次から次へと着物の女性が飛び出してきた。
 そんなこんなで、お化け屋敷をなんとかクリアした僕とサクラさんが外に出た頃には、すっかり日が暮れていた。

「そろそろ帰る?」

 吊り橋効果どころか、かっこいいところすら見せられなかった僕は、すでに意気消沈して、帰る気満々だった。
 けど、サクラさんは笑顔で言った。

「ねぇ、ちょっとだけいいかな?」

「え?」

 サクラさんに連れられてやってきたのは、遊園地の広場だった。花が植えられている広場には、カップルがたくさん集まっていて——何やら怪しい雰囲気があった。

「さ、サクラさん。ここ……」

「そろそろだよ、ほら!」

 ふいに、ドン——と、音が鳴り響く。
 花火の時間らしい。暗くなった空では、大輪の花が次から次へと咲き乱れた。
 
「綺麗だね」

 花火を見てそう言ったサクラさんの方が綺麗だった。だけど、僕にはそんなことを言う勇気もなくて、ただ「うん」とだけ答えるしかなかった。

 これが、僕の学生時代の——一番甘い記憶だった。その後、委員長は転校してしまったけど。いつかまた会おうと約束した僕たちが、大人になって再び会った時、何かが動き始めたのは、また別の話である。
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