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第三話
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「ハル、あんな化物に立ち向かって勝てるわけがないだろ! 俺達冒険者でも手も足も出ないんだぞ!」
「た、戦うんだ! どのみちこのまま追いかけられても殺されるだけなんだ!」
「馬鹿な真似はやめろ! こっちに向かって突っ込んできてるだけかもしれないだろ!」
確かにルーさんの言う通りかもしれないが、そうじゃないかもしれない。
俺はあいつと目があった時に殺気のようなものを感じた。
今まで冒険もせずろくに戦ったこともない俺にそんな野生の勘が備わっているのか疑問だが、それでもミノタウロスから俺に向けられる何かは感じたんだ。
「おい、あいつ正気か……」
「だれか、あいつをなんとかしろよ! このままだと本当に死ぬぞ!」
すでに俺の周りに人はいない。
ミノタウロスがこちらに向かって突っ込んできた時点で、色んな場所に散っていったからだ。
いつもは活気のある街も、今この場は閑散としている。
自分の身を守らなきゃいけないんだから当然だ。俺はミノタウロスの標的になっているだろうから、逃げる意味もないけどな。
再び覚悟を決めてミノタウロスに向き合う。
今もなお、ミノタウロスはドシドシと重い身体を動かして俺の方に向かってきている。その距離は20mもない。
あと数秒すればミノタウロスは俺の元にたどり着き、その巨大な斧で俺のことを八つ裂きにするだろう。
「覚悟を決めろ。ミノタウロスなんて何度も調理してきただろ」
こんな巨大なやつはみたことないが、ミノタウロスは俺の店でもよく出してる。何回もバラしたことがあるんだ。
殺意に満ちた瞳をこちらに向け、巨体が一直線に突っ込んでくることに本能から怯えてるのか、身体がゾクリとした。
でも、今はびびってる場合じゃない。
ここまでサイズの大きなミノタウロスは見たことも聞いたこともないが、ミノタウロス自体は食用として使われている。
俺が基本的に手を加えるのは丸ではなく部位に解体された後だが、こいつを丸の上体から解体したことも何度もある。
そう、こいつは俺にとって食材だ。
何も怖がることなんてない。
「お前なんて調理してやる」
「グァアアアアアア!!!!」
「あぁ!? ハルが!!」
「逃げてくれよぉぉお!!」
ミノタウロスを止められず、この結末を見ることしかできなくなった冒険者たちが悲しみの声を上げた。
みんな俺の店に来ていた人だ。ルーさんだけじゃなく、いろんなお客さんが俺の結末を見ている。中には泣いている人もいた。
お客さんを喜ばせて泣かれるのはいいけど、こういう泣かれ方はいやだなぁ。
だったら、この場をなんとか乗り切るしかない。
それが出来なければ、俺は死ぬ。
「ガァァァアアア!!」
「お前なんて食材だ!!」
突っ込んできたミノタウロスはその斧を俺に向かって振りかざす。大して、俺は調理スキルを発動させてミノタウロスに突っ込んだ。
ガランガラン!
ミノタウロスが持っていた斧が、装備していた防具が大きな音を立てて床に落ちる。
「え? ハル……? お前いったいどうやって……」
「なんだ、これ……どういうことなの」
ミノタウロスと俺が対峙していた場所にあるのは、無傷の俺と肉に分解されたミノタウロス、それとミノタウロスの装備だけだ。
思わず目を瞑って突っ込んでしまったが、どういうことだ……?
「スキルでミノタウロスをバラした……?」
それしか考えられない。俺の近くに落ちているミノタウロスの肉塊は、部位ごとに綺麗に解体されていた。
以前俺がミノタウロスを分解したときと同じ状態に変化している。
「ハルッッ! お前すっげぇよ! ヒーローじゃねぇか!」
「すげぇ! あのミノタウロスを一撃だぞ! お前料理人じゃなくて冒険者になったほうが良いんじゃねぇか!?」
「街が救われた! 救ったのは冒険者でも騎士でもなく、料理人だ!」
パチ
パチパチ!
パチパチパチパチ!!
「こいつは俺達の救世主だ!」
「「ワァァァァァ!!!」」
遠巻きに結末を見ていた人たちが俺の元にバタバタと駆け寄り、辺りは拍手で包まれる。
恐怖から解放された街の住人たちの悲痛な声とは違う、喜びの声で街中が満たされた。
「ど、どうすれば良いんだ……」
まさかこんなことになるなんて思っていなかったからどうすれば良いのか分からない。
助かったのは素直に嬉しいが、俺のスキルにこんな能力が秘められているなんて思ってもいなかった。
街の人に喜ばれるのは嬉しいが、どうすれば良いのか分からずに顔を引きつらせる。
「おう! とりあえずこの場から抜け出すぞ! ついてこい」
「あ、ありがと!」
街を救ったヒーローとして街中の人に囲まれたが、その後ルーさんの取り計らいでうまく騒ぎから抜け出すことが出来た
「た、戦うんだ! どのみちこのまま追いかけられても殺されるだけなんだ!」
「馬鹿な真似はやめろ! こっちに向かって突っ込んできてるだけかもしれないだろ!」
確かにルーさんの言う通りかもしれないが、そうじゃないかもしれない。
俺はあいつと目があった時に殺気のようなものを感じた。
今まで冒険もせずろくに戦ったこともない俺にそんな野生の勘が備わっているのか疑問だが、それでもミノタウロスから俺に向けられる何かは感じたんだ。
「おい、あいつ正気か……」
「だれか、あいつをなんとかしろよ! このままだと本当に死ぬぞ!」
すでに俺の周りに人はいない。
ミノタウロスがこちらに向かって突っ込んできた時点で、色んな場所に散っていったからだ。
いつもは活気のある街も、今この場は閑散としている。
自分の身を守らなきゃいけないんだから当然だ。俺はミノタウロスの標的になっているだろうから、逃げる意味もないけどな。
再び覚悟を決めてミノタウロスに向き合う。
今もなお、ミノタウロスはドシドシと重い身体を動かして俺の方に向かってきている。その距離は20mもない。
あと数秒すればミノタウロスは俺の元にたどり着き、その巨大な斧で俺のことを八つ裂きにするだろう。
「覚悟を決めろ。ミノタウロスなんて何度も調理してきただろ」
こんな巨大なやつはみたことないが、ミノタウロスは俺の店でもよく出してる。何回もバラしたことがあるんだ。
殺意に満ちた瞳をこちらに向け、巨体が一直線に突っ込んでくることに本能から怯えてるのか、身体がゾクリとした。
でも、今はびびってる場合じゃない。
ここまでサイズの大きなミノタウロスは見たことも聞いたこともないが、ミノタウロス自体は食用として使われている。
俺が基本的に手を加えるのは丸ではなく部位に解体された後だが、こいつを丸の上体から解体したことも何度もある。
そう、こいつは俺にとって食材だ。
何も怖がることなんてない。
「お前なんて調理してやる」
「グァアアアアアア!!!!」
「あぁ!? ハルが!!」
「逃げてくれよぉぉお!!」
ミノタウロスを止められず、この結末を見ることしかできなくなった冒険者たちが悲しみの声を上げた。
みんな俺の店に来ていた人だ。ルーさんだけじゃなく、いろんなお客さんが俺の結末を見ている。中には泣いている人もいた。
お客さんを喜ばせて泣かれるのはいいけど、こういう泣かれ方はいやだなぁ。
だったら、この場をなんとか乗り切るしかない。
それが出来なければ、俺は死ぬ。
「ガァァァアアア!!」
「お前なんて食材だ!!」
突っ込んできたミノタウロスはその斧を俺に向かって振りかざす。大して、俺は調理スキルを発動させてミノタウロスに突っ込んだ。
ガランガラン!
ミノタウロスが持っていた斧が、装備していた防具が大きな音を立てて床に落ちる。
「え? ハル……? お前いったいどうやって……」
「なんだ、これ……どういうことなの」
ミノタウロスと俺が対峙していた場所にあるのは、無傷の俺と肉に分解されたミノタウロス、それとミノタウロスの装備だけだ。
思わず目を瞑って突っ込んでしまったが、どういうことだ……?
「スキルでミノタウロスをバラした……?」
それしか考えられない。俺の近くに落ちているミノタウロスの肉塊は、部位ごとに綺麗に解体されていた。
以前俺がミノタウロスを分解したときと同じ状態に変化している。
「ハルッッ! お前すっげぇよ! ヒーローじゃねぇか!」
「すげぇ! あのミノタウロスを一撃だぞ! お前料理人じゃなくて冒険者になったほうが良いんじゃねぇか!?」
「街が救われた! 救ったのは冒険者でも騎士でもなく、料理人だ!」
パチ
パチパチ!
パチパチパチパチ!!
「こいつは俺達の救世主だ!」
「「ワァァァァァ!!!」」
遠巻きに結末を見ていた人たちが俺の元にバタバタと駆け寄り、辺りは拍手で包まれる。
恐怖から解放された街の住人たちの悲痛な声とは違う、喜びの声で街中が満たされた。
「ど、どうすれば良いんだ……」
まさかこんなことになるなんて思っていなかったからどうすれば良いのか分からない。
助かったのは素直に嬉しいが、俺のスキルにこんな能力が秘められているなんて思ってもいなかった。
街の人に喜ばれるのは嬉しいが、どうすれば良いのか分からずに顔を引きつらせる。
「おう! とりあえずこの場から抜け出すぞ! ついてこい」
「あ、ありがと!」
街を救ったヒーローとして街中の人に囲まれたが、その後ルーさんの取り計らいでうまく騒ぎから抜け出すことが出来た
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