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はじめてのおつかい
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「じゃあ、頼んだわよ」
「うん、任せてお母さん!」
僕は東野ひかる、五才。これでも幼稚園の年中さんです。今日はお母さんに頼まれて、お使いに行くことになりました。
いわゆる、初めてのおつかいというやつです!
きっかけは、テレビ番組でした。同じ年の子供がおつかいに行くのを見て、憧れていたら、お母さんが言いました。
『あんたももうすぐ幼稚園の年長さんだし、おつかい行ってみる?』
その言葉に、僕は嬉しくてすぐに『はい!』と答えました。
ちなみに僕が住んでいる場所は、山の麓にある小さな町でした。近所には、小さなスーパーとコンビニが三軒あります。あとは、魚屋さんやコロッケ屋さんなんかもあります。お菓子のデパートというお菓子屋さんは、ラスボスでしょうか。あそこを通ると、どうしても入りたくなります。
そして僕は、使い慣れたお母さんのスマホを持って買い物に出かけました。今日のおつかいは三つです。お豆腐と、お漬物と、お野菜。ぜんぶスーパーで買えますが、僕は大人なので、全部専門店で買うことにしました。その方がお母さんが喜ぶと思ったからです。
そして僕はまずお豆腐屋さんに向かうために、スマホに喋りかけました。
「ねぇ、チリ。一番近いお豆腐屋さんに連れて言って」
僕が言うなり、スマホの中にいるチリが反応して、教えてくれました。
『目的地まで、およそ五分です。まずは南南東にお進みください』
「南南東? ってどっち?」
画面のコンパスを見ると、赤い三角が右を差していました。
「赤が北でしたっけ? 南でしたっけ? そういえば、赤道は赤い線ですよね。赤道ってどっちでしたっけ」
僕は赤道を検索しました。赤道はとても遠いようですが、地図の位置からして、後ろっぽい気がしました。
「きっとこっちが南南東ですね」
僕はそれからチリに言われるがままに進んで、お豆腐屋さんに到着しました。銀色のワゴン車で販売しているお豆腐屋さんでした。
「よく来たね、何が欲しいんだい?」
運転席から降りてきたお兄さんが、尋ねました。僕がお豆腐を一丁お願いすると、お兄さんはお豆腐を売ってくれました。そしてちゃんとおつりを持って、今度はお漬物屋さんに向かいました。
赤道の場所をイメージして進んだ先には、またもや銀色のワゴン車がありました。
『目的地に到着しました』と言ったので、きっとこのワゴン車がお漬物屋さんなんですね。車から降りてきたのは、エプロンを着たお姉さんでした。
「お漬物、欲しいの?」
「はい。お漬物、三◯◯グラムください!」
そしてお漬物を持った僕は、八百屋さんを探しました。今度はチリに聞かなくてもわかります。家の隣にあるからです。僕は帰ることにしますが——帰り道がわかりませんでした。だから、近くにあったバスに乗りました。バスは四つ先で、僕の家のすぐ近くに止まりました。
そして八百屋さんで野菜を買い、家に帰ってきた僕はお母さんに全てを報告しました。
すると、お母さんは僕を抱きしめて「おかえり」と言ってくれました。
初めてのおつかいは、とても簡単でした。
***
「いやー、ひかるくんは手強かったね」
八百屋の前でたむろする大人が三人。若い男女と、ひかるの母親だった。
「まさかワゴン車でずっと尾ける羽目になるとは」
銀色のワゴンで豆腐を売った青年だった。実のところ、彼はずっとひかるの後ろを尾行していたのだ。
「赤道を教えてって叫んだ時は、何事かと思いましたよ」
エプロンの若い女性が、ため息を付く。
子供の少ない町なので、初めてのおつかいは町をあげてのお祭り状態だった。ただ、民間放送には流れないので、あまり知られていない事実なのだが。
「うちの子が、本当にお世話になりました」
母親はひかるに、この後まっさきに東西南北の概念と、コンパスの見方を教えたという。
「うん、任せてお母さん!」
僕は東野ひかる、五才。これでも幼稚園の年中さんです。今日はお母さんに頼まれて、お使いに行くことになりました。
いわゆる、初めてのおつかいというやつです!
きっかけは、テレビ番組でした。同じ年の子供がおつかいに行くのを見て、憧れていたら、お母さんが言いました。
『あんたももうすぐ幼稚園の年長さんだし、おつかい行ってみる?』
その言葉に、僕は嬉しくてすぐに『はい!』と答えました。
ちなみに僕が住んでいる場所は、山の麓にある小さな町でした。近所には、小さなスーパーとコンビニが三軒あります。あとは、魚屋さんやコロッケ屋さんなんかもあります。お菓子のデパートというお菓子屋さんは、ラスボスでしょうか。あそこを通ると、どうしても入りたくなります。
そして僕は、使い慣れたお母さんのスマホを持って買い物に出かけました。今日のおつかいは三つです。お豆腐と、お漬物と、お野菜。ぜんぶスーパーで買えますが、僕は大人なので、全部専門店で買うことにしました。その方がお母さんが喜ぶと思ったからです。
そして僕はまずお豆腐屋さんに向かうために、スマホに喋りかけました。
「ねぇ、チリ。一番近いお豆腐屋さんに連れて言って」
僕が言うなり、スマホの中にいるチリが反応して、教えてくれました。
『目的地まで、およそ五分です。まずは南南東にお進みください』
「南南東? ってどっち?」
画面のコンパスを見ると、赤い三角が右を差していました。
「赤が北でしたっけ? 南でしたっけ? そういえば、赤道は赤い線ですよね。赤道ってどっちでしたっけ」
僕は赤道を検索しました。赤道はとても遠いようですが、地図の位置からして、後ろっぽい気がしました。
「きっとこっちが南南東ですね」
僕はそれからチリに言われるがままに進んで、お豆腐屋さんに到着しました。銀色のワゴン車で販売しているお豆腐屋さんでした。
「よく来たね、何が欲しいんだい?」
運転席から降りてきたお兄さんが、尋ねました。僕がお豆腐を一丁お願いすると、お兄さんはお豆腐を売ってくれました。そしてちゃんとおつりを持って、今度はお漬物屋さんに向かいました。
赤道の場所をイメージして進んだ先には、またもや銀色のワゴン車がありました。
『目的地に到着しました』と言ったので、きっとこのワゴン車がお漬物屋さんなんですね。車から降りてきたのは、エプロンを着たお姉さんでした。
「お漬物、欲しいの?」
「はい。お漬物、三◯◯グラムください!」
そしてお漬物を持った僕は、八百屋さんを探しました。今度はチリに聞かなくてもわかります。家の隣にあるからです。僕は帰ることにしますが——帰り道がわかりませんでした。だから、近くにあったバスに乗りました。バスは四つ先で、僕の家のすぐ近くに止まりました。
そして八百屋さんで野菜を買い、家に帰ってきた僕はお母さんに全てを報告しました。
すると、お母さんは僕を抱きしめて「おかえり」と言ってくれました。
初めてのおつかいは、とても簡単でした。
***
「いやー、ひかるくんは手強かったね」
八百屋の前でたむろする大人が三人。若い男女と、ひかるの母親だった。
「まさかワゴン車でずっと尾ける羽目になるとは」
銀色のワゴンで豆腐を売った青年だった。実のところ、彼はずっとひかるの後ろを尾行していたのだ。
「赤道を教えてって叫んだ時は、何事かと思いましたよ」
エプロンの若い女性が、ため息を付く。
子供の少ない町なので、初めてのおつかいは町をあげてのお祭り状態だった。ただ、民間放送には流れないので、あまり知られていない事実なのだが。
「うちの子が、本当にお世話になりました」
母親はひかるに、この後まっさきに東西南北の概念と、コンパスの見方を教えたという。
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