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2-2 アルフレートside

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ドヤ顔でそう宣言したアルフレートにハロルドは綺麗に微笑んだ。

「さすが私の弟だ。当然貰おう。優秀な弟がいる事に感謝するよ」

間髪入れずにそう返答したハロルドは、いつもの様子に戻りきって目をギラギラと光らせた。それに続く皆の声を聞きながらアルフレートは考える。全員似た様な状況になるだろうから、なるべくならばそれぞれの茶会は近い日程が良い。万が一にもこの計画が婚約者同士の交流でバレてしまえば警戒される。

しかしそんな小さな悩みも暫くすると吹き飛んだ。影の情報によれば、次回の茶会は婚約者達が手を組んで同日に行うように話を持っていくというのだ。

「確実にこちらに運が向いている。さすが俺のイアンだ。いい仕事をする」

ニヤリと笑った顔に釣られたように婚約者に捨てられそうな面々は昏い目で笑った。それはそうだろう。毎週入ってくる茶会での会話と共に、自身の婚約者達が他の人間と接触する回数を増やしている様が情報として耳に入ってくるのだ。

禁薬を使用する事を少しだけ戸惑っていたディップですら今は不安気な顔をしない。皆が次回の茶会の日を楽しみにしていた。大切に囲ってきた婚約者を訳も分からぬまま、何処の誰とも知れぬ者に掠め取られては相手を殺してしまいそうだ。

「茶会の返事が来た。来週だ。根回しは終わってる」
「そうだね。待ち遠しいよ」

ハロルドの目は相変わらず飢えた獣の様だ。とは言え全員がそのような目をしているので、毎回の集まりは何となく異様な空気を醸し出している。

「あのローズリーとかいう男、どうしますか。一応神子ということで迂闊には殺せないですが……しかし、何かあの男は知っている気がします」
「あぁ、確かに。俺達が近寄らなくなって喜んでいるようですし」

チャールズの言葉にショーンが同意して考え込む。脳筋が頭を悩ませたところで答えなどでないだろうと言えば、頭を叩かれたのでハロルドが苦笑していた。そうしてダニエルが口を開いた。

「まだ王家には話がいってないのか。ふん、教会の奴らめ」
「何か知っているのか?」
「詳しくは分からないが、この妙な現象については神子に神託が降りていたらしい」

ダニエルがふん、と鼻で笑えばハロルドがふーんと気のない返事を漏らして片方の唇を持ち上げる。

「神託、ね。確かに王家にはまだ話が入ってきていないね。まぁでもあの神官長は神に全てを捧げすぎている頭がおかしい御人だ。王家にも忠誠を誓っているし、特に危険な事はしないだろうと思うけれど」
「まぁ、そこは疑わずとも良いだろう。もしかしたら真実を図りかねているのかもしれん」

二人の会話を聞きながら、ふむ、とアルフレートは一つ頷く。距離を置いてはいるが、頭がスッキリしてからも何度かローズリーの傍に寄った事はある。どの程度の範囲だと体が勝手に動きそうになるのか、全員が互いを守る様にして距離を測っていた。最初は目の届く範囲に居るだけで勝手に体が動いていたものだが、日が経つにつれその範囲も徐々に狭まってきた。

困惑するような嬉しい様な顔で、ジリジリ距離を測るアルフレート達には触れず、ローズリーは黙ってその妙な行動を眺めているのが現在の状況だ。今では真横に立っていても体が勝手に動くことは無い。

「ローズリーを明日、呼ぼう。尋問だ。しかし、学園ではない場所が良いだろう」
「そうだね。そろそろ本当の事を聞かないと。影を使って呼び出そう、王宮の地下に」

ニタリと笑ったハロルドの顔は美しく恐ろしかった。それに呼応するように微笑むその弟の顔も酷く恐ろしい。ディップがぶるっと身震いしたが異を唱える者は誰もいなかった。何故なら、婚約者と溝が出来た原因が彼にあると確信していたからだ。





「……今度はなんだ……え、最終地点じゃん」

ぼんやりと目を開いたローズリーは思った以上に冷静に辺りを見回し、不思議な事を呟いてから溜息を吐いた。アルフレートを筆頭に男達に取り囲まれた状態であるのに、特に驚きもなく深い落胆だけがその目に篭る。

「おっかしいなぁ……今回はうまく行ってる筈なのに」

ブツブツと呟くローズリーの心は既にここにはないようで遠い目をして何事か考え込んでいる。ハロルドが嫋やかに微笑みその思考を遮った。

「君に聞きたいことがあるんだ」
「……え?笑ってる?」
「ん?私が笑うのはおかしい事かな?」
「大体ここに来た時は目が血走ってますから……って事は、あれ?正気?」

ポカンとしたままのローズリーを見てアルフレートは片眉を上げて口を開く。

「堂々と不敬を働くか、ローズリー」
「え、不敬?」

そこで唸りながら部屋の隅で拘束されていたレノックスが暴れ出す。不敬とはすなわち即刻捕まってもおかしくないのだ。レノックスが慌てるのも無理はない。ローズリーを捕まえたタイミングで、レノックスがどこから聞きつけたのか後をつけて見守っていたのか、助け出すように襲ってきたのだ。腕の良いレノックスではあるが、流石に王族の影を複数人相手にしては勝てるはずもなく、健闘虚しく捕まっていた。

耳でその音を拾ったローズリーがそちらへ目を向けると、大きな目を更に大きく見開き慌てた様に叫ぶ。

「レノックス!?なんで!?レノックスを離してください!」

突如先ほどまでの冷静な態度を崩し、顔を青くしてガタガタと拘束されている椅子ごと動こうとするローズリーに、なるほど弱点はレノックスか、とアルフレートはニヤリと微笑んだ。

「お前が素直になればレノックスに危害は加えない。さぁ、話してもらおう」

血の気が引いたような顔でコクコクと必死に頷くローズリーに、アルフレートは鋭い視線を向けて尋問を開始した。
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