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五章 魔獣人の根源

121話 声が聞こえない

　どうしてだろう。魔獣人の死体を見てからだ。音がまるで聞こえなくなってしまった。

　不気味なくらい静かで呼吸音しか聞こえないくらい。あまりにも静かで若干恐怖していたので、ジュリエットに話しかけてみた。

「ねえ、ジュリエット。なんでこんなに静かなんだろうか」

　そう口にした。確かにそう頭で思い舌と口で言葉を出力した。しかし、何も俺の耳には聞こえなかった。

　先程から続く無音と言い、何かおかしいと思った俺は言葉ではなく行動でジュリエットに気づいてもらう。

　肩を叩くとジュリエットは何がを言いながら振り返ってくるが、相変わらず無音。これでトラップ発見に集中していたジュリエットも異常に気がついたみたいだ。

　対応力も高いジュリエットはジェスチャーで俺との意思疎通を試みる。

　魔法かもしれないと彼女は語っている。

　そういえば、魔導書にもそんな魔法があったような気がする。自分を中心に音を消す消音魔法サイレンス。

　他人が発動した魔法は解除することは困難だ。一応解除方法も学んでいるが、俺にとって莫大な魔力を要する。

　魔法もスキル同様に便利な力であって万能ではない。消音魔法は範囲が定められており、その範囲から抜けることができれば再び喋ることができるようになるはずだ。

　音が聞こえないので視覚でとにかく情報を得ながら先に進むと、またしても遺体が見つかった。今度も魔獣人で、顔は猫だ。

　今度は脳天から臀部までを一直線に貫かれている。貫かれた跡の太さは先程の喉を貫かれた魔獣人と同じで同一犯の所業である事が伺える。

　そして、脳天から尻まで一直線に貫いている事から人間ではなく魔物の仕業である可能性が更に高まってくる。

　こちらの遺体は前の遺体よりかは最近死んだのかまだ少し暖かい上に腐敗臭があまりしない。

　そして、仄かにオイルの匂いが漂っている。

　更に今回は前回と違い、他の生き残りと思わしき人の足跡が残っている。足跡は血で出来ており、ほとんど乾ききっている。

　血の足跡は目の前で死んでいる魔獣人の血溜まりを踏んでできたものだろう。足跡は1人分しか残されておらず3人で遺跡探索に来たことがわかる。

　遺体から数十m離れると再び音が聞こえるようになった。

「あの魔獣人を殺すために消音魔法を使ったのか」

「となるともしかしたらもう既にもう1人の生き残りは殺されてるかもしれませんね」

「うん・・・だとしたらまずいな。これまで見た遺体の魔獣人の性別は男だった。詰まる所生き残っているのは王女だ」

「何がまずいんですか？私達が殺すわけでもないですし大丈夫なのでは？」

「王女は歴史学者らしいから色々と聞きたい事があるんだ。急いで足跡を追いかけよう！」

　哲郎は罠なんか知った事かと言わんばかりに前へ突き進み始めた。