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5章 望まれていない勇者
86話 差し出された救いの手
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訓練は夕方になると終わり、皆自宅に帰ったり、宿舎に帰ったりする。アタシはそのどちらにも住む事を許されていないので、馬小屋に住んでいる。
いつもは痛みに耐えながらトボトボ帰っているのだが、今日は少し訳が違う。動くのに必要な骨は折れており、動くための体力も残っていない。
そんなアタシに残された移動手段は匍匐前進だった。幸いにも腕は折れていなかったのだ。
「なにあれ?芋虫みたい!」「いやいや、それは芋虫に失礼でしょ」
アタシの姿を見て嘲笑する一般人。そんなにも醜いだろうか?手を差し伸べたくないくらい憎いのだろうか?
「あと、少し・・・」
馬小屋が見えてきた所で、安堵する。けど、その安心が良くなかったのだろう。気を引き締めていたのに、全て緩んでしまい、意識が薄れていく。
ダメ。こんなところで寝たら、野犬に襲われちゃう。
もう一度気を引き締めようとしても、既に体力の無いアタシにとってはただの無駄な足掻き。
そのまま、悪夢の世界へと─────。
「あの、君、大丈夫?」
「あ・・・へ・・・?」
死にかけの芋虫のようなアタシに話しかけてくる男の声。うつ伏せになっているので、顔が見えないけど、とても優しい声だ。全てを包み込むような優しさを秘めている。
こんなアタシに声をかけるなんて珍しい。旅人だろうか?ここアプルには人が大勢いるため、全員住民を全員把握しているわけではないので誰なのか分からない。
とにかく、男は何故かアタシを心配してくれている。なら、この状況を打破するのを手伝わせるしかない。
「み・・・ず・・・」
「ん?みず?水が飲みたいの?分かった。生命を支える水よ、我が手に集え『ウォーター』!」
アタシの口元に浮遊する水の玉が現れる。水の魔法で作られた水は不純物などは混じっておらず、とても美味しいらしい。
虫のようにちゅうちゅうと吸水すると、空っぽだったお腹が少しだけ満たされているのが分かった。乾いた喉も十分潤された。
でも、栄養が足りていない。けど、食べ物をねだるのは流石に─────
「凄い痩せてるな・・・このままだと、命が危ない。君、これは食べられる?」
体を持ち上げられ、仰向けにさせられる。これで男の顔をようやく見れたのだけれども、酷く悲しそうな顔をしていた。アタシに会う前に何か悲しい事でもあったのだろうか?
こんなにも優しそうな人の顔を初めてみた。男の手には、干し肉が握られていた。それを、一口サイズにちぎると、アタシの口の中へと放り込む。
体を動かす体力すら残っていなかったアタシの体は栄養欲しさに歯を動かし、干し肉を噛み締め始めた。
いつもは痛みに耐えながらトボトボ帰っているのだが、今日は少し訳が違う。動くのに必要な骨は折れており、動くための体力も残っていない。
そんなアタシに残された移動手段は匍匐前進だった。幸いにも腕は折れていなかったのだ。
「なにあれ?芋虫みたい!」「いやいや、それは芋虫に失礼でしょ」
アタシの姿を見て嘲笑する一般人。そんなにも醜いだろうか?手を差し伸べたくないくらい憎いのだろうか?
「あと、少し・・・」
馬小屋が見えてきた所で、安堵する。けど、その安心が良くなかったのだろう。気を引き締めていたのに、全て緩んでしまい、意識が薄れていく。
ダメ。こんなところで寝たら、野犬に襲われちゃう。
もう一度気を引き締めようとしても、既に体力の無いアタシにとってはただの無駄な足掻き。
そのまま、悪夢の世界へと─────。
「あの、君、大丈夫?」
「あ・・・へ・・・?」
死にかけの芋虫のようなアタシに話しかけてくる男の声。うつ伏せになっているので、顔が見えないけど、とても優しい声だ。全てを包み込むような優しさを秘めている。
こんなアタシに声をかけるなんて珍しい。旅人だろうか?ここアプルには人が大勢いるため、全員住民を全員把握しているわけではないので誰なのか分からない。
とにかく、男は何故かアタシを心配してくれている。なら、この状況を打破するのを手伝わせるしかない。
「み・・・ず・・・」
「ん?みず?水が飲みたいの?分かった。生命を支える水よ、我が手に集え『ウォーター』!」
アタシの口元に浮遊する水の玉が現れる。水の魔法で作られた水は不純物などは混じっておらず、とても美味しいらしい。
虫のようにちゅうちゅうと吸水すると、空っぽだったお腹が少しだけ満たされているのが分かった。乾いた喉も十分潤された。
でも、栄養が足りていない。けど、食べ物をねだるのは流石に─────
「凄い痩せてるな・・・このままだと、命が危ない。君、これは食べられる?」
体を持ち上げられ、仰向けにさせられる。これで男の顔をようやく見れたのだけれども、酷く悲しそうな顔をしていた。アタシに会う前に何か悲しい事でもあったのだろうか?
こんなにも優しそうな人の顔を初めてみた。男の手には、干し肉が握られていた。それを、一口サイズにちぎると、アタシの口の中へと放り込む。
体を動かす体力すら残っていなかったアタシの体は栄養欲しさに歯を動かし、干し肉を噛み締め始めた。
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