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第2章 鶴と思ったら亀だった
5-2 やっぱり手放すことにした
しおりを挟むその野菜炒めが最後の晩餐になった。
簡単に味付けただけの料理だったが、暖かさが胸に染みた。
まるで作り手の心みたいだと、カルマは思った。
たった1日一緒にいただけの親切な人は、家に残っていた酒を開けてくれた。
アルコールというものを口にするのは初めてだったが、勧められたので一気に飲んでみたところ、グラス一杯で盛大に回った。
「う~……デュークさーん……」
視界が回り、隣にいたはずの人を手探りに探す。
「なつくな! 水を飲め!」
すり寄るカルマを邪険に扱い、水道水を汲んだコップを突き出すデューク。
それを受け取り、カルマは盛大に零しながら飲んだ。
ぷはっ、と大きく息を吐いて、そのままこてんとデュークの肩に頭を落とす。
「おい、このまま寝るなよ」
思わず寝そうになったところを釘を刺される。本当によく分かっている。
「……ねぇ、あなたがもし女性だとして」
「はぁ?」
「おなかを痛めて産んだ子が醜い化け物だったら……どうしますか……?」
急に何を言い出すのかと思っただろう。
しかしデュークは、なぜか引き攣った顔でカルマを見返しただけだった。
多分それは、ずっと誰かに聞きたかったこと。
あの悲しい物語に、他の結末があったのかどうか。
「泣いて、狂って、化け物だと罵って捨てたとしても、私はそこに何の罪もないと思うんです」
確かに愛した男との間の子供なのに、似ても似つかない、人間ですらない化け物を産み落としたら。
不実を問われ、軽蔑の眼差しで切り捨てられたら。
『汚らわしい女だ。魔物の子を腹に宿すなど!』
『違うわ! あなた、信じて――!』
ただの普通の女だったのだ。
彼女も、我が子を抱いて笑いたかったはずだ。
『ほらあなた、私たちの子よ。双子なのよ、可愛いでしょう? 上の子は、あなたに目元が似てる――』
そんな些細な幸せすら奪った。
『信じて!』
顔も覚えていない自分を生んだ女性の、声だけが妙に記憶にこびりついている。
『私じゃない! 私の子じゃないわ! だからお願い、捨てないであなた――!』
「……ごめんなさい、ごめんなさい。あなたを不幸にしてごめんなさい。生まれてきてごめんなさい」
朦朧とした頭で、ぼろぼろとこぼれる己の涙を認識する。
こんなに真剣に泣いたのはいつぶりだろう。
ずっと笑っていようと決めたのに。
ぽん、と大きな手に頭を叩かれた。
(兄さん……?)
『あんなモノ、生まれてこなければ良かったのに――!』
子とすら認識されず、生ゴミのように捨てられた自分たちは、もしかしたら本当に生まれてこない方が良かったのかもしれない。
「……でも、私はあなたに生まれてきて欲しかった……」
『大丈夫だ。私が傍に居るのだから、お前は笑っていればいい』
優しくて強い声。生まれた時から共に在った、魂の片割れ。
(結局、私はあなたを生かすために生きている)
宥めるように頭を撫でてくる手が心地良くて、すっと気分が楽になる。
「……からみ上戸の上に泣き上戸かよ」
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