上 下
33 / 46

8-4

しおりを挟む
最初の一回目の卒業する時までは良かった。駄女神からもほぼほぼ何も聞かされてなかったし、ただゲーム通り誰かと幸せになって欲しいと言われただけ。来る日も来る日も誰かと過激なセックスをして心も体も満たされていた。

その時はハロルドを攻略者に選んだそうだ。ドミニクにチクチク嫌味を言われたりしたが、前世の記憶がある身としては10代の子供の嫌がらせなどお遊戯同然。流れるままにセックス漬けの毎日だった。

が、卒業しハロルドと愛を誓いあいドミニクが国外追放になって一か月程経った頃、ハロルドが突然発狂し出した。お前なんか好きじゃない、ドミニクは何処だと半狂乱になって探し始めたのだ。そしてドミニクの足取りは直ぐに分かった。国外追放になって直ぐ近くの森で魔物に襲われて食われていた。強姦されたあともあったらしく、朝方食い荒らされた死体を見つけた近所の猟師が近くの教会に運んで供養してくれたそうだ。

ハロルドは自身の行いで本当に愛する人を殺した事に心が壊れた。強姦したであろう犯罪者を探し出し嬲り殺し、ハロルドが神子に傾倒していく様を黙ってい見ていた従者や右腕を殺し、同じくローズの尻を追っかけておいて難を逃れた友人達を殺した。

いくらビッチだとしてもローズリーだってきちんとハロルドに恋をしていたのに、彼はとんでもない容疑をかけた。ハロルドはローズリーが邪教の生き残りで呪いをかけたと疑ったのだ。そこからは地獄だった。好きな人にただただ無慈悲に拷問をかけ続けられたという。そして真実が明るみになる事はないと分かると、ボロボロのローズリーを残してハロルドはさっさと死んだ。

ちゃんと愛されていると思っていた相手からの執拗な拷問とドミニクの無残な死、好きな人の自殺の原因が自身である罪悪感に苛まれ、死にかけているにも関わらず生き残ってしまったローズリーの心は荒れ世界は未曽有の自然災害に見舞われた。
ローズリーはその災害の中、何か重たいものが落ちてきたような衝撃で死んだ。すると目の前には駄女神が泣きながら謝っている姿があって、ふざけんなと怒鳴りつけ初めて女を殴ったという。

「人生で、いや、死んでる間だから人生はおかしいか。まぁでも、意識がある中であそこ迄怒りを覚えたのは初めてだったわ」

そしてどのくらい怒鳴り散らしていただろう。暫くすると怒るのにも疲れて、その場に泣きながら崩れ落ちたローズリーに駄女神は泣きながら懇願する。何度やり直してもこうなる。どうして、私はちゃんとゲーム通りに造ったのに、と。幸せになって欲しいのにと。

そこでローズリーはハッとした。ゲーム通り?ではそのゲームの舞台前後はどうなる?そう問うと駄女神はそこは自由意志ですが、舞台中はきちんとゲーム通りに主人公に惹かれる様にしてますと自信満々に答えたそうだ。

「阿呆かと思ったね。なんでそこだけ操作すんの?馬鹿なの?攻略者達って全員ネジ外れてっけど、別に不幸な生い立ちでもなんでもないじゃん?人間不信でもなんでもないよ。ゲーム始まるまでにそりゃ好きな人くらいできるでしょ。しかもだよ、好きになった人が婚約者で順風満帆なのに、主人公が現れたら意識混濁して、やっとその呪縛から逃れた頃には自分の手で好きな人殺してるんだぞ、何の拷問?」

設定を変えろ、主人公抜きで幸せになる手順にしろと言っても、そういう設定で造ってしまったから変えるとなると今あるこの世界を壊さないといけない。ゲームに類似した世界をどうにか構築し、この世に主人公達の命を落とし、ここまでの舞台を作り上げるのに人でいう20億年かかったのだから壊すのは嫌だ、なんて想像もつかない事を宣い、皆が幸せになって欲しいのに私のせいでと駄女神は泣き通し。

しかも強制的に何度も何度もこのゲームの舞台をループしているので皆の心が摩耗してきているらしい。ちなみに一番最初に摩耗して消えかけたのはなんと主人公だ。

彼は元々心の優しい魂だったので何度も何度も愛した人に最後は憎まれ、殺されたり拷問されたり自殺されたりしては自然災害を引き起こしてしまう事に疲れて壊れかけて、今は深く眠りについているらしい。だからこそ別の世界で死んだこの世界を知っていて、身体的にダメージが少なそうなローズリーを選んだという。

「それに対してもふざけんなと思ったよ。ダメージクソでかいに決まってんだろ。マジほんとアイツいつか殺す。神ってのは人の心なんて一ミリも理解できてない。ゲームにかこつけて人を操作して自分の好みに仕上げようってわけ。胸糞悪いだろ?」

そこからは地獄だった。嫌だと言っても泣き落としされて次の転生もさせてもらえないし、記憶も消してもらえない。魂消滅すらギャン泣きで断られ結局何度もやり直している。あと数回でどちらにしても魂全てが壊れてしまうから皆を幸せにしてと丸投げしてくる。

「でもさ、考えてみ?そもそもどうやって呪いのような強制力を解くかもわかんねぇ上に、悪役側を味方に付けたくても話もできない。攻略対象者達だって操られたみたいになってるから、やってる最中はマジで言わされてるセリフしか出ないんだ。その上俺も言葉は自由でも体は勝手にゲームの舞台通りに動く。どうやって上手に立ち回れと?」

強制力の解き方も何度聞いてもハッキリ分からなかったらしい。駄女神曰く、婚約者への愛を思い出せばとか言うが、どうやって思い出させるのかが重要である。そこはどうにかこうにか頑張るしか、と申し訳なさそうにしてくる駄女神に殺意は隠せなかった。

婚約者と致しているローズリーとは当然誰も話したくもないわけで、うまく悪役令息達と接触できない。その上どこの誰に見られるかも分からないところで抑揚のない声で犯される。これほど虚しいことは無いとローズリーは疲れたような溜息を吐き出した。

「一回目はさ、気付いてなかったんだよ。皆綺麗に笑うから操作されてるなんて。でも二回目からはちゃんと見ようと思って見れば全然温度が無いって分かるわけ。この虚しさったらないね。転生する度に攻略対象を変えて、その度に好きになっちゃうし、その度にその好きになってしまった人が発狂していく。好きな人の好きな人を殺した原因を作ってるっていうね」

遠い目をして何とか抗おうとはしてたんだけど失敗続きでさ、と笑うローズリーの顔は見ているだけで泣きたくなるような顔をしていて、どれだけの日々をどんな気持ちで過ごしてきたのか。想像するだけで胸が引き裂かれそうだった。ローズリーは割愛して話してくれたけど、たぶん悪役令息達は皆酷い最期を迎えているのだろう。その中の一人であるイアンは、可愛い皆の笑顔を思い出して胸を掻きむしりたい衝動にかられた。

「俺も、駄女神殺す時は呼んで」
「お、いいね。一緒にやっちゃおう」

笑いながらも目が本気のローズリーは、もう若干心が壊れかけているのかもしれない。でも辿ってきた運命を考えると当然だった。万が一イアンがそんな立場になったら、今こうしてローズリーみたいに笑って話が出来るか分からない。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

可哀想な君に

BL / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:86

女装令息と性癖を歪められた王子

BL / 連載中 24h.ポイント:1,726pt お気に入り:209

どうしようもない僕は報われない恋をする

BL / 連載中 24h.ポイント:420pt お気に入り:42

夫が私に魅了魔法をかけていたらしい

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:16,549pt お気に入り:852

三度目の恋を手に入れる為に

恋愛 / 完結 24h.ポイント:328pt お気に入り:205

僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

BL / 連載中 24h.ポイント:1,756pt お気に入り:200

処理中です...