103 / 191
3章 異世界旅行録
30話 火花バチバチ
しおりを挟む
★
「────ってわけで、あの馬鹿は寝てて朝食にまた参加できませんでしたっ!」
言い捨てるように状況を説明し、薄切りのベーコンを口に運ぶモネ。彼女が説明したのは、翡翠の事だった。
日記を読むのに夢中になってしまった結果、朝まで読んでしまい、リリックに眠らせてもらった事も全て説明した。
「そう、ですか・・・それは残念です・・・」
翡翠が朝食に来ない。愛しい人が来ないと知ったシュエリは心底残念がるが、彼女が何故落ち込んでいるのかは誰も知らないし、知る由もない。
唯一の親戚となるべく一緒にいたいのだろう、と適当な理由で自らを納得させた門番達は、黙々と朝食を胃の中に入れていく。
「ところで、リリック様は一体いつまで門番として活動をするのでしょうか?」
「う~~ん・・・考えた事ないなぁ・・・とりあえず、ヒスイがいる限りは辞めないかな?国の方は議員の人達が頑張ってるし!」
余談ではあるが、魔族の国はナチュレよりも一足先に民主化を終わらせている。寧ろ、ザナの国の中でもトップに入るくらい早いタイミングで。
「もしかして、リリ様は・・・ヒスイ様の事が『好き』なのですか?」
「うん、そうだよ!近いうちに入籍を申し入れようと思ってるんだ!」
何も恥じる事なく、さも当たり前かのように入籍宣言を行うリリックにモネは飲んでいたスープを吹き出し、シュエリは凍り付いたように動きがピタリと止まる。シャープは、特に変化はない。
「優雅な朝の時間になんちゅー爆弾落としてんのよリリック!!」
「そんな衝撃発言だった?シャープは驚いてないじゃん!」
「驚いてないだけで、かなりびっくりする発言だったと思うよ?」
「そっか!ごめん!!でも、本当だからよろしく!」
エイプリルフールはとっくに過ぎ去っている。純粋なリリックは嘘をつくような、性格の持ち主ではない事はこの場の誰もが分かっている。一昨日出会ったばかりも理解している。
故にシュエリは動揺していた。リリックの恋愛への強さを見て焦っていた。表情には出ていないが、心は乱れに乱れまくっていた。
「そ、そうですか・・・では、もしもの話をしてもよろしいでしょうか?」
「いいよ!もしもの話は大好きだから!」
「・・・もし、ハーフドワーフ様がヒスイ様との結婚を希望したら?」
「なっ・・・!!そんな事しないわよ!!王女でも言って良い事と悪い事があるんじゃないの!?」
「落ち着いて下さい。たとえの話をしているんです。それとも、聴こえていなかったのでしょうか?」
「聞こえてたわよ。まさかアタシに矛先が向くとは思わなかったからびっくりしただけ・・・で?リリックはどうなの?アリなの?ナシなの?」
顔を真っ赤にして全力でしたにも関わらず、リリックに答えを催促するモネ。
リリックはしばらく考えた素振りを見せてから答えた。
「許すかな!まあ、正妻は私だけど!!」
許すが、隣は譲らないといった感じだ。シュエリは、少し考えて少し質問を変えてみる事にする。
「では、独占を主張してきたら?」
「少し、おはなしかな?」
彼女の言ったおはなしの意味は口での解決ではない。全く別の意味の、バイオレンスな方の解決法だ。
冗談にも聞こえるが、目を見たら分かる本気だ。もしもの話をしているのに、感情が剥き出しになっているのだろうか、黄色の瞳から魔力が漏れて、炎を発生させている。
魔力量の多さと、翡翠への重い愛情を垣間見せるリリック。シュエリも驚きながらも、質問を止める気はなかった。
「・・・では、私がヒスイ様を旦那様として迎えると言ったら?」
「それはいわゆる近親相姦っていうのじゃないの?」
「いとこ同士なら問題はないはずですよ?ザナは勿論、リオでも」
日本の法律では、3親等以内の親族との結婚は認められない。しかし、4親等であるいとことの結婚は認められる。どんな法的解釈を用いても、認められないという事はない。類推解釈だと認められないが、そもそも類推解釈自体が認められていないので、問題はない。
つまり、翡翠とシュエリを縛り付ける法は存在しないという事だ。
リリックが最初に近親相姦ではないのか?という疑問を浮かべた事から分かるように、平和的に物事を解決しようとしていたが、法を盾に正当性を主張してきたなら話は別。
皿の上で、スプーンを回す意味不明な遊びをしながら、シュエリを睨みつけた。
「戦争かな?」
何も躊躇する事なく、宣戦布告。シュエリもそれに乗っかるように笑みを浮かべ、立ち上がる。
「良いでしょう。ではこちらも」
「はい!ストップストップ!!」
殺伐と空気感に割りこむように陽気なストップの声かけ。声を上げたのは、ずっと、会話を聞き続けていたシャープだった。
「もしもの話でなに戦争の話してんの!他の人達ならまだしも、国のトップ同士がそういう事言ったら、冗談でも冗談にならないから!!」
シャープは気づいていた。2人がマジで言っている事に。だから、話の発端はもしも話だという事を2人に思い出させて、戦争勃発を未然に防ぐ事を試みたのだ。
「あ、あはは・・・ごめんごめん!」
「王族ともあろう者がなんて失礼な事を・・・申し訳ございません、リリック様」
「いやいや!こっちも悪いんだし、気にしないでよ!わたしの方も変なのちらつかせちゃってごめん!!」
結果は大成功。喧嘩腰になっていたリリックとシュエリは正気を取り戻し、先程の喧嘩がなかったかのように笑い出し、元のほんわかな空気が戻ってくる。
この後、シャープがモネは勿論、周りにいた侍女や事情を聞いたシャイに感謝の言葉を述べられるのであった。
戦争の危機を回避するという偉業を成し遂げたシャープだったが、彼自身が2人の王女の喧嘩を冗談で話を終わらせた為、残念ながら歴史の書に乗ることはないだろう。
「────ってわけで、あの馬鹿は寝てて朝食にまた参加できませんでしたっ!」
言い捨てるように状況を説明し、薄切りのベーコンを口に運ぶモネ。彼女が説明したのは、翡翠の事だった。
日記を読むのに夢中になってしまった結果、朝まで読んでしまい、リリックに眠らせてもらった事も全て説明した。
「そう、ですか・・・それは残念です・・・」
翡翠が朝食に来ない。愛しい人が来ないと知ったシュエリは心底残念がるが、彼女が何故落ち込んでいるのかは誰も知らないし、知る由もない。
唯一の親戚となるべく一緒にいたいのだろう、と適当な理由で自らを納得させた門番達は、黙々と朝食を胃の中に入れていく。
「ところで、リリック様は一体いつまで門番として活動をするのでしょうか?」
「う~~ん・・・考えた事ないなぁ・・・とりあえず、ヒスイがいる限りは辞めないかな?国の方は議員の人達が頑張ってるし!」
余談ではあるが、魔族の国はナチュレよりも一足先に民主化を終わらせている。寧ろ、ザナの国の中でもトップに入るくらい早いタイミングで。
「もしかして、リリ様は・・・ヒスイ様の事が『好き』なのですか?」
「うん、そうだよ!近いうちに入籍を申し入れようと思ってるんだ!」
何も恥じる事なく、さも当たり前かのように入籍宣言を行うリリックにモネは飲んでいたスープを吹き出し、シュエリは凍り付いたように動きがピタリと止まる。シャープは、特に変化はない。
「優雅な朝の時間になんちゅー爆弾落としてんのよリリック!!」
「そんな衝撃発言だった?シャープは驚いてないじゃん!」
「驚いてないだけで、かなりびっくりする発言だったと思うよ?」
「そっか!ごめん!!でも、本当だからよろしく!」
エイプリルフールはとっくに過ぎ去っている。純粋なリリックは嘘をつくような、性格の持ち主ではない事はこの場の誰もが分かっている。一昨日出会ったばかりも理解している。
故にシュエリは動揺していた。リリックの恋愛への強さを見て焦っていた。表情には出ていないが、心は乱れに乱れまくっていた。
「そ、そうですか・・・では、もしもの話をしてもよろしいでしょうか?」
「いいよ!もしもの話は大好きだから!」
「・・・もし、ハーフドワーフ様がヒスイ様との結婚を希望したら?」
「なっ・・・!!そんな事しないわよ!!王女でも言って良い事と悪い事があるんじゃないの!?」
「落ち着いて下さい。たとえの話をしているんです。それとも、聴こえていなかったのでしょうか?」
「聞こえてたわよ。まさかアタシに矛先が向くとは思わなかったからびっくりしただけ・・・で?リリックはどうなの?アリなの?ナシなの?」
顔を真っ赤にして全力でしたにも関わらず、リリックに答えを催促するモネ。
リリックはしばらく考えた素振りを見せてから答えた。
「許すかな!まあ、正妻は私だけど!!」
許すが、隣は譲らないといった感じだ。シュエリは、少し考えて少し質問を変えてみる事にする。
「では、独占を主張してきたら?」
「少し、おはなしかな?」
彼女の言ったおはなしの意味は口での解決ではない。全く別の意味の、バイオレンスな方の解決法だ。
冗談にも聞こえるが、目を見たら分かる本気だ。もしもの話をしているのに、感情が剥き出しになっているのだろうか、黄色の瞳から魔力が漏れて、炎を発生させている。
魔力量の多さと、翡翠への重い愛情を垣間見せるリリック。シュエリも驚きながらも、質問を止める気はなかった。
「・・・では、私がヒスイ様を旦那様として迎えると言ったら?」
「それはいわゆる近親相姦っていうのじゃないの?」
「いとこ同士なら問題はないはずですよ?ザナは勿論、リオでも」
日本の法律では、3親等以内の親族との結婚は認められない。しかし、4親等であるいとことの結婚は認められる。どんな法的解釈を用いても、認められないという事はない。類推解釈だと認められないが、そもそも類推解釈自体が認められていないので、問題はない。
つまり、翡翠とシュエリを縛り付ける法は存在しないという事だ。
リリックが最初に近親相姦ではないのか?という疑問を浮かべた事から分かるように、平和的に物事を解決しようとしていたが、法を盾に正当性を主張してきたなら話は別。
皿の上で、スプーンを回す意味不明な遊びをしながら、シュエリを睨みつけた。
「戦争かな?」
何も躊躇する事なく、宣戦布告。シュエリもそれに乗っかるように笑みを浮かべ、立ち上がる。
「良いでしょう。ではこちらも」
「はい!ストップストップ!!」
殺伐と空気感に割りこむように陽気なストップの声かけ。声を上げたのは、ずっと、会話を聞き続けていたシャープだった。
「もしもの話でなに戦争の話してんの!他の人達ならまだしも、国のトップ同士がそういう事言ったら、冗談でも冗談にならないから!!」
シャープは気づいていた。2人がマジで言っている事に。だから、話の発端はもしも話だという事を2人に思い出させて、戦争勃発を未然に防ぐ事を試みたのだ。
「あ、あはは・・・ごめんごめん!」
「王族ともあろう者がなんて失礼な事を・・・申し訳ございません、リリック様」
「いやいや!こっちも悪いんだし、気にしないでよ!わたしの方も変なのちらつかせちゃってごめん!!」
結果は大成功。喧嘩腰になっていたリリックとシュエリは正気を取り戻し、先程の喧嘩がなかったかのように笑い出し、元のほんわかな空気が戻ってくる。
この後、シャープがモネは勿論、周りにいた侍女や事情を聞いたシャイに感謝の言葉を述べられるのであった。
戦争の危機を回避するという偉業を成し遂げたシャープだったが、彼自身が2人の王女の喧嘩を冗談で話を終わらせた為、残念ながら歴史の書に乗ることはないだろう。
0
あなたにおすすめの小説
異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!
ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~
鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。
そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。
母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。
双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた──
前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる