異世界と繋がる不思議な門を警備する仕事に就きしました!

町島航太

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3章 異世界旅行録

37話 末を見る者

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「末を見る者・・・」

「やはりご存知でしたか。貴方のお父様を死んでもなお、有能なのですね」

「アンタが俺の母さんと父さんを殺したのか?」

「切り替えが早い方ですね。もう私を敵と見做している。切り替えの早い人は好きですよ」

 笑みを崩すのを止めずに話を続ける。まるで無理矢理顔に張り付けたような表情は、俺の怒りを煽る。

 世間は狭いとはよく言うが、まさかこんな近くに親の仇がいるとは全く想像していなかった。一体どうやって殺してやろうか。

「おや・・・会った事も無ければ顔も見たことのない両親の為にそこまで怒れるのですか。何とも感受性が豊かですね」

「それが俺の個性の1つでもあるからな・・・」

「ですが、少し認識に間違いがありますね。私が殺したのではなく、正しくは私達が殺したといった方が良いですね」

 父さんの日記の最後に書かれていたメモが、特定の人物を指す名前でなかった時点で気づけたはずだ。『末を見る者』が1人を指す呼称ではなく、組織の呼称である事には。

「他にも仲間がいるなら隠れてないで出てこい!」

「いえ、今、末を見る者はこの城に私だけですのでどうかご安心を」

「それは1人でも俺に圧倒できるって言いたいわけ?」

「いえ、全然。私は魔術を嗜んではいますが、あくまで研究の為に使っている程度です。シュエリ王女やリリック魔王女のような戦闘能力は有しておりません」

「理解ができない。なら何で恨まれているであろう俺に自分の素性を明かした?」

「もう、隠す必要がないからですね」

 一枚の紙を取り出し、両手を添える。破くつもりのようだ。

 何の変哲の無い紙・・・というわけではないようで、仄かに魔力を感じ取れる。

 隠す必要がないという前置きから察するに破かせて良い物ではないと見た。

「待て!なんだそれは?」

「戦士として優秀だった貴方の父を死に至らしめた魔物との契約書です」

契約魔術コントラクトスって奴だな。昔教科書で知識として学んだ事があるよ。確か、契約書にかければ、契約を破ったりする事が出来なくなるんだろう?」

 具体例としては、AとBが互いに殺しあわないという契約を結び、契約書にサインを行う。その後、契約書に契約魔術をかけると、互いに契約を破る事が出来なくなる。

 契約を破棄するには、契約魔術をかけた契約書を破棄するか、互いに契約を解除を宣告するしか方法は無く、解除魔術レヴァーレでも解く事が出来ないらしい。

 そして、グイス大臣が今目の前で行おうとしているのは契約書の破壊による契約破棄。内容は分からないが、俺に不利益がもたらされるのだけは分かる。

氷の魔術グラシエス!!」

 契約書を破こうとする手を契約書ごと凍り漬けにする。これで、今は破く事は出来なくなったはずだ。

「母さんみたいな魔術の才能はないけど、使わないわけじゃないぜ!」

「判断の速さは遺伝するものなのでしょうかね・・・」

「さあ?とりあえず、俺が一番知りたい転移魔術イーテルの事について話してもらおうか」

「・・・やはり話さなきゃだめですか?」

「当たり前だ。ていうか何の目的でそんな魔術を作ったんだ?」

 敵対する前の会話から考察するに、混乱を招く為に作り出したようにも見えるが、あくまで推測であり、グイス大臣の真の目的は不明である。

「目的?そんなものはありませんよ」

「・・・・・・は?」

「私は転移魔術を世界に流行らせたらどうなるのか、気になっただけです。そこに崇高な目的や大義はありません」

「つまりは・・・好奇心?」

「はい。その通り」

 問題の正解を答えられた教師が、生徒に向けるような笑みを浮かべる。純粋な気持ちのみで構成された笑みだ。

 あまりにも無垢な笑みを浮かべるので、一瞬だが、殺意が緩んでしまった。

「その表情から察するに私が何か目的あって転移魔術を生み出したと思っていたようですね」

「あいにく研究者でもなければ、研究者の友達もまだいないんでね」

「成程。そういう事でしたか・・・ですから、にも気づかなかったわけですか・・・」

「罠?────うおっ!?」

 気づいた時には既に遅かった。壁や床がから生えてきたツタのような性質を持つ木が俺の体に絡みつき、身動きが取れなくなってしまっていた。

「私には戦闘能力はありません。ですので、侵入者用の拘束手段を予め用意しているのですよ」

 失念していた。ここは城内だが、今いる部屋は敵陣。少し前まで気づいていなかったとは言え、警戒は出来ていたはずだ。

 俺を拘束している木は生えてきたというよりも、大樹である城が成長したものと思われる。本気で力んでもびくともしない。

 炎の魔術で燃やす方法もあるが、俺だけでなく、城が全焼してしまう。つまりは逃げる事は不可能となったわけだ。

「基本、力のない私ですが、このように隙だらけの状態なら簡単に殺す事が出来ます」

 グイス大臣が懐から出したのは刃渡り10cm未満の小さなナイフ。隠し持っておくに最適だが、戦うには聊か頼りない武器と言えるだろう。

 一方、俺の体はXの字を描くように拘束されているので、急所を守る事も出来ない。つまり、お粗末なナイフでも心臓を一突きできるというわけだ。

 俺の命は今、グイス大臣の手の平にあるというわけだ。

「俺を殺したら流石の大臣もまずいんじゃないの?」

「もうこの立場に用はありません。つまりは貴方を殺しても何の問題はないという事です」

 いつ殺されてもおかしくはない状況。人はそんな時、わめき叫ぶのがデフォルトだ。しかし、翡翠は叫ばなかった。

「性格というのはやはり多少遺伝するものなのでしょうか・・・死の淵に立たされても喚かないその姿勢、貴方の父親にそっくりですよ」

「それは嬉しいね・・・けど、別にそこまで死ぬ直前ってわけじゃないんだよ。だから、俺は落ち着いているんだ」

 翡翠は別に生に無頓着というわけではない。人並に死ぬのに対して恐怖を抱いている。なのに、何故絶体絶命の現状で平気でいる。

 それは何故か?

「ここ、何処か分かってる?」

「私の部y────」

「それ以前に、ここはナチュレ城。わたくしの家。勝手は全てお見通しですよ?グイス大臣?」

 グイス大臣側の壁から声が聞こえてくる。何もない木の壁から通り抜けるように、声の主は姿を現す。

「シュエリーヌ王女・・・!!」

「少々おいたが過ぎましたね。グイス大臣」
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