111 / 191
3章 異世界旅行録
38話 災害の契約書
しおりを挟む
現れたのは、別の用事で先程別れたばかりのシュエリ王女。手には青の宝石が施された杖が握られており、グイス大臣に敵意を向けている。
「お早い登場でしたね。王女」
「ええ、待っていましたもの」
待っていたようなタイミングの登場は、偶然ではなく、本人の意思だった模様。用事というのはこの事だったようだ。
「前から怪しいとは思っていたんです。おじい様に忠実かと思えば、真逆のロット2世に忠誠を誓い、反乱を起こしたシャイ団長に復讐するかと思えば、怒る事すらしない。まるで、元から忠誠心がなかったみたいに」
「やはり、偽るというのは難しいですね・・・一か所でも疑われたらおしまいですからね」
「いえいえ、名演技だと思いますよ。現に2世代にわたって王を欺いているのですから。何故、大臣のになったのかは分かりませんけどね」
「研究にはお金が必要なんですよ」
「あら、意外と普通の理由なんです・・・ネ?」
「「・・・・・・」」
2人の間に沈黙が流れる。グイス大臣の手が氷に覆われており、契約書は破く事は出来ない。
では、次に行うべき行動は何か?更に契約書を破けないようにするが正解だ。
「風の魔術、斬撃」
詠唱と共に杖の宝石から風が発生。ハヤブサの最高時速をも軽く超える速度の風は、日本刀にも負けず劣らずの斬撃となり、凍り付いたグイス大臣の両腕を切断。
「あ゛あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!これが、腕を切断される痛み・・・!!もう二度と味わいたくないですね!!」
「安心して。二度と味わえないから」
両腕を切断されてうなだれるグイス大臣の頭を鷲掴みにすると、雷の魔術で脳に直接電撃を流す。魔力の使用量から推測するに、電圧は40V。死にボルトと呼ばれる42Vよりも威力はほんの少し低め。
ギリギリ死なない程度の電気を流しているようだ。情報を色々聞き出す為、殺さない為なのだろうが・・・。
「ヒスイ様のお父様と、ニルヴァーナ様を殺しただけでなく、ヒスイ様を殺そうとした罪、とくと味わいなさい!!!」
どうやら個人的な感情も混じっている模様。俺もグイス大臣には殺意を抱いていたが、10分経過したところで、グイス大臣が叫ばなくなってしまっているのを確認し、慌てて静止する。
「はぁ・・・はぁ・・・流石にやりすぎちゃいましたね」
「うん。ギリギリやりすぎですね。脈はあるけど、死にかけです」
気絶している為、転移魔術の事について聞くのは難しそうだ。出血死で死なないように治癒魔術で止血を施す。
「そういえば、氷漬けにした契約書!破けてないですかね?」
「落ちる際に風をクッション代わりにしたので恐らく大丈夫だとは思いますが・・・」
シュエリ王女の言う通り、氷は一切ヒビは入ってはおらず、中の契約書も破けてはいなかった。
「ヒスイ様のお父様を倒したという魔物に関連する契約書・・・で良いのでしょうか?」
「そうみたいですね。どんな契約内容か分からないですけど・・・」
父さんの実力は不明瞭だが、少なくとも6年程は門番を務めて五体満足だった事は日記から分かっている。未熟な俺を遥かに超える戦闘力がある事だけは分かる。
そんな父さんが負ける相手だ。最低でも今いる俺含めた門番4人でも勝てる可能性は低いだろう。
グリムアン語を読むのは得意ではないので、シュエリ王女が先に内容を黙読し始める。
読み進めるにつれて、王女の顔色が悪くなっていくのが分かる。どんなに悍ましい内容なのだろうか。
「だ、大丈夫ですか?」
「ヒスイ様・・・手を凍らせたのは英断でした」
だったかもしれないではなく、肯定の言葉。そこまで言われると、内容が気になってくるので、シュエリ王女に呼んでもらう事にした。
「『カースドラゴンスライムは、グイスの言う事を聞かなくて良い代わりにナチュレ王国領域に入る事を禁ずる。もし、契約が破棄された場合、カースドラゴンスライムはナチュレを第一優先に襲う』」
「カースドラゴンスライム?何ですかそれ?」
聞いた事の無い名前の魔物だ。随分と豪勢な名前だが、図鑑にも載っていた記憶がない。一体何の魔物なんだ?
「ヒスイ様。この魔物は・・・貴方様の働く門を襲った魔物です」
「え?」
「カースドラゴンスライム・・・別称〈災害〉。20年前に突然姿を現したスライムの新種・・・と言われている魔物です」
20年前。つまりは父さんが戦い敗れた後に世間に姿を現したというわけか。
「個体は1体しか見つかっておらず、調査も完璧ではない魔物ですが、既に2つの国と、約100万人を殺しゾンビとして傀儡化し、草原や森林を毒地した事から世間では〈災害〉と呼ばれています」
先輩門番達はそんなバケモノと戦っていたのかという尊敬と同時に、今がどんだけ危険な状況だったかが理解できた。
ナチュレがある場所は多くの生命が存在する黄金の森林。
毒地を作るような魔物が攻めて来た時の被害は想像もしたくない。
そういえば、ナチュレに来る前に遭遇したゾンビの群れ。途中で事切れてしまったが、あれはもしかして、カースドラゴンスライムが関係しているのではないだろうか?
「カースドラゴンスライム・・・私の傑作です・・・」
風前の灯火のようなか弱い声が足元から聞こえてくる。気絶させたはずのグイス大臣だった。
「確かにご英断でした。私の手を凍らせ、切断したのは・・・ですが・・・!!」
苦悶の表情を浮かべながら立ち上がると、上着を脱ぎ捨て、ポケットに腕を突っ込む。
手を失いながらも、器用に腕を使い、取り出したのは既に4等分に破かれた羊皮紙。羊皮紙には、今シュエリ王女が手に持っている契約書と内容が類似している。
文字はグイス大臣が持っている方が濃く、羊皮紙はこちらの物と比べて古びている。
「それは私が事前に作った複製。こちらが本物の契約書です」
衝撃の事実に俺とシュエリ王女は言葉が出なかった。
「お早い登場でしたね。王女」
「ええ、待っていましたもの」
待っていたようなタイミングの登場は、偶然ではなく、本人の意思だった模様。用事というのはこの事だったようだ。
「前から怪しいとは思っていたんです。おじい様に忠実かと思えば、真逆のロット2世に忠誠を誓い、反乱を起こしたシャイ団長に復讐するかと思えば、怒る事すらしない。まるで、元から忠誠心がなかったみたいに」
「やはり、偽るというのは難しいですね・・・一か所でも疑われたらおしまいですからね」
「いえいえ、名演技だと思いますよ。現に2世代にわたって王を欺いているのですから。何故、大臣のになったのかは分かりませんけどね」
「研究にはお金が必要なんですよ」
「あら、意外と普通の理由なんです・・・ネ?」
「「・・・・・・」」
2人の間に沈黙が流れる。グイス大臣の手が氷に覆われており、契約書は破く事は出来ない。
では、次に行うべき行動は何か?更に契約書を破けないようにするが正解だ。
「風の魔術、斬撃」
詠唱と共に杖の宝石から風が発生。ハヤブサの最高時速をも軽く超える速度の風は、日本刀にも負けず劣らずの斬撃となり、凍り付いたグイス大臣の両腕を切断。
「あ゛あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!これが、腕を切断される痛み・・・!!もう二度と味わいたくないですね!!」
「安心して。二度と味わえないから」
両腕を切断されてうなだれるグイス大臣の頭を鷲掴みにすると、雷の魔術で脳に直接電撃を流す。魔力の使用量から推測するに、電圧は40V。死にボルトと呼ばれる42Vよりも威力はほんの少し低め。
ギリギリ死なない程度の電気を流しているようだ。情報を色々聞き出す為、殺さない為なのだろうが・・・。
「ヒスイ様のお父様と、ニルヴァーナ様を殺しただけでなく、ヒスイ様を殺そうとした罪、とくと味わいなさい!!!」
どうやら個人的な感情も混じっている模様。俺もグイス大臣には殺意を抱いていたが、10分経過したところで、グイス大臣が叫ばなくなってしまっているのを確認し、慌てて静止する。
「はぁ・・・はぁ・・・流石にやりすぎちゃいましたね」
「うん。ギリギリやりすぎですね。脈はあるけど、死にかけです」
気絶している為、転移魔術の事について聞くのは難しそうだ。出血死で死なないように治癒魔術で止血を施す。
「そういえば、氷漬けにした契約書!破けてないですかね?」
「落ちる際に風をクッション代わりにしたので恐らく大丈夫だとは思いますが・・・」
シュエリ王女の言う通り、氷は一切ヒビは入ってはおらず、中の契約書も破けてはいなかった。
「ヒスイ様のお父様を倒したという魔物に関連する契約書・・・で良いのでしょうか?」
「そうみたいですね。どんな契約内容か分からないですけど・・・」
父さんの実力は不明瞭だが、少なくとも6年程は門番を務めて五体満足だった事は日記から分かっている。未熟な俺を遥かに超える戦闘力がある事だけは分かる。
そんな父さんが負ける相手だ。最低でも今いる俺含めた門番4人でも勝てる可能性は低いだろう。
グリムアン語を読むのは得意ではないので、シュエリ王女が先に内容を黙読し始める。
読み進めるにつれて、王女の顔色が悪くなっていくのが分かる。どんなに悍ましい内容なのだろうか。
「だ、大丈夫ですか?」
「ヒスイ様・・・手を凍らせたのは英断でした」
だったかもしれないではなく、肯定の言葉。そこまで言われると、内容が気になってくるので、シュエリ王女に呼んでもらう事にした。
「『カースドラゴンスライムは、グイスの言う事を聞かなくて良い代わりにナチュレ王国領域に入る事を禁ずる。もし、契約が破棄された場合、カースドラゴンスライムはナチュレを第一優先に襲う』」
「カースドラゴンスライム?何ですかそれ?」
聞いた事の無い名前の魔物だ。随分と豪勢な名前だが、図鑑にも載っていた記憶がない。一体何の魔物なんだ?
「ヒスイ様。この魔物は・・・貴方様の働く門を襲った魔物です」
「え?」
「カースドラゴンスライム・・・別称〈災害〉。20年前に突然姿を現したスライムの新種・・・と言われている魔物です」
20年前。つまりは父さんが戦い敗れた後に世間に姿を現したというわけか。
「個体は1体しか見つかっておらず、調査も完璧ではない魔物ですが、既に2つの国と、約100万人を殺しゾンビとして傀儡化し、草原や森林を毒地した事から世間では〈災害〉と呼ばれています」
先輩門番達はそんなバケモノと戦っていたのかという尊敬と同時に、今がどんだけ危険な状況だったかが理解できた。
ナチュレがある場所は多くの生命が存在する黄金の森林。
毒地を作るような魔物が攻めて来た時の被害は想像もしたくない。
そういえば、ナチュレに来る前に遭遇したゾンビの群れ。途中で事切れてしまったが、あれはもしかして、カースドラゴンスライムが関係しているのではないだろうか?
「カースドラゴンスライム・・・私の傑作です・・・」
風前の灯火のようなか弱い声が足元から聞こえてくる。気絶させたはずのグイス大臣だった。
「確かにご英断でした。私の手を凍らせ、切断したのは・・・ですが・・・!!」
苦悶の表情を浮かべながら立ち上がると、上着を脱ぎ捨て、ポケットに腕を突っ込む。
手を失いながらも、器用に腕を使い、取り出したのは既に4等分に破かれた羊皮紙。羊皮紙には、今シュエリ王女が手に持っている契約書と内容が類似している。
文字はグイス大臣が持っている方が濃く、羊皮紙はこちらの物と比べて古びている。
「それは私が事前に作った複製。こちらが本物の契約書です」
衝撃の事実に俺とシュエリ王女は言葉が出なかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
26
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる