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5章 望まれていない勇者

87話 何故か優しい男

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「良かった・・・咀嚼する体力はあったみたい・・・・・・酷い怪我だ」

 アタシが干し肉を食べている中、男はアタシの体をジロジロと眺めて状態を確認していた。こんな水ぼらしい体なんか見て楽しいだろうか?

「シームさんを呼ぶか・・・でも、癒しの魔法は確か体力が無いと癒せないんだっけか」

 何かを呟いているが、耳が今遠くなっていて全然聞こえない。どうやって犯そうか考えているのだろうか?

「仕方ない。君、家は何処かな?」

 アタシに向かって言ってくれたので今のは良く聞こえた。馬小屋を指差す。

「・・・成程。分かった。立てないよね?」

 当然だ。見れば分かるだろう?体力と栄養不足でまるで体が動かない。芋虫匍匐前進がやっとだ。

「それじゃあ、失礼」

 男はあろう事か、アタシの体を持ち上げて、馬小屋へと運び出した。一体何がしたいんだ?まるで意図が読めない。

「ベッドは・・・無いよね。藁の上で寝てるのかな?」

 首を横に振ると、男は一番近くにあった馬のいない部屋へと連れていき、藁の上にアタシの体を置いた。

「随分と軽かった・・・一体君はどんな生活をしているんだい?・・・いや、今は喋らなくて良いや。とにかく、これ食べて」

 男が取り出したのは、1人では食べきれないような量の食べ物。あまりの量に驚いていると、お腹から雷のような音が鳴る。本能が食事を求めている。男も食べて良いと言っている。ならば、食べる他ない。

「ふぅっ!ふっ!ふぅぅぅぅぅぅ!!」

 まるで理性を失った獣のように、アタシは食料に手を出し、口の中へと運んだ。味なんかどうでも良い。お腹が満たされる事だけに集中する。

 お腹が十分に膨れた時には、男が提供してくれた食べ物はすっかりなくなっていた。

「良い食べっぷり・・・ていうよりかは、食べていなかった分を補充しているように見えるね。とにかく、今日はもう寝なさい。また明日の朝来るから」

 男は立ち上がると、馬小屋から出て行ってしまった。アタシに心配の声をかけただけでなく、水を与え、食事を与えてくれた。一体何故?一体何が目的でアタシなんかに食事を与えた?

 性欲を満たしたいなら、すぐに襲えば良い話なのに(まあ、蹴り飛ばすが)。

 ・・・そうか。アタシの体がやせ細っていて、性欲が湧かなかったから、まず最初に健康的な体にしてから犯すという算段か。成程、育てて食べるタイプの人間か・・・けど、アタシだってそんな形で処女を散らしたくはない。襲われそうになったら、全力で抵抗するのみだ。
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