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私の友達
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「誕生日プレゼントに手編みのマフラー? なんの冗談?」
私、佐伯有紗はずっとずっと好きだった人にプレゼントを渡しただけで嫌われてしまった。
それはクリスマスを目前にした、比較的あたたかい金曜日の午後だった。高校も最期ということで、好きな人に告白するためにせっせと何ヶ月も前から編んできたマフラーだったけど、彼には重過ぎたみたい。
学校の校舎裏に呼び出してマフラーを渡した時、彼はまるで害虫でも見るような目で、私を見ていた。そんなに嫌だったのだろうか? 彼はバスケ部の主将で部活も勉強も頑張っていることを知っていたし、きっと良い人だと思っていたけど……思っていたのとは違ったみたい。
……そうじゃないね。私が勝手に夢を見ていただけなのかもしれないから、私の理想を押し付けられたら彼も迷惑だよね。
失恋して長いマフラーを手にした私が教室に帰ると、噂はあっという間に広まっていて、私はその日ずっと男子たちのネタにされたのだった。
だけど女子はわりと優しくて、何人も私のことを慰めに来てくれた。
「有紗、あんなやつのこと気にしなくていいよ」
「そうだよ! ちょっと重いからって、噂にするなんてサイテーじゃん」
「ありがとう、みんなのおかげで、ちょっと元気になったよ」
私は精一杯元気なふりをしてその場は笑ってみせたけど——現実って、意外と厳しかった。
その日の休み時間。職員室に行こうとして、通りかかった女子トイレから聞こえてきたのはひどい言葉ばかりだった。
「有紗のやつ、良平に告るとか、生意気よね」
「てか、手編みのマフラーとか、ありえなくない? 愛が重過ぎて底抜けるわー」
「何それ、意味不明なんすけど! ギャハハ」
私のことを話していたのは、昼間、私を慰めてくれた子たちだった。本音と建前は違ってたみたい。男子の前ではいい子ぶって、誰もいないところで悪口言うなんて、そっちの方がサイテーじゃん……とか思っても、言い返す勇気もなくて、私はトイレを通り過ぎた。
けど、その時は知らなかった。私のことをずっと見ている人がいたなんて。
そして次の日。誰とも喋りたくなくてギリギリに登校した私だけど、なぜか校門の前には同じクラスの男の子が立っていた。もしかして、私を笑い者にするつもりなのかもしれない——そんなことを思いながら通り過ぎようとした時、ふと肩を掴まれた。
「あの、佐伯さん」
「何か用? 小林くん」
クラスでも地味で真面目そうな小林くん。背は高いけど、メガネで陰気なイメージがあるから、決してモテる方ではないけど、顔はけっこう整っていることを私は知っている。
そんな彼がどうして私に声をかけたのかは知らないけど、やっぱり誰とも話したくない私は「急いでるから」と立ち去ろうとするけど——その時だった。
「あの、佐伯さんのマフラー、ぼぼぼぼ、僕にください!」
「……は?」
最初はネタにでもするつもりなのかと思ったけど、それが本気だということはすぐにわかった。だって、小林くんの顔、真っ赤だし。だからものすごく狼狽えたけど、でも授業が始まっちゃうし、その場は「また今度ゆっくり話そうね」と言って去ったのだった。
そしてその日から、小林くんのアピールは始まった。私が日直の時はやたら手伝ってくれるし、廊下を歩いていたら、話しかけられるし。しかもことあるごとに追いかけてくるものだから、クラス中の噂になっちゃって、私はすっかり辟易してしまった。
その上、女子も男子も、私と小林くんのことを冷やかすようになって、毎日まるでクラス公認カップルのような扱いを受けるようになった。
さすがにこれではいけないと思った私は、校舎裏に小林くんを呼び出したのだけど。彼の無垢な笑顔を前に、私は若干後ろめたい気持ちになりながらも、気持ちを告げた。
「あのね、小林くん。こういうの困るよ」
「何がですか?」
「まずその敬語もやめようよ。同学年だよ?」
「……でも」
「でね、私につきまとうのはやめてほしいの」
「でも、これで佐伯さんから重くてモテない女子というレッテルを剥がすことができましたよ?」
「……え?」
小林くんは苦笑しながら告げる。
「本当は佐伯さんが僕のことをなんとも思ってないのは知ってるんです。でも、みんなのネタにされているのを見たら、いてもたってもいられなくなって……せめて、みんなの噂を書き換えてやろうと思ったんです」
小林くんは指で頬を掻きながら、またもや困ったように笑う。どうもこの人は、不器用な人らしい。私のために動いてくれたみたいだけど、それが私の迷惑になるとは思っていなかったのだろうか?
でも、彼が一生懸命私のために行動してくれたのはわかった。だから、せめて彼の思いやりを台無しにしないように——私は告げる。
「あの……小林くん。私はやっぱりあなたとはつきあえないけど、でも……ありがとう。私のことを考えてくれて。きっと私の周りで、私のことを考えてくれていたのは、あなただけだよ」
「いえ……お役に立てて何よりです」
「でね、今後だけど。もういいよ」
「え?」
「私はフラれて重い女でいいんだ。それでも君みたいに好きになってくれる人がいるんだから、私はそのままの自分でいようと思うよ」
「……そうですか」
「だからね。改めて、友達になってくれる?」
「友達、ですか?」
「虫のいい話かもしれないけど、私のことを考えてくれる人と友達になりたいんだ」
「一緒にいれば、僕にもお付き合いできる可能性があるということでしょうか?」
「それはないと思うけど。でも、そういうポジティブさは嫌いじゃないよ」
「佐伯さんは、意外と悪い女ですね」
「そうかもね」
それから私たちは、クラス公認カップルから、本当はただの友達だという話になったのだけど。
私の本当の恋が始まるのは少し先の話だった。
私、佐伯有紗はずっとずっと好きだった人にプレゼントを渡しただけで嫌われてしまった。
それはクリスマスを目前にした、比較的あたたかい金曜日の午後だった。高校も最期ということで、好きな人に告白するためにせっせと何ヶ月も前から編んできたマフラーだったけど、彼には重過ぎたみたい。
学校の校舎裏に呼び出してマフラーを渡した時、彼はまるで害虫でも見るような目で、私を見ていた。そんなに嫌だったのだろうか? 彼はバスケ部の主将で部活も勉強も頑張っていることを知っていたし、きっと良い人だと思っていたけど……思っていたのとは違ったみたい。
……そうじゃないね。私が勝手に夢を見ていただけなのかもしれないから、私の理想を押し付けられたら彼も迷惑だよね。
失恋して長いマフラーを手にした私が教室に帰ると、噂はあっという間に広まっていて、私はその日ずっと男子たちのネタにされたのだった。
だけど女子はわりと優しくて、何人も私のことを慰めに来てくれた。
「有紗、あんなやつのこと気にしなくていいよ」
「そうだよ! ちょっと重いからって、噂にするなんてサイテーじゃん」
「ありがとう、みんなのおかげで、ちょっと元気になったよ」
私は精一杯元気なふりをしてその場は笑ってみせたけど——現実って、意外と厳しかった。
その日の休み時間。職員室に行こうとして、通りかかった女子トイレから聞こえてきたのはひどい言葉ばかりだった。
「有紗のやつ、良平に告るとか、生意気よね」
「てか、手編みのマフラーとか、ありえなくない? 愛が重過ぎて底抜けるわー」
「何それ、意味不明なんすけど! ギャハハ」
私のことを話していたのは、昼間、私を慰めてくれた子たちだった。本音と建前は違ってたみたい。男子の前ではいい子ぶって、誰もいないところで悪口言うなんて、そっちの方がサイテーじゃん……とか思っても、言い返す勇気もなくて、私はトイレを通り過ぎた。
けど、その時は知らなかった。私のことをずっと見ている人がいたなんて。
そして次の日。誰とも喋りたくなくてギリギリに登校した私だけど、なぜか校門の前には同じクラスの男の子が立っていた。もしかして、私を笑い者にするつもりなのかもしれない——そんなことを思いながら通り過ぎようとした時、ふと肩を掴まれた。
「あの、佐伯さん」
「何か用? 小林くん」
クラスでも地味で真面目そうな小林くん。背は高いけど、メガネで陰気なイメージがあるから、決してモテる方ではないけど、顔はけっこう整っていることを私は知っている。
そんな彼がどうして私に声をかけたのかは知らないけど、やっぱり誰とも話したくない私は「急いでるから」と立ち去ろうとするけど——その時だった。
「あの、佐伯さんのマフラー、ぼぼぼぼ、僕にください!」
「……は?」
最初はネタにでもするつもりなのかと思ったけど、それが本気だということはすぐにわかった。だって、小林くんの顔、真っ赤だし。だからものすごく狼狽えたけど、でも授業が始まっちゃうし、その場は「また今度ゆっくり話そうね」と言って去ったのだった。
そしてその日から、小林くんのアピールは始まった。私が日直の時はやたら手伝ってくれるし、廊下を歩いていたら、話しかけられるし。しかもことあるごとに追いかけてくるものだから、クラス中の噂になっちゃって、私はすっかり辟易してしまった。
その上、女子も男子も、私と小林くんのことを冷やかすようになって、毎日まるでクラス公認カップルのような扱いを受けるようになった。
さすがにこれではいけないと思った私は、校舎裏に小林くんを呼び出したのだけど。彼の無垢な笑顔を前に、私は若干後ろめたい気持ちになりながらも、気持ちを告げた。
「あのね、小林くん。こういうの困るよ」
「何がですか?」
「まずその敬語もやめようよ。同学年だよ?」
「……でも」
「でね、私につきまとうのはやめてほしいの」
「でも、これで佐伯さんから重くてモテない女子というレッテルを剥がすことができましたよ?」
「……え?」
小林くんは苦笑しながら告げる。
「本当は佐伯さんが僕のことをなんとも思ってないのは知ってるんです。でも、みんなのネタにされているのを見たら、いてもたってもいられなくなって……せめて、みんなの噂を書き換えてやろうと思ったんです」
小林くんは指で頬を掻きながら、またもや困ったように笑う。どうもこの人は、不器用な人らしい。私のために動いてくれたみたいだけど、それが私の迷惑になるとは思っていなかったのだろうか?
でも、彼が一生懸命私のために行動してくれたのはわかった。だから、せめて彼の思いやりを台無しにしないように——私は告げる。
「あの……小林くん。私はやっぱりあなたとはつきあえないけど、でも……ありがとう。私のことを考えてくれて。きっと私の周りで、私のことを考えてくれていたのは、あなただけだよ」
「いえ……お役に立てて何よりです」
「でね、今後だけど。もういいよ」
「え?」
「私はフラれて重い女でいいんだ。それでも君みたいに好きになってくれる人がいるんだから、私はそのままの自分でいようと思うよ」
「……そうですか」
「だからね。改めて、友達になってくれる?」
「友達、ですか?」
「虫のいい話かもしれないけど、私のことを考えてくれる人と友達になりたいんだ」
「一緒にいれば、僕にもお付き合いできる可能性があるということでしょうか?」
「それはないと思うけど。でも、そういうポジティブさは嫌いじゃないよ」
「佐伯さんは、意外と悪い女ですね」
「そうかもね」
それから私たちは、クラス公認カップルから、本当はただの友達だという話になったのだけど。
私の本当の恋が始まるのは少し先の話だった。
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