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3章 異世界旅行録
39話 鐘の音を聞け
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「今まで正体を隠していた人間が、見せびらかすように敵の目の前でこんな大事な物を破くとお思いで?小説や童話の見過ぎではないのでしょうか?お2人とも」
「グイス・・・!!貴方って人は・・・!!」
怒りに任せて殴りかかろうとするシュエリ王女を制止する。
「落ち着いて下さいシュエリ王女。俺も今、ものすごく殴りたい気分ですが、グイス大臣はいつ死ぬか分からない状態。もしも、シュエリ王女の一発で死んだら何も聞けなくなってしまいますよ?」
「くっ・・・!!」
「ヒスイ王子は冷静ですね。物事を冷静に見ている。今やるべき事が分かっている」
グイスの言う通り、翡翠は既に気持ちの切り替えを完了しつつあった。顔立ちは復讐者の殺気立った表情から、戦地へと赴く戦士の表情へと変化。
「拘束魔術」
翡翠の手の平から魔力で構成された鎖が発生。蛇のような動きを見せ、グイス大臣の体に巻き付いた。
「王女、今すぐ騎士や魔術師を1階の駐屯所に呼び寄せてください。作戦会議を開きます」
まずは状況の説明を戦える者達に行わなければならない。約50人いた日本支部の門番達を壊滅に陥れた魔物だ。前戦力を持って向かわなければ太刀打ちは不可能だろう。
「分かりました。グイス大臣はどうしますか?」
「状況を説明させる為に連れていきましょう。多分喋ってくれるので」
グイス大臣を米俵のように担ぎ、部屋を出る。部屋の前にはグイス大臣との争いによる騒音を聞きつけた侍女が立っていた。
「どうなされましたか!?」
「後で説明するから今すぐに巡回に出てるキャンベル騎士の人達を呼び出す事って可能ですか!?」
「は、はい。屋上に吊るしてある鐘を鳴らせば、聴こえている範囲にいる方々なら呼び寄せられるかと」
「あのベル、そんな役割があったんですね!私が許可しますので、鳴らして下さい!責任は全て私が取りますので!!」
「わ、分かりましたぁ!!」
侍女は慌てて階段を登っていく。屋上までは残り3階なので、大した時間はかからないはずだ。俺とシュエリ王女はその隙に1階の駐屯所に向かって階段を下る。
2階に差し掛かる所で、真上から壮大な鐘の音が聞こえてきた。何処まで聞こえるか分からないが、巡回に行っている人達が帰ってくる事を祈ろう。
「ご心配なく。鐘には魔術的加工を行っており、黄金の森林中に音が届くようになっていますので」
「敵にそんな情報与えても良いのか?」
「特に勝敗に響くような情報ではないですし、私は自分を貴方達の敵だとは思っていませんからね」
「じゃあ、アンタの立場はなんなんだ?」
「そうですね・・・観戦者、とでもいうべきでしょうか?」
「かっこつけてんじゃねぇ」
まあ、敵だったらで面倒だから、ありがたいかもしれない。
1階の駐屯所にやってくると、駐屯所で休んでいた騎士や兵士、魔術師達が一か所に集まっていた。シャイ団長は俺達が1階に戻ってきた2分後に戻ってきた。
「シャイ・マスカッツただいま戻りました。鐘を鳴らすとは一体何があったのですか?」
「単刀直入に言いますと、今から<災害>がやってきます」
「「「「「<災害>っ!!??」」」」」
勇敢な騎士達は動揺し、兵士達は恐怖し、魔術師達は静かに驚くなど、様々な反応をしてくれたが、状況は理解してくれたようだ。
「ど、どうしてそんな事に・・・?」
「この人のせいです」
「時間もあまり残っていないので、様々な経緯などの説明は省きますが、<災害>、カースドラゴンスライムはこのグイス大臣が作ったらしく、今までナチュレに攻めてこないように契約魔術を使っていたらしいのです」
「グイス大臣が<災害>を!?にわかには信じがたいですが・・・そんな事よりも、今は<災害>の事を考えなければ・・・契約魔術の破棄による進攻でよろしいですか?」
流石はシャイ団長。飲み込みが早い。
「一体どのくらい前に契約は破棄されたか分かりますか?」
「それが、俺がグイス大臣の部屋に入る前に既に破かれてしまっていたらしくて詳しい時間までは────」
「今の時間から逆算すると・・・約47ニューテ前ですね」
発言したのは、俺でもなければシュエリ王女でもない。横でガチガチに拘束されているグイス大臣だった。敵でも味方でもないと言っていたが、ヒントは与えてくれるらしい。
47ニューテ・・・つまりは、47分前。俺が転移魔術の情報を得ようと動きだしたのが、約20分前だった事を考慮すると、グイス大臣は俺が探っているのを感じ取った関係なく、破棄した可能性が高いな。
森の民であるエルフなのに、森が破壊されるのは平気なのだろうか。
「グイス大臣、<災害>を呼び寄せた理由は答えてもらう事は可能ですか?」
「ただの興味です。私が作った最強の生物vsナチュレ。どちらが強いのか。黄金の森林に到達した時、聖なる大樹はどのような反応を見せるのか。私はそれがただ見たいだけなんです」
彼はまごうことなき悪である。誰がどう見てもそう評価するだろう。しかし、彼の中に善悪という考えは存在せず、倫理観も存在しない。ただただ自分の本能で動いているだけである。
行動も思考も悪なら俺は本気で怒りを覚え、殺していただろう。しかし、ただの好奇心で動いていると分かると、急に溜飲が下がり、恐怖を感じるようになった。
「グイス・・・!!貴方って人は・・・!!」
怒りに任せて殴りかかろうとするシュエリ王女を制止する。
「落ち着いて下さいシュエリ王女。俺も今、ものすごく殴りたい気分ですが、グイス大臣はいつ死ぬか分からない状態。もしも、シュエリ王女の一発で死んだら何も聞けなくなってしまいますよ?」
「くっ・・・!!」
「ヒスイ王子は冷静ですね。物事を冷静に見ている。今やるべき事が分かっている」
グイスの言う通り、翡翠は既に気持ちの切り替えを完了しつつあった。顔立ちは復讐者の殺気立った表情から、戦地へと赴く戦士の表情へと変化。
「拘束魔術」
翡翠の手の平から魔力で構成された鎖が発生。蛇のような動きを見せ、グイス大臣の体に巻き付いた。
「王女、今すぐ騎士や魔術師を1階の駐屯所に呼び寄せてください。作戦会議を開きます」
まずは状況の説明を戦える者達に行わなければならない。約50人いた日本支部の門番達を壊滅に陥れた魔物だ。前戦力を持って向かわなければ太刀打ちは不可能だろう。
「分かりました。グイス大臣はどうしますか?」
「状況を説明させる為に連れていきましょう。多分喋ってくれるので」
グイス大臣を米俵のように担ぎ、部屋を出る。部屋の前にはグイス大臣との争いによる騒音を聞きつけた侍女が立っていた。
「どうなされましたか!?」
「後で説明するから今すぐに巡回に出てるキャンベル騎士の人達を呼び出す事って可能ですか!?」
「は、はい。屋上に吊るしてある鐘を鳴らせば、聴こえている範囲にいる方々なら呼び寄せられるかと」
「あのベル、そんな役割があったんですね!私が許可しますので、鳴らして下さい!責任は全て私が取りますので!!」
「わ、分かりましたぁ!!」
侍女は慌てて階段を登っていく。屋上までは残り3階なので、大した時間はかからないはずだ。俺とシュエリ王女はその隙に1階の駐屯所に向かって階段を下る。
2階に差し掛かる所で、真上から壮大な鐘の音が聞こえてきた。何処まで聞こえるか分からないが、巡回に行っている人達が帰ってくる事を祈ろう。
「ご心配なく。鐘には魔術的加工を行っており、黄金の森林中に音が届くようになっていますので」
「敵にそんな情報与えても良いのか?」
「特に勝敗に響くような情報ではないですし、私は自分を貴方達の敵だとは思っていませんからね」
「じゃあ、アンタの立場はなんなんだ?」
「そうですね・・・観戦者、とでもいうべきでしょうか?」
「かっこつけてんじゃねぇ」
まあ、敵だったらで面倒だから、ありがたいかもしれない。
1階の駐屯所にやってくると、駐屯所で休んでいた騎士や兵士、魔術師達が一か所に集まっていた。シャイ団長は俺達が1階に戻ってきた2分後に戻ってきた。
「シャイ・マスカッツただいま戻りました。鐘を鳴らすとは一体何があったのですか?」
「単刀直入に言いますと、今から<災害>がやってきます」
「「「「「<災害>っ!!??」」」」」
勇敢な騎士達は動揺し、兵士達は恐怖し、魔術師達は静かに驚くなど、様々な反応をしてくれたが、状況は理解してくれたようだ。
「ど、どうしてそんな事に・・・?」
「この人のせいです」
「時間もあまり残っていないので、様々な経緯などの説明は省きますが、<災害>、カースドラゴンスライムはこのグイス大臣が作ったらしく、今までナチュレに攻めてこないように契約魔術を使っていたらしいのです」
「グイス大臣が<災害>を!?にわかには信じがたいですが・・・そんな事よりも、今は<災害>の事を考えなければ・・・契約魔術の破棄による進攻でよろしいですか?」
流石はシャイ団長。飲み込みが早い。
「一体どのくらい前に契約は破棄されたか分かりますか?」
「それが、俺がグイス大臣の部屋に入る前に既に破かれてしまっていたらしくて詳しい時間までは────」
「今の時間から逆算すると・・・約47ニューテ前ですね」
発言したのは、俺でもなければシュエリ王女でもない。横でガチガチに拘束されているグイス大臣だった。敵でも味方でもないと言っていたが、ヒントは与えてくれるらしい。
47ニューテ・・・つまりは、47分前。俺が転移魔術の情報を得ようと動きだしたのが、約20分前だった事を考慮すると、グイス大臣は俺が探っているのを感じ取った関係なく、破棄した可能性が高いな。
森の民であるエルフなのに、森が破壊されるのは平気なのだろうか。
「グイス大臣、<災害>を呼び寄せた理由は答えてもらう事は可能ですか?」
「ただの興味です。私が作った最強の生物vsナチュレ。どちらが強いのか。黄金の森林に到達した時、聖なる大樹はどのような反応を見せるのか。私はそれがただ見たいだけなんです」
彼はまごうことなき悪である。誰がどう見てもそう評価するだろう。しかし、彼の中に善悪という考えは存在せず、倫理観も存在しない。ただただ自分の本能で動いているだけである。
行動も思考も悪なら俺は本気で怒りを覚え、殺していただろう。しかし、ただの好奇心で動いていると分かると、急に溜飲が下がり、恐怖を感じるようになった。
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