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4章 最終防衛戦門

3話 グウゥット、モゥニングゥ・・・

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 背中が心地よい。体の上に乗っかってる重みが安心感を与えてくれる。

 まるで、天国のような場所だ。目を開けていないので、分からないが、もしかしてここは本当に天国なのだろうか。

 気づいたら、最高の状況に置かれていた。俺はその前まで、カースドラゴンスライムと戦っていたはず。

 通称〈災害〉の体内に無理矢理侵入して、核を破壊。代償に体がボロボロになった所で記憶が終わっている。

 ほとんどの皮膚が溶けてしまい、腕に至っては骨まで見えていたが、あれで生きているのだろうか?

 天国というか、あの世というものに一度も行った事がないので分からない。こうなったら、目を開けて確認するしかない。

 恐る恐る眼脂で若干くっついた目を無理矢理開き、確認する。まず最初に目に映ったのは、緑色の天蓋。

 背後には、フカフカのベッド。体の上には布団とモネさん。右にはリリ、左にはシュエリ王女が眠っている。

 どうやら俺は死んでないらしい。豪運か?それとも、生命力か。はたまた、リリ達の治癒魔術のおかげか。

「あ、ヒスイ起きた!」

「おう、おはようシャープ。どこまで俺寝てた?」

 俺の起床に気づいたのは、ベッドの横の椅子に座りながらくつろいでいたらシャープ。

 シャープの声に反応するように、同じくベッドの上で眠っている3人の目が覚めた。狸寝入りかと思っていたが、本当に眠っていたらしい。

 モネさんは恥ずかしかったのか、少し頬を赤らめ俺の上から退く。残りの2人は抱きついて来た。

「ヒスイ~~!生きてるってわかってだけど、やっぱり嬉しいー!!」

「ヒスイさまぁ・・・ヒスイさまぁぁぁぁ・・・!!」

 抱きしめられて、体がギチギチと鳴る。やっぱり、ゆっくりと痛みがやってくる方がきついな・・・!!

 苦悶の表情を浮かべているのに、気づいてくれたシャープが、途中で2人を引き剥がしてくれて助かった。

 左側がべっちょりと濡れているが、これはシュエリ王女の涙と鼻水という事で良いだろうか?実際に、垂れているし。

「イテテ・・・シャープありがと。とりあえず、俺が寝てた時間を聞いても良いかな?」

「3日だね。呪いと毒が残ってたから、それで時間がかかったんだと思う」

「そっか・・・なんで、治癒魔術とかで解毒しなかったの?」

 やってもらう立場で何言ってんだこの野郎と思う人もいるかもしれないが、別に嫌味で言ったわけではない。

 ただ純粋に疑問に思っただけだ。

「ああ、それはね─────」

「君に、毒と呪いの免疫を付けさせる為だよ」

 シャープの言葉を遮って、説明してくれたのは、扉の前に立っていた紳士服の老人。

 執事が着るような、きちんとした正装だが、ナチュレの城に勤める人ではなさそうだし、エルフですらない。

 彼をしっかりと認識した瞬間、嗅覚が、芳醇な甘い果実の香りを察知。フルーツの盛り合わせでも近くにあるのだろうかと思ったが、匂いの元は、あの老人からのようだ。

「果実の香水です。良い匂いでしょう?」

「お腹が空いちゃうぐらいには良い匂いですよ。それであなたは誰なんです?」

 城に入っている事と、皆が警戒していない事から、怪しい人ではない事は分かる。俺が寝ていた3日間で知り合った人なのだろう。

 しかし、俺にはその関係性がない。多少は落ち着いているが、紳士服の老人を非常に怪しんでいる。

「あ、その人はリャオさん。3人の賢者のうちの1人だよ」

「どうもどうも」

「賢者?・・・マジ?」

「「マジ?」」

 もっと、汚らしいローブに身を包み、杖をついた老人のようなイメージがあったが、全然違う。英国紳士のような正装だし、杖もついていない。性格もなんだか物腰が柔らかくてとても話しやすい。

「どうもリャオさん。ところでどうしてここに?シャープ達は聞いてる?」

「いいや、全く」「そういえば聞いてなかったね」「とりあえず、シャイ団長のお知り合いでしたので、もてなしましたが」「目的は一体何なんだ?」

 単に忘れていたのか、それとも、あえて言っていなかったのかは分からない。もしかしたら、俺が起きるタイミングを待っていたのかも。

「ええ、その通り。皆に一気に説明する方が楽だからね」

「心読めるんなら、先に行ってください」

「サプライズが大好きなんだよ・・・簡潔に説明させてもらうと、『末を見る者』の動きを察知したからなんだよ」

 シャープとモネさんとリリは頭上に疑問符を浮かべているが、俺には何の事だか、はっきりと分かる。グイス大臣が所属していた組織、俺の父を殺した因縁深い組織だ。

「まさか、001がこの国の大臣をやっているとは全く気付かなかった。ロット2世が嫌いだったから来ていなかったけど、もっと早くに来れば良かったよ」

 賢者からの評価も最悪なロット2世。本当に嫌われているんだな。

「ここにいる5人のうち、3人は何の話か理解できてないみたいだから、『末を見る者』の簡単な説明をするね。この組織は、<災害>を作ったグイスが所属してた組織だね」

「つまりは悪の組織ってワケ!?」「全然聞いた覚えないんだけど、一体いつできたの?」「ていうか、組織名センス無さすぎ。誰が考えたの?」

 簡単な説明を行うと、補填を行うように、説明を受けた者から更なる説明を求められる。案の定、更なる理解の為にリャオさんに向かって3人が質問したが、彼は笑みを崩す事なく、求められた説明を正確に答えた。

「順番に答えさせてもらうね。『末を見る者』の本質は悪ではないけど、結果的に悪になってるね。組員が好き勝手に行動して、好奇心で、世界を滅茶苦茶にしてるから。グイスが<災害>を野に放ったのも、人間の抵抗が見たいとかだったし」

「自覚のない悪が一番面倒くさいネ・・・」

 つまり、あの破滅的なグイス大臣の考え方は、グイス大臣個人の感情ではなく、組織からの影響によるものだったのか。

「実は組織として動き始めたのはつい最近なんだ。約30年前かな?」

 組織として、長いのか、短いのか微妙な数字だな。ザナとリオを繋ぐ門よりも後に生まれたという事か。

「そして、名前のセンスについてだが・・・あまり言わない方が良いかもしれない。の気に触れたら面倒だ」

 恐らく、「彼女」というのは、『末を見る者』の創設者又はそれに近い立場にいる存在だろう。破格の魔術師である賢者をもってしても、面倒を言わしめる才能を持っている事が分かる。

 そして、あくまで推測に過ぎないが、リャオさんはその人と知り合い以上の関係だ。今も俺の頭の中をみてるんだったら、答えて下さい。

「君の読み通り、わしは『末を見る者』の創設者と知り合い・・・いや、友人だ。もうかれこれ30年あっていないけれども、今でも大切に思っているよ」

「友人・・・賢者であるリャオさんも恐れる存在・・・・・・まさか、その人って────」

「3人の賢者のうちの1人。賢者ルミナ。2つの世界を、興味本位で門で繋いだ好奇心の悪魔・・・と言っても過言ではない人だね」

 俺らは今、もしかしなくても、世間には知られていない世界の秘密を聞いている。国家秘密レベルの秘密を。
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