Dのカルマ

猫目化月

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第5章 ある奇術師の忠告

13-1 怪我をしたので手当てした

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 水を飲んで落ち着いた後、再び眠りについたカルマの額に浮き上がる汗を、デュークはタオルで拭った。怪我による発熱が続いていた。

「甲斐甲斐しいねェ」
「るせ。てめぇらが何もしないからだろうが」
「だって俺たちが守らなきゃいけないのは君だからね。ペットの面倒は自分で見てよ」

 窓枠に腰掛け、片足を膝に置いて頬杖をつくピエロに舌打ちする。

「……ホントは、契約も済んでないディーを傍に置くのは反対なんだけどねェ」
「何か言ったか?」
「気のせいじゃない?」

 よく分からないことを言ってはぐらかす男に嘆息する。

「あなたを襲った騎士団と灰色の竜――彼らの黒幕を、今私たちは追っているの」

 壁に背を預け、腕を組んだ赤い女が説明を再開した。

「数年前からエルトシャンの名を騙り、ディアドラの再興を嘯きながら不穏な動きを見せている者よ。隠れ蓑にされているエルトシャンはいい迷惑。探りを入れてくる人間が多くなって、こちらの計画にも支障を来している。何より、商売敵を野放しにしておくわけにはいかないでしょう? 遅かれ早かれ――叩き潰す」

 悪女のような表情を浮かべたシェリルの煉瓦色の瞳がすいと細められる。

「そりゃあ構わねぇが、黒幕の検討はついてるのかよ?」

 デュークの問いに、女は肩を落としてかぶりを振った。

「私たちもなかなか足取りが掴めてなかったけれど、今回派手に動いてくれたのは良いチャンスになると思う」
「騎士団が動いたとなると、思った以上にビックなネームかもしれないねェ」

 左眼の下のペイントを指先で掻きながら、ミスター・スラングが口を挟む。
 その言葉にあることを思い出し、デュークは親指で唇を撫でた。

「まさか、こいつが人買いに金貨五万枚の手配をかけられたのも何か関係があるのか?」

 金貨五万枚は破格だ。道楽富豪といえど、おいそれと口に出来る額ではない。

 デュークの口にした疑問に、ミスター・スラングとミス・ラビリンス。2人が顔を見合わせた。

「――ミスター・スラング。本部と連絡を取って、ダングヒルズの裏商人の販売ルートを全て調べて」
「了解、ミス・ラビリンス」

 やがて示し合わせたように同時に視線を外し、ミス・ラビリンスの指示にミスター・スラングが従う。

「人買いを使ったというなら、その子を生きたまま手に入れようとしたということよね」
「襲ってきた野盗もどきの騎士団も、銀髪を『渡せ』とは言ったが殺す気はなかった――そういやカルマの兄貴は、あの灰色の竜の主に身体を奪われたと言っていた」

 今度は弟の方を狙っているのかもしれない。
 その可能性に行き当たったデュークに、シェリルが形の良い眉を上げた。

「兄……?」
「カルマ=ディー=ダークナイト――」

 デュークがその名を口にした瞬間、シェリルの顔色が変わった。

「なぜその名を……!」
「あいつの兄貴の名前だ。やっぱこいつもディーの一族か?」
「どこにいるの!? 黒き竜は!」

 急に迫ってきた女に、デュークは無言でカルマを指さした。

「ホワイトドラゴン……?」
「身体を奪われた兄貴の魂を保護しているそうだ。あの身体を今は2人で使っているらしい」
「黒き竜の器を奪った……ですって? 人間が? どういうことなの」

 譫言のように呟くシェリルに顔色はない。

「――ブラックドラゴンはホワイトドラゴンと対をなす、最も位の高いディーの一つ。そのものが吐く黒い炎の後には、百年は命が芽吹くことはないという破壊の化身――最も危険で、最も強大な力を持つディーよ。それを人間が奪っただなんて……あり得ないわ」

 もう1度、有り得ないと呟いたシェリルの後ろで、ミスター・スラングが芝居がかった仕草で首を捻った。

「ブラックドラゴンは10年前にアルテナのどこかで覚醒が確認されたきり、消息を絶っている――おそらく聖域に保護されたのだろうと予測は立つけどね。何がどうなって、今そんなことになっているのかな」
「聖域?」

 その言葉にデュークが反応する。ダークナイトも同じ単語を口にしていた。

「そう、聖域。この世界のどこかにある、ドラゴンが住まう楽園さ」
「そうです。聖域の楽園エデン――そこに私たちはずっと閉じ込められていた」

 ミスター・スラングの回答に応えたのは、デュークではない。

「カルマ、起きて……」

 どうやら目を覚ましていたらしいカルマがベッドに身を起こす。
 枕元に置いてあった眼鏡をかけると、申し訳なさそうな顔で頭を下げた。

「巻き込んでしまってごめんなさい。ちゃんとお話しします。私たちが何をしていたのか、なぜ、私たち兄弟がこんな風になったのかを」




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