異世界と繋がる不思議な門を警備する仕事に就きしました!

町島航太

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3章 異世界旅行録

42話 出鼻

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 通常のスライムは1㎏の肉を消化するのに1日かかるという。カースドラゴンスライムは一体どれくらい大きなスライムかはまだ不明だが、国を滅ぼしている事から、相当の大きさだという事が予想できる。

 7人の門番ならすぐに消化しきれてしまいそうだが・・・。

『カースドラゴンスライムは、元は私が人口的に作り出したスライムでした』

 頭の中に直接声が聞こえてくる。何処か楽しんでいるような老人の声・・・グイス大臣だ。全員に聞こえているようで、戦士達は歩みを止めて頭を押さえ始めた。

『故意に作り出したのではなく、別の実験の最中に生まれた偶然の産物。数多の奇跡が重なり、生まれたスライムには、他のスライムにはないの能力が備わっていました』

「吸収・・・つまり、他の存在を吸収して自分の力にするって事か?」

『今の解答はヒスイ王子ですかね?ご名答。その性質が非常に面白かったので、色々と吸収させた所、足し算のように強くなっていき、最終的には自分だけの力でドラゴンまでも飲み込んでしまいました』

「それが<災害>の正体・・・道理で国が滅ぶわけだ。そんな事教えてしまってもいいのか?」

『すっかり私に敬語を使わなくなりましたね、シャイ・マスカッツ。ええ、別に構いません。この情報でどんな戦いを繰り広げてくれるのかが楽しみなだけですので。では────』

 <災害>の正体だけを教えたかったのだろう。その後はすっかり声が聞こえなくなった。

「ど、どうします団長・・・?」

「・・・作戦は変えない。遠距離から<災害>を叩き、森に入る前に核を破壊する」

 戦で死人は付き物だ。しかし、1人でも死人を減らしたいのが、シャイの想いだ。

 城下町を出て、森を抜け、南南西の草原に到着する。

 森を出た瞬間、翡翠達を襲ったのは、ゾンビでもなければ、<災害>から生まれた切れ端のスライムでもない。

 悪臭と、毒と、呪いだ。固形ではない3つの害が、目の前を敵を気にしていられないほどに戦士達を苦しめる。中には嘔吐する者までいた。

 出だしから最悪である。しかし、シャイ・マスカッツは既に予見済みだった。

「魔術師隊!呪術師!出番だ!!」

「「「はっ!!」」」

「「「「「解毒魔術デトクスフィキション!!!」」」」」

「「「「「ラーナ、クイヌア解呪」」」」」

 体を蝕むような感覚が消え、吐き気も気だるさも、突然起きた心臓のバグのような不整脈もスッと消えて、気持ちも体もスッキリする。

 体を蝕んでいた毒と呪いが魔術師と呪術師によって、打ち消されたからである。

「知られている3回の戦いの敗北原因は、毒と呪いによる身体の汚染と、身体能力の低下。つまりは、それさえ対策しておけば、ある程度は戦えるという算段です」

 たった3回しか知られていない戦闘から情報を抜き取り、対策を練る。戦士1年目の俺では到底届かない戦略スキルを有している。

「魔術師隊と呪術師達によると、毒と呪いが無効なのは、精々500mとのことです!!」

「十分だ!<災害>は見えたか!?」

「はい!10㎞先に見える紫の物体です!鈍足ではありますが、こちらの方へと向かってきています!!」

 ようやくその姿がはっきりと見える距離までやってきた。先輩達、父さんの仇が巨体を揺らし、体を構成するジェルをこぼしながらその姿をナチュレの軍勢の目の前に現す。

 シルエットは、太った巨大なドラゴン。体色は紫、構成するのはスライム。見た目の特徴は、事前情報通り。

 距離は10㎞も離れているというのに、腐敗臭と悪臭が漂ってくる。魔術師隊と呪術師の力があっても、匂いまでは清浄する事は出来なかった模様。

 本物ではないが、本物のドラゴンを飲み込み、自分の力にしたスライム。その力は吸収されたドラゴンの力に加え、今まで吸収してきた生物の力も合わさっている為、ドラゴンよりも遥かに高い実力を持っていると思われる。

「今<災害>がいる場所に木々はあるか?」

「ありましたが、既に死にました!草原を構成する草も枯れ始めています!」

「そうか・・・・・・弓兵!構え!!」

 シャイ団長の掛け声と共にナチュレの弓兵が魔術と呪術の加護が受けられるギリギリの所まで前に進み、弓に矢を番え、発射準備を完了。

 このまま発射と行きたいが、普通の矢では溶かされてしまい、まともなダメージが見込めないので、一味加える。

「爆発エンチャント準備!!」

「「「「「爆発魔術ロル!!」」」」」

 既に<災害>の周りには保護すべき、緑がないと分かるや否や、シャイ団長が弓兵に指示したエンチャントは炎に準ずる魔術である爆発魔術。木の穂先に赤い光が宿るのを確認すると、シャイ団長は上げていた上をゆっくりと下ろし、叫んだ。

「撃てぇ!!」

 号令と共に、矢が放たれる。放たれた約400本の矢の約8割は<災害>に到達。矢の穂先がゲル状の体に刺さった瞬間、小さな爆発が発生。1本だけでなく、<災害>の体に到達した矢は次々に爆発。

 小さな爆発は重なり、体長約50mの<災害>の体が見えなくなる程の大爆発となった。
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