運命を刻む者たち

ペルシャ猫

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愛し合う者たち1

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 死角から短剣がとんでくる。間に合わない。パワーは意を決し、相打ち覚悟で短剣を持ったラブへ虫を飛ばした。
 胸に短剣が刺さり血が滲む。視界の端からはサーの血の気の引いた顔が見えた。
 意識が朦朧とする中、上から落とした虫はラブに見事命中し、その命を絶った。しかし、パワーに残された時間も多くない。
 パワーはサーと過ごした日々を思い浮かべた。

「……ぇ、ねぇ。大丈夫?」
 ふらつく頭を抑えながらパワーの意識は次第に覚醒して来た。
 ここは深い森の中、サーと二人でキャンプに来た時に交通事故を起こし崖の上から落ちてしまったのだ。幸いそんなに高い崖でなかったので、二人は無傷と言わないまでも重傷ではなかった。
「サーも大丈夫か?すまないな、こんなことになっちまって」
 パワーは自分の不甲斐なさに唇を噛み締めた。
「大丈夫だから。ほら、ここにいても仕方がないから道を探そう?」
「ああ」
 サーはここでじっとしているよりも道を探したほうがいいと言い、森の中へ入って行った。パワーもそれについていく。
 後ろから見るサーは綺麗だった。だが、ここで言っているのは容姿ではない。傷のことだ。擦り傷や腫れなどはできているが、骨が折れたりなどの傷は見られなかった。
(結構丈夫なんだな)
パワーがそんなことを考えているとサーが何かを見つけたように走り出した。
 パワーも置いていかれないように追いかけた。
 サーに追いつくとそこには川が流れていた。周りには花が沢山咲いており、蝶々や蜂の姿も見てとれた。
「綺麗だな」
「うん」
「……そういえばこの川に沿って下っていけばいつか道に着くんじゃないか?」
 パワーの提案にサーも頷く。
 そして、川に沿って数十分後。奥に光が見えた。サーは嬉しさのあまりに走り出す。しかし、意外と道はすぐそこでサーは道路へと飛び出した。そして、運悪く車がそこへ突っ込んで来た。「プー」というクラクションの音が鳴る。
「危ない‼︎」
 パワーが叫ぶとサーも車に気づき振り返った。しかし、それも遅くサーは車に吹き飛ばされた。サーを轢いた車は逃げて行くが、パワーは追いかけずサーの元へと駆け寄った。
 そこで、サーの姿に驚く。傷がどんどんと治っていくのだ。そして、数分後には傷ひとつない綺麗な身体に戻っていた。
 これがサーの能力が発現を初めて目にした瞬間だった。
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