大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太

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一章 クソみたいな女神とクソみたいな異世界転移

第二十四話 女の悲鳴、怒れる蘭丸

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「ああー!楽しかった!まさか幸助が砕こうとした岩が擬態したトカゲだったなんて思いもよらなかった!」

「ホントだよ。ピッケルで殴った岩が動き出した時はどうなるかと思ったよ」

「腹部が弱点で良かったな、幸助。でなければ今頃刃が欠けていたぞ」

 山脈に顔を隠そうとしている夕日に背中を見せながら、帰路を歩く。採掘という労働者染みた依頼だったか、今日はとても楽しかった。殴ったら爆発する石、岩に擬態したトカゲの魔物、崩れた岩から現れる瑠璃色の石。元いた世界では絶対に体験できない事ばかりだ。

 しかし、こうやって楽しんでいるとふと、考えてしまう事がある。あのまま、癌で死んでいなかったらどんな生活をしていたのだろうと。きっと大学生活も今の瞬間のように楽しい事だらけだったのだろうと思うと急に元居た世界が恋しく感じてしまう。今頃両親や友達は何をしているのだろうか?もし、俺の死を悲しんでいるのならどうか悲しまないでほしい。俺はこうして別の世界で生きているのだから。

「さ~~て、帰ったら何食べよっかn──────ぶへぇ!?」

 メアリーがいきなり停止した蘭丸さんの背中に激突してしまう。

「イタタタ・・・もう!ランマルさん!止まるならちゃんと警告してくださいよ!私小さいんですから!」

「・・・・・・」

「ランマルさん・・・?」

「・・・ん、どうした?めありー。地面に尻もちなんかついて」

「それはいきなりランマルさんが止まったからでしょ!!」

「ああ、拙者か。いや、すまない。あちらから人の声らしき音が聴こえてきてな。耳を澄ましていたんだ」

 声なんか聴こえてはこない。耳に入るのはカラスの鳴き声と風に吹かれる木の葉の音だけだ。だから気のせいではないか?・・・とは言えないのが、この世界だ。中世という事もあり、俺の住んでいた世界と比べて治安が未発達なこの世界には人攫いが普通に跋扈している。以前、森に果物を取りに行った村娘が人攫いに攫われて、貴族に性奴隷として売られてしまったという話を聞いた事がある。そんな話が嘘か真実か分からないくらいに人攫いは当たり前となっているのがこの世界。

 だから、蘭丸さんの耳に入って来たという声も人攫いに攫われた人の声という可能性が十分にあるのだ。

「どうしよう・・・聴力強化の魔術はまだ覚えて──────」

「静かにしろっ!!・・・また、聴こえてきた・・・さっきよりも大きい・・・」

 慌てて俺とメアリーも耳を澄ましてみる。すると、風に揺れる木の葉の音に紛れて別の音は聴こえてきた・・・。

『───めて!痛い!───めん、なさい・・・!!』

 聴こえた女性の声だ。しかもただの女性の声ではない。何かの痛みを訴えるような苦しみが混じった声だった。

「こっちから聴こえてきた・・・行くぞ!」

「「はい!!」」

 近くで人が酷い目に合っているのに見ぬふりは流石にできない。その思いで俺達は蘭丸さんを追いかける。

 長いスカートのような袴を履いているにも関わらず、油断したら追いつけなく程の速度を出しながら蘭丸さんは走る。前の世界では鎧を着て戦場を走っていたからだろうか、スタミナも現代人の俺と比べ物ならない量だ。

「はぁ・・・はぁ・・・コ、コウスケさん・・・先に行って下さい・・・私は後で追いつきますので・・・」

「バッカ!お前一人おいていったらそれこそ人攫いの餌食・・・にはなりにくいな。よし、分かった!すぐについて来いよ!!」

 彼女の暴走をもってすれば、人攫いなんぞ敵ではないだろう。そう信じて俺は蘭丸さんを追いかけた。

『ごめんなさい!ごめんなさい!!もうしないのでお許し下さい!!』

 段々と声がはっきりと聴こえてくるようになる。さっきは遠すぎてはっきりとはわからなかったが、女性の声だ。だが、女性の声以外にも足蹴にする音や、肉を殴る音が聴こえてくる。

 場所は名前もないただの洞窟。そこから女性の悲鳴と暴力の音が聴こえてくる。

「止めろ!!何者か知らぬが女子おなごに拳を振るうとは何という非道!!観念してこちらに姿を現せぇ!!」

 いち早く駆け付けた蘭丸さんがまだ見えぬ敵に刀を向ける。普段の優しい口調から一変して、怒りに満ちた声が洞窟中に響き渡る。響き渡ると同時に女性の声と暴力をふるう音が全く聴こえなくなった。

「誰だぁ?正義マン気取りのクソギザ野郎はぁ・・・こっちは今、むしゃくしゃしてんだよ!どっか行きやがれ!!」

 次に聴こえてくたのは若い男の声。図太くて、こちらも怒りに満ちた声をしている。

「何だと・・・!その程度の理由で女に拳を振るうとは、貴様!男の風上にも置けぬクズ野郎め!!」

「んだとコラァ!こっちが何にもしない事をいいことに散々言いやがって!!良いよ!じゃあ、そっちに姿見せてやらぁ!!」

 ずかずかと洞窟の奥から足音が聞こえてくる。蘭丸さんは俺の方をふり向くと、小さくサムズアップしてみせた。どうやら、煽って炙り出す作戦だったらしい。

 間もなくして男は姿を現す。鎖帷子の上に汚い皮鎧を着た俺同い年くらいの戦士だった。俺はその戦士の顔をコボルト戦の時に見た覚えがある。男は間違いなくギルド所属の冒険者だ。

「おいアンタか!俺の制裁にちょっかい横槍さしてきたヤツは!?」

「ああ、拙者だ!!貴様こそ、女をいたぶっていた男で間違いないな!?」

「そうだよ!文句があるならそのナマクラでかかってこいや!」

「な、ナマクラ・・・!ほう、貴様・・・相当の死にたがりのようだな。良いだろう、この小林蘭丸が刀の錆にしてくれるわ!!」

 始まろうとしている戦い。しかし、俺は違和感を覚えた。男から全く悪意というものを感じないのだ。口調が悪いのもただ怒っているだけ。女性をいたぶっていたのには何か理由があるのでは?

「行くぞ!クソったれぇ!!」

「来い!畜生め!!」

 戦いの火ぶたが落とされる直前、俺は2人の間に割って入るように飛び出した。

「ちょちょちょ待って二人とも!喧嘩する前に話し合おうか!!」

「幸助!コイツは女に手を出すクズだぞ!生かしておくわけにはいかない!」

「何だぁ?テメェ・・・って、お前最近ギルドに来た異世界人じゃねぇか!」

 どうやら相手も俺の事を知っていたみたいだ。その方が話しやすいので助かる。

「蘭丸さん、怒るのも分かりますが、一旦落ち着いて話し合ってみましょうよ。どうやら事情があるようですし」

 そう言うと、戦士の表情が先程よりも穏やかなものになった。

「良かったよ、冷静なヤツがいて。そこにいるヤツみたいに襲い掛かってきたら流石の俺でもやばかったぜ」

「何だと・・・!」

「蘭丸さん、抑えて。抑えて蘭丸さん。今のは別に挑発とかじゃないから」

 駄目だ。いつもはパーティの頭脳&冷静担当の蘭丸さんがまるで赤を見た闘牛のようになってしまっている。

「・・・取り合えず俺が制裁を加えてた女を連れてくっからそこで待ってろ」

 戦士は戦闘態勢を解くと、再び洞窟の奥へと入って行った。

「幸助なんの真似だ!話し合いなんかしなくてもアイツは拙者が殺せた!!なのに──────」

「目的と手段が逆になってるよ、蘭丸さん。女性を助ける為に殺すんでしょ?で、その『殺す』が『話し合い』になったんだよ」

「・・・・・・すまん、冷静を失っていた」

 電源を切ったかのようにテンションが元通りになる。いきなり冷静になるのは驚くからやめてほしい。

 洞窟の奥から先程の戦士の男と、暴力を振るわれていたであろう女の声が聞こえてくる。

『おい!来い!』

『え・・・ど、どうしてですか?』

『良いから来いやボケ!元はと言えば、テメェのせいでこうなったんだからよぉ!!』

『ごめんなさい!行きます!すぐ行きますからぁ!!髪の毛引っ張らないで!!』

 ズルズルと引きずる音と女性の悲鳴が聞こえてくる。横にいる蘭丸さんが居合の体勢を取ったのでとりあえず押さえておく。

「またせたな。コイツだ」

「ごめんなさい!ワタシが悪かったんです!ですのでどうか命だけは!・・・・・・へっ?だ、誰?」

 連れて来られたのは血まみれの明るい紺色の修道服を着た全身痣だらけの背の高い女僧侶だった。

「へっ?ワタシ、これからこの人達にボコボコにされるんですか?嫌です・・・許して下さい・・・お金は、全部上げますからぁ・・・!!」

 背の高い僧侶はそう言いながら鼻声で戦士の足に縋りついていた。
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