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第5章 ある奇術師の忠告
13-2 怪我をしたので手当てした
しおりを挟む「私と兄は、人間の女性の腹に宿りました」
カルマの告白は、始めから耳を疑うものだった。
「2匹の獣が生まれたときは、母親はそれこそショック死してもおかしくないほど驚いたでしょう。私たち双子はすぐに捨てられ、気がつけば人の子供の姿で各地を転々としていました」
淡々とした語り口にはあまり感傷は見えない。だが薄く笑みすら履いて話す内容は、言葉から感じる重み以上に悲惨なものだった。
「やがて人売りに買われたことがきっかけで、兄が黒竜として覚醒しました」
「それが、10年前か」
デュークの言葉に、カルマが頷く。
「兄の覚醒を聞きつけ、聖域の手の者が私たちを捜し出したのでしょう。兄弟で行き倒れていたところを捜索隊に見つかり、私たちは保護されました。――『エデン』と呼ばれる小さな白い塔の中はとても綺麗で、本当に楽園みたいな場所でした」
「それからは、ずっとそこに?」
シェリルに問われ、やはりカルマは小さく頷いた。
(10年、だって?)
とてつもなく長い時間だ。この若い竜にとっては。
『私は、外の世界のことを何も知らないから』
それは誇張でも比喩でもなんでもなく、本当に、ずっと檻の中に閉じ込められていたのだ。楽園という名の小さな檻の中に。
「でも、幸せでしたよ?」
痛ましい視線を向けられ、白い竜はふわりと笑った。
「そこはいつも暖かかったし、食べるものにも困らなくて、着るものもあって、読む本もあった。いつも兄さんが傍に居て、兄さんが辛い目に遭わなくて済むから、私は――とても幸せでした」
シェリルがとても耐えられないというように、目を潤まして後ろを向いた。ぐすっと鼻をすする。
「うっ、なんかもうこの子不憫すぎるわ」
「歳を取ると涙脆くなるって言うよ? ミス・ラビリンス」
「死ね」
2人の奇術師のやりとりを尻目に、デュークはじっとカルマの横顔を見つめた。
いつも不思議に思うのは、この青年の言葉からは兄以外の存在が1つも出てこないということだ。
かつて1度だけ、母親の存在を匂わしたことがあるきりだ。
「人は?」
「え?」
「人はいなかったのか? そのエデンとやらには」
「たくさんいましたよ。人というか、竜ですけど」
「そいつらのことは何かないのか?」
「何かと言われても……何も」
デュークの質問に、カルマは困ったように首をかしげた。
「Dの一族は眷族にとっても特別な存在なようで、皆礼儀正しくは接してくれましたが、その……あまり、関わり合いにはなりたくなかったようです」
「…………」
「あ、でもっ。私たちの身の回りの世話をしてくれた者がいました」
必死に話題を探し、カルマが声を大きくする。
「私の話を聞いてくれるんです。聞いて、ちゃんと言葉を返してくれる」
そんな当たり前のことを、彼は随分と嬉しい思い出のように語った。
「あの人のおかげで、いろんな事を知りました。兄さんと私は、お互いのことを何でも知っているから、とても話がしやすかった。けれど、そうでない者と話すときはちゃんと相手が知らない情報や、話す順序に気をつけてしゃべらなければ理解してもらえないのだということを知りました」
「そうか……」
自然と手が伸びて、デュークはくしゃりと、目の前の銀色の頭を撫でた。
「アルカという、灰色の、とても綺麗な竜でした」
手の重みでカルマが顔を下げたせいで、そう言って笑った辛そうな微笑に、デュークが気付くことはなかった。
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