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第15話 チクリ、で済んだ?
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「で、君をここに招いた理由なんだけど。……君、伯父の花で怪我をしたそうじゃないか」
五樹が尋ねると、詩津は首を傾げる。
「花? ——もしかして、オークションの出品物に混じってた、あのパンジーのことですか?」
詩津はパートナーの槌田がひっかけてしまった花瓶を思い出して、同じくその場に居合わせた七生を見あげた。
七生は口外しないと言っていたが、実際はわからないものである。
疑心暗鬼になった詩津は、なんとなく苦い気持ちになる。
パンジーの花に触れたのは、自分たちスタッフの過失ではあるが、密告されたのかと思うと、少しだけ裏切られたような気持ちになった。
だが詩津の曇った表情から内心を読み取った七生は、心外だといわんばかりに眉間を寄せた。
「俺は何も言ってないぞ」
「……え?」
詩津は目を瞬かせる。説明を乞うように五樹を見あげると、五樹は優しい笑みで答えてくれた。
「七生は関係ないよ。伯父は私物のパンジーを探していたなりゆきで、警備員から君たちの話を聞いたそうだ。あれは特別で、とても危険な花だから申し訳ないことをしたって」
「そうでしたか……すみません」
詩津が肩を竦めると、傲岸不遜な男はフンと顔を背けた。詩津はますます小さくなる。
むやみに疑ってしまったことを後悔した。
二度も助けてもらったというのに(少々問題はあったが)、恩を仇で返してしまったようで申し訳なさいっぱいだ。
詩津が猛省していると、五樹がすかさずフォローする。
「こらこら七生兄さん、女の子には優しくね」
「えぇ~、女の子だけに優しいってのは、男女差別じゃね?」
「三斗も変な横槍をいれるんじゃない。話の腰を折らないでくれ——とにかく、そういうわけだから、ランチに招待したのは君へのお詫びということで。本来なら伯父が直接会いに来たかったみたいだけど、スケジュールの都合がつかなくて、僕が代理を引き受けたんだ。ちなみに他の二人は勝手にやってきたオマケだからね」
「……でも、それなら槌田さんも一緒に……」
「いや、怪我をしたのは君だから」
「私、怪我なんてしてません」
「指に棘が刺さったと言っていただろうが」
さきほど現場にいた七生が口を挟んだ。
だが詩津はどう考えても納得がいかない。たかが棘の怪我だ。
お詫びをするほど困ったことになったわけではないのだから。
だから詩津は、思ったままを告げた。
「そんなかすり傷にもならない傷くらいで……こんな豪華な食事に呼ばれるなんて……どう考えたっておかしいと思います」
七生たちと話をしている間に、詩津の前には頼んでもいない料理が次々と用意されていた。細長い重箱に少しずつ盛られた豆腐中心の懐石料理は、秋の紅葉をイメージしているらしく、目にも鮮やかだ。いつの間に注文したのだろう。
高級懐石が気になりながらも、素直に受け取れない詩津が目をうろうろさせていると、五樹はそんな詩津を興味深げに見ながら微笑む。
「頼んじゃったものをさげるわけにもいかないし、気兼ねなく食べてね。……ちなみに、パンジーには棘なんてないよ」
「え? でも、私は確かに……」
「それがあの花の危険なところなんだ。チクリ、ぐらいで済んでよかったね」
「それはどういう意味ですか?」
まるでもっとひどい何かが起きてもおかしくなかったような、そんな言い方だった。
詩津の背筋に何か冷たいものが走り、思わず固唾を飲んだ。
五樹が尋ねると、詩津は首を傾げる。
「花? ——もしかして、オークションの出品物に混じってた、あのパンジーのことですか?」
詩津はパートナーの槌田がひっかけてしまった花瓶を思い出して、同じくその場に居合わせた七生を見あげた。
七生は口外しないと言っていたが、実際はわからないものである。
疑心暗鬼になった詩津は、なんとなく苦い気持ちになる。
パンジーの花に触れたのは、自分たちスタッフの過失ではあるが、密告されたのかと思うと、少しだけ裏切られたような気持ちになった。
だが詩津の曇った表情から内心を読み取った七生は、心外だといわんばかりに眉間を寄せた。
「俺は何も言ってないぞ」
「……え?」
詩津は目を瞬かせる。説明を乞うように五樹を見あげると、五樹は優しい笑みで答えてくれた。
「七生は関係ないよ。伯父は私物のパンジーを探していたなりゆきで、警備員から君たちの話を聞いたそうだ。あれは特別で、とても危険な花だから申し訳ないことをしたって」
「そうでしたか……すみません」
詩津が肩を竦めると、傲岸不遜な男はフンと顔を背けた。詩津はますます小さくなる。
むやみに疑ってしまったことを後悔した。
二度も助けてもらったというのに(少々問題はあったが)、恩を仇で返してしまったようで申し訳なさいっぱいだ。
詩津が猛省していると、五樹がすかさずフォローする。
「こらこら七生兄さん、女の子には優しくね」
「えぇ~、女の子だけに優しいってのは、男女差別じゃね?」
「三斗も変な横槍をいれるんじゃない。話の腰を折らないでくれ——とにかく、そういうわけだから、ランチに招待したのは君へのお詫びということで。本来なら伯父が直接会いに来たかったみたいだけど、スケジュールの都合がつかなくて、僕が代理を引き受けたんだ。ちなみに他の二人は勝手にやってきたオマケだからね」
「……でも、それなら槌田さんも一緒に……」
「いや、怪我をしたのは君だから」
「私、怪我なんてしてません」
「指に棘が刺さったと言っていただろうが」
さきほど現場にいた七生が口を挟んだ。
だが詩津はどう考えても納得がいかない。たかが棘の怪我だ。
お詫びをするほど困ったことになったわけではないのだから。
だから詩津は、思ったままを告げた。
「そんなかすり傷にもならない傷くらいで……こんな豪華な食事に呼ばれるなんて……どう考えたっておかしいと思います」
七生たちと話をしている間に、詩津の前には頼んでもいない料理が次々と用意されていた。細長い重箱に少しずつ盛られた豆腐中心の懐石料理は、秋の紅葉をイメージしているらしく、目にも鮮やかだ。いつの間に注文したのだろう。
高級懐石が気になりながらも、素直に受け取れない詩津が目をうろうろさせていると、五樹はそんな詩津を興味深げに見ながら微笑む。
「頼んじゃったものをさげるわけにもいかないし、気兼ねなく食べてね。……ちなみに、パンジーには棘なんてないよ」
「え? でも、私は確かに……」
「それがあの花の危険なところなんだ。チクリ、ぐらいで済んでよかったね」
「それはどういう意味ですか?」
まるでもっとひどい何かが起きてもおかしくなかったような、そんな言い方だった。
詩津の背筋に何か冷たいものが走り、思わず固唾を飲んだ。
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