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勇者part3
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「ジンさん!!」
「不味いな、あんな化け物に変身しちまうなんて・・・」
リンタロウさんの表情が曇る。
事態はかなり深刻だ。
「メイルさん、あんたアクア使ったらどのぐらいの水を作れる?」
「ア、アクアって水魔法の?」
そう質問すると、コクりと頷く。
アクア。
水を生成して、水鉄砲の如く発射することが出来る魔法。
他の魔法同様に魔力の強さによって勢いや量も変わってくる。
「なら、頼みがある。ちょっと耳を貸してくれ」
リンタロウさんは私の耳元で他の人には聞こえないように話す。
「──わかりました。やれるだけやってみます」
一瞬出来るか不安だったが、やるしかない。
私はその時に備えて待機することにした。
「オォオオオオオオ!!」
ダリスの咆哮でほんの僅かだが、足元が揺れる。
完全に理性を失っている。この状態では魔法は撃つことは出来ないだろう。
その代わりにスピードとパワー、更に防御力が大幅に上がっている。
今手元にあるのは真っ二つに折れた剣だけ。
他に武器になるものは持ってきていない。
「仕方ない、素手で戦うか───」
素手での戦いはあまり得意ではないが、今はそれしかない。
「こいよ化け物。お前なんか剣なしでも余裕だぜ」
「オォオオオオオオオオオオオオ!!」
言葉は理解できるのだろうかダリスは俺に向かって走ってくる。
「よいしょおおお!!」
ある程度近づいた距離からのパンチを真っ正面から受け止めた。
改めて受けてみるととてつもなく強い。
100パーセントの力を出せばこんなの片手でも受けることが出来るが、ここで本気を出してしまったら地下水路が崩壊しかねない。
出せるとしても30パーセント程しか出せないだろう。
しかし、それでも───。
「ジーーーン!!受け取れぇえええ!!」
本気30パーセントを出そうと決意したその刹那。
後ろで戦いを見守っていたアグネスさんが自分の腰に納めていた剣を引き抜き、投げる。
投げた剣は矢の如くまっすぐ飛んで、1秒もかからずに俺の元へとやってきた。
(今だ!!)
拳を押し戻して、自分に刺さる前に上手くキャッチする。
「サンキュー!アグネスさん!!」
「いいから、さっさと仕留めなさい」
本当に助かったこれで、本気30パーセントを出さずに、15パーセントで納める事ができる。
「これからは剣術だけじゃなく、体術や拳法の特訓も加えなきゃな。その事を教えてくれたのはお前だダリス。ありがとう。お礼に牢獄にぶちこんでやる」
剣に魔力を注ぎ込んで、とどめの一撃の準備をする。
魔法剣。
剣に魔力を注ぎ、フレイムやアイス等を唱えて、炎の剣や氷の剣を一時的に作る大技。
俺とダリスの距離はあまり離れてはいない。ならば、ダリスが接近してきた瞬間を狙うのが1発で仕留められる可能性が高い。
それに、アグネスさんの剣も魔法剣に耐えることが出来るのは、せいぜい一回だけだろう。
魔法は何にしよう───そうだ!
「フレイム!」
炎の魔法を叫ぶ。すると、白く輝く剣は灼熱の炎に包まれ、炎の剣と変貌する。
確か俺の記憶だとミノタウロスは炎に弱かったはず。しかし、今の俺の判断は賭けごとに等しい。
まず、あいつがミノタウロスなのかも分からないからだ。
しかし、やらなければならない。
「オォオオオオオオオオオオオオ!!」
近づいてきて、拳を振り上げたその刹那、巨大な魔晶石が突き刺さった胴体が無防備になる。
狙いは───あの魔晶石だ!!
「うぉおおおりゃああああああああああああああああ!!」
拳が降ってくる前に素早く懐に入り、紫色に怪しく輝く魔晶石を炎の剣で突く。
「オ・・・ォ・・・」
ピキリ。魔晶石に亀裂が入る。その亀裂は広がっていき、崩壊を始めた。
「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
魔晶石が砕けたと同時にダリスが苦しみ始める。
恐らく魔晶石は動力源のようなものだったのだろう。
多分このミノタウロスの姿ももう保つ事が出来ないだろう。
「おのれぇ・・・このクソ勇者ぁああああああああああ!!」
正気が戻ったようで、ダリスは怒りの矛先を俺に向けてくる。
「死ねぇええええええええええええ!!」
最後の抵抗で巨大な拳で殴りかかってくる。
このままだと確実に俺は拳の餌食になってしまうだろう。
しかし、まだ俺には力が残っている。
それに、炎を纏った剣もまだ崩れずに俺の手にあった。
ならば、することはひとつ───。
「誰が死ぬかぁああああああああああああああああああああああ!!」
拳が到着する前に、魔晶石が無くなった胴体に斬撃を叩き込む。
ダリスの拳は俺の顔面にあたる寸前で止まり、後退する。
すると、俺が斬った所から燃え始め、最終的には火ダルマになってしまう。
「あぁああああああああああああああああああああああああああ!!」
ダリスはその場に倒れこみ、悶え苦しむ。
「今だ!アクアを唱えろ!」
「はい!アクア!」
後ろから水の魔法アクアを唱えるメイルさんの声が聞こえてくる。
すぐに後ろを振り返ってみるとそこには───。
「で、でかぁ!何あれ?水玉!?」
半径2mはある水の玉があった。
普通ならアクアを唱えたら水鉄砲のように水が噴射するはずだが、多分ガーディアン家の娘であるメイルさんが水の玉に変えたのだろう。
「おりゃ!!」
次の瞬間、水玉は火ダルマになっているダリスへと飛んでいき、燃え盛る体を包んで、消火した。
『かぼぉ!!』
「ちょ、メイルさん!溺れてる!溺れてるよ!」
「分かってます!──そりゃ!」
ダリスを包んでいた水玉が小さくなり、ダリスの顔だけが出てくる。
出てきた顔はミノタウロスではなく、ミノタウロスに変身する前の金髪碧眼の青年だった。
残っていた魔晶石の力が尽きたのだろう。
「ジン!戦った後で悪いんだけど、その水玉にフリーズ唱えてくれない?」
「は、はい──フリーズ!」
言われた通りに冷凍魔法フリーズを撃つと、水玉が氷玉に変化して、ダリスの動きを封じた。
「よし!捕獲成功!!」
「「いやいや、かわいそうでしょ!?」」
そして、最後に奇跡的に俺とメイルさんの声がハモった。
「不味いな、あんな化け物に変身しちまうなんて・・・」
リンタロウさんの表情が曇る。
事態はかなり深刻だ。
「メイルさん、あんたアクア使ったらどのぐらいの水を作れる?」
「ア、アクアって水魔法の?」
そう質問すると、コクりと頷く。
アクア。
水を生成して、水鉄砲の如く発射することが出来る魔法。
他の魔法同様に魔力の強さによって勢いや量も変わってくる。
「なら、頼みがある。ちょっと耳を貸してくれ」
リンタロウさんは私の耳元で他の人には聞こえないように話す。
「──わかりました。やれるだけやってみます」
一瞬出来るか不安だったが、やるしかない。
私はその時に備えて待機することにした。
「オォオオオオオオ!!」
ダリスの咆哮でほんの僅かだが、足元が揺れる。
完全に理性を失っている。この状態では魔法は撃つことは出来ないだろう。
その代わりにスピードとパワー、更に防御力が大幅に上がっている。
今手元にあるのは真っ二つに折れた剣だけ。
他に武器になるものは持ってきていない。
「仕方ない、素手で戦うか───」
素手での戦いはあまり得意ではないが、今はそれしかない。
「こいよ化け物。お前なんか剣なしでも余裕だぜ」
「オォオオオオオオオオオオオオ!!」
言葉は理解できるのだろうかダリスは俺に向かって走ってくる。
「よいしょおおお!!」
ある程度近づいた距離からのパンチを真っ正面から受け止めた。
改めて受けてみるととてつもなく強い。
100パーセントの力を出せばこんなの片手でも受けることが出来るが、ここで本気を出してしまったら地下水路が崩壊しかねない。
出せるとしても30パーセント程しか出せないだろう。
しかし、それでも───。
「ジーーーン!!受け取れぇえええ!!」
本気30パーセントを出そうと決意したその刹那。
後ろで戦いを見守っていたアグネスさんが自分の腰に納めていた剣を引き抜き、投げる。
投げた剣は矢の如くまっすぐ飛んで、1秒もかからずに俺の元へとやってきた。
(今だ!!)
拳を押し戻して、自分に刺さる前に上手くキャッチする。
「サンキュー!アグネスさん!!」
「いいから、さっさと仕留めなさい」
本当に助かったこれで、本気30パーセントを出さずに、15パーセントで納める事ができる。
「これからは剣術だけじゃなく、体術や拳法の特訓も加えなきゃな。その事を教えてくれたのはお前だダリス。ありがとう。お礼に牢獄にぶちこんでやる」
剣に魔力を注ぎ込んで、とどめの一撃の準備をする。
魔法剣。
剣に魔力を注ぎ、フレイムやアイス等を唱えて、炎の剣や氷の剣を一時的に作る大技。
俺とダリスの距離はあまり離れてはいない。ならば、ダリスが接近してきた瞬間を狙うのが1発で仕留められる可能性が高い。
それに、アグネスさんの剣も魔法剣に耐えることが出来るのは、せいぜい一回だけだろう。
魔法は何にしよう───そうだ!
「フレイム!」
炎の魔法を叫ぶ。すると、白く輝く剣は灼熱の炎に包まれ、炎の剣と変貌する。
確か俺の記憶だとミノタウロスは炎に弱かったはず。しかし、今の俺の判断は賭けごとに等しい。
まず、あいつがミノタウロスなのかも分からないからだ。
しかし、やらなければならない。
「オォオオオオオオオオオオオオ!!」
近づいてきて、拳を振り上げたその刹那、巨大な魔晶石が突き刺さった胴体が無防備になる。
狙いは───あの魔晶石だ!!
「うぉおおおりゃああああああああああああああああ!!」
拳が降ってくる前に素早く懐に入り、紫色に怪しく輝く魔晶石を炎の剣で突く。
「オ・・・ォ・・・」
ピキリ。魔晶石に亀裂が入る。その亀裂は広がっていき、崩壊を始めた。
「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
魔晶石が砕けたと同時にダリスが苦しみ始める。
恐らく魔晶石は動力源のようなものだったのだろう。
多分このミノタウロスの姿ももう保つ事が出来ないだろう。
「おのれぇ・・・このクソ勇者ぁああああああああああ!!」
正気が戻ったようで、ダリスは怒りの矛先を俺に向けてくる。
「死ねぇええええええええええええ!!」
最後の抵抗で巨大な拳で殴りかかってくる。
このままだと確実に俺は拳の餌食になってしまうだろう。
しかし、まだ俺には力が残っている。
それに、炎を纏った剣もまだ崩れずに俺の手にあった。
ならば、することはひとつ───。
「誰が死ぬかぁああああああああああああああああああああああ!!」
拳が到着する前に、魔晶石が無くなった胴体に斬撃を叩き込む。
ダリスの拳は俺の顔面にあたる寸前で止まり、後退する。
すると、俺が斬った所から燃え始め、最終的には火ダルマになってしまう。
「あぁああああああああああああああああああああああああああ!!」
ダリスはその場に倒れこみ、悶え苦しむ。
「今だ!アクアを唱えろ!」
「はい!アクア!」
後ろから水の魔法アクアを唱えるメイルさんの声が聞こえてくる。
すぐに後ろを振り返ってみるとそこには───。
「で、でかぁ!何あれ?水玉!?」
半径2mはある水の玉があった。
普通ならアクアを唱えたら水鉄砲のように水が噴射するはずだが、多分ガーディアン家の娘であるメイルさんが水の玉に変えたのだろう。
「おりゃ!!」
次の瞬間、水玉は火ダルマになっているダリスへと飛んでいき、燃え盛る体を包んで、消火した。
『かぼぉ!!』
「ちょ、メイルさん!溺れてる!溺れてるよ!」
「分かってます!──そりゃ!」
ダリスを包んでいた水玉が小さくなり、ダリスの顔だけが出てくる。
出てきた顔はミノタウロスではなく、ミノタウロスに変身する前の金髪碧眼の青年だった。
残っていた魔晶石の力が尽きたのだろう。
「ジン!戦った後で悪いんだけど、その水玉にフリーズ唱えてくれない?」
「は、はい──フリーズ!」
言われた通りに冷凍魔法フリーズを撃つと、水玉が氷玉に変化して、ダリスの動きを封じた。
「よし!捕獲成功!!」
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