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第2章 鶴と思ったら亀だった
5-1 やっぱり手放すことにした
しおりを挟む「デュークさんは、本当に何でも出来るんですねぇ」
ジュージューと油が鉄板で音を立てる。香ばしい匂いが狭い部屋に充満し、食欲を刺激した。
泥だらけになった服を着替え(デュークの服だが)ベッドの上に三角座りをして待つ銀髪の青年が、感心したように息を吐いた。
1番安い食材で作っている野菜炒めを、よだれを垂らさんばかりに待ち望んでいるカルマを背に、デュークは台所に立ちながら大いなる疑問と戦っていた。
(俺はなんでこいつに飯を作ってやってるんだろう)
世界の7大ミステリーに数えてもいい気がする。
「そりゃ1人で暮らしてりゃあ男だって出来るようになるだろ」
別に自慢するほどの腕前でもない。要するに食えればいいのだ。
「作ってくれる人はいないんですか?」
「…………」
思わずフライパンを返す手が止まる。振り返り、じっとりと質問主を見た。
「どういう意味だ? それは」
「へ?」
「いや、いい。聞いた俺が馬鹿だった」
きょとんと聞き返す青年から視線を外し、料理を再開する。
「別に、言やぁ作ってくれる女も養ってくれる女もいるだろうが、俺はそうやって尽くした分、恩着せがましく言ってくる女が大っ嫌いなんだよ。だったら自分でやるっつーの」
過去のいろいろな経験からの本音だったのだが、ウミガメ以下のトロさを誇る男には伝わらなかったらしい。
クスッと笑った声を聞きとがめ、もう1度振り返る。
「なんだよ?」
「いや、デュークさんは嫌いなものだらけなんだなぁと思って」
「あー……」
揚げ足を取る青年に、答えに迷って天井を仰ぐ。
指摘されてみれば、確かに口癖のように言っていたかもしれない。
「……嫌いなものなんざこの世に腐るほどあるが、存在が許せないほど嫌いなものは1つだけだ」
「何ですか? それは」
趣向を変えた返答に興味が湧いたらしい。カルマが身を乗り出してくる。
「ドラゴン」
小さな沈黙が落ちた。
「竜だよ、竜。トカゲのでっかい版の首長くして羽生やしたみたいなやつ。見たことないか?」
「ドラゴン……ですか。見たことは……ないですけど、本で読んだことはあります」
「まあ都会に住んでたら、そうそうお目にかかることはないな。お前は来るとき会わずに済んだみたいだが、この街の外にはうろついてるぜ。つーか、人間が住んで騎士団が守っているようなところ以外は大抵生息してる」
ここダングヒルズは名目上アルテナ帝国に所属しているが、いわば見捨てられた街だ。
街を守る役目を持つ帝国騎士団は常駐しておらず、ダングヒルズを根城とする種々のマフィア組織がそれぞれのルールで街を守っている。
基本的には対立し、派閥を争っている彼らも、例えばドラゴンが街を襲ってくるなどの外的圧力がかかれば、一時的に共闘しそれを排除するのだ。
「そんなに嫌いなのには、何か理由が?」
「そうだな、色々あるが1つは――」
どれを言うべきか迷い、デュークは1番『まとも』な理由を口にした。
「母親を喰い殺された」
「え――」
カルマが息を飲む。フライパンの火を消し、デュークは棚から皿を取り出した。
「竜が……人を食べるんですか?」
「田舎じゃあ珍しいことじゃない。奴らの身体は鋼のように硬いし、牙は鋼鉄をも噛み砕く。生身の人間じゃあ太刀打ちできない。……ほら、出来たぞ」
できあがった料理を適当に皿に流し込みながら淡々と続ける。
ひとり用の小さなローテーブルの上に皿を置くと、カルマがこくんと頷き、ベッドから降りて大人しく席についた。
入れ替わりにベッドサイドに腰掛けて、その横顔を眺める。
気のせいか、いつも以上に顔が白い。
「何で、ふらふら旅してるんだとか……」
「んあ?」
「何も聞かないんですか?」
「聞いて欲しいのか?」
横目で窺うようにしながら、今更の質問をしてくるカルマに嘆息混じりに聞き返す。
「いえ……」
口ごもり視線を逸らすカルマを見る。
(やっぱり……そうだよな)
昨夜この青年を受け入れてから丸1日経っても、拭いきれない違和感を再認識する。
「やっぱり帰れ、お前は」
「えっ……」
それは1日考え抜いた上の結論だった。
この街に来たということはそれなりの事情があってのことだろうが、どう考えても彼はここにいるべき人間ではない。
キレイ過ぎるのだ。
デュークとは、この街の住民とは、根本的に住む世界が違う。
「お呼びじゃねーってことだよ。何も知らずに紛れ込むには、この街は人に優しくない」
「私は帰るつもりは――」
「だったら!」
食い下がるカルマの声を奪う。
「俺が近くの街まで連れて行ってやる」
有無を言わせぬ言葉にカルマが押し黙る。
それでも引くつもりはないのか、珍しく硬い顔で見返す姿はやはり清廉で、余計にデュークの決意を固くした。
「ここはお前みたいなキレーなやつがいていい場所じゃない」
視線が絡み合う。怯えさせるつもりで睨みつけるが、しかしカルマの表情は変わらなかった。
「その真っ白い羽が、俺みたいに真っ黒になる前にとっとと出てけ」
「私は白い羽なんていらない」
叩き返すような言葉の強さに逆に驚く。
「黒い羽を探してるんです」
しかし次に続いた言葉は、デュークには理解不能なものだった。
「あなたが黒い羽を持っているというなら、私に見せてくれませんか?」
カルマの表情は真剣だった。その意味を計りかね返答に窮していると、何かに耳を傾けるようにカルマが目を閉じた。
「……分かりました。この街を出ましょう」
固い声で告げられた承諾は、誰に向けてのものなのか。
その場にいるのは2人だけだというのに、デュークはそんな疑問が湧いた自分を不思議に思った。
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