貴方に必要とされたいとは望みましたが……

こことっと

文字の大きさ
2 / 6

02

しおりを挟む
 大丈夫ですか?

 近寄せられる緑の瞳は、心配そうに私を覗き見てきます。

 私は同情されているの?

 そう思えば、悲しくて……苦しくて……だけど……こんな状況への対応方法は、誰も教えてなどくれてはいなくて……。

「ラーレ様……ごめんなさい。 きっと、私の言葉は貴方を悲しませ、不安にさせ……苦しませてしまいましたよね。 ですが私も辛かったのです。 胸の内に秘めたままに等出来なかった!!」

 大きな緑色の瞳に浮かべる涙。
 それは決して嘘偽りだとは思えません。

 私は……ただ、呆然とするしかありません。
 だって、もう何も考えたくは無かったのですから……。

「私は、多くの推薦を受け、多くの人に認められた婚約者です。 貴方は……何が言いたいのですか?」

「私は……学園に入学し、初めて殿下を拝見しました。 爵位等全く気に掛ける事無く殿下は全ての方々に平等で……そして優しい方。 私が殿下を愛するまで多くの時間を必要としませんでした。 だから……彼の側にいられるよう努力しました」

 努力? その言葉に私は叫びそうになりました。 だって……殿下の周囲にいた方が、ご機嫌を取るだけの方々でなければ、彼はあれほど授業や課題、次期王としての学習に苦労する事は無かったでしょう。

「努力ですか……」

 ラーレは嘲笑めいた笑みを無意識で浮かべていた。

 ビクッと怯えた様子を露わにしたグレーテル男爵令嬢は叫んだ。

「殿下の側にいて、殿下を支え、愛された……。 なのに、殿下の婚約者に選ばれたのは貴方。 私がその決定を聞いた時、どれほどの絶望を受けたか……貴方に分かりますか!!」

 グレーテル男爵令嬢の緑色の瞳から涙が零れ落ち。
 噛まれた唇から血が滲んでいた。

 これでは……まるで私の方が悪者ではありませんか。

「ですが、婚約者に選ばれたのは……次期王妃に相応しいとされたのは、貴方ではなく私です」

「えぇ、その通りですわ。 私は……私では殿下の王妃に相応しくはない。 私は男爵家の生まれでしかありませんから……。 それも下賤な者と同じように商売に明け暮れ、金に執着する薄汚い商売をしておりますから……」

「別に私は、貴族が商人として勤める事が悪いだなんて……」

 また……。

 そして、荒げられる声は、誰も居ないように思えた周囲に人を集め始めていた。

「このような場所で、騒いでは殿下の評判にも良くはありません」

「評判? 評判なんて気になさる必要はありませんわ。 私と殿下の関係は皆知っておりますもの。 知らないのは……ラーレ様、貴方だけではありませんか? それだけ、貴方は殿下の事を知らなかった……そう言う事ですわ」

「私こそが、2人の邪魔者だとおっしゃるのかしら?」

 私の声は震えていた。

「いいえ、私は、殿下を愛する者同士として対等であるべきだと思いましたの。 私だけが・……ツライ思いをするなんて……苦しい思いをするなんて……。 なぜ、貴方だけが真実も知らず幸福そうに祝福を受けますの? 私は……それが許せなかった」

「どうしろとおっしゃるのかしら? 国を預かる方々が選んだのは私ですわ」

「えぇ、別に別れて欲しい等とは思っておりませんの……ただ、私を認めて欲しいだけ。 殿下と私との愛情を受け入れて欲しいの。 ただでとは言いませんわ。 十分な慰謝料を支払わせて頂きますわ。 ラーレ様のお家は侯爵家とは言うものの、その……王家に嫁ぐほどの余裕はございませんでしょう?」

 静かに淑やかに語られる言葉……だけど、その全ては侮辱でしかなく、周囲に人がいる事も忘れて私は声を大きくあげてしまった。

「お金の問題ではありませんわ!!」

 周囲の人たちが興味深そうにコチラをチラチラと覗き見ていて……私は慌てて声を潜めた。

「その話は……本当ですの? 信じられませんわ。 殿下は何時だって勤勉な方でした。 殿下を慕う人達に誠意的に接し、そして……期待に応えようと何時だって必死に勉学に励んでいる方です あなたとその……」

 夜を共にしていたなどとは思えない……そんな言葉は口にするのに抵抗があった。

「殿下は何時だって……何時だって……寝食を忘れて役目を果たそうと励んでいらしたもの信じられない……信じられませんわ」

「そんな殿下だからこそ、私に癒しを求めたとは思いませんか? 貴方は……理想の殿下を求めすぎ追い詰めたとは思わないのですか? 殿下はその責任に疲れ、私に助けを求めたのです。 私の身体を求め、安らぎを求め、救いを求め……愛を求められました。 愛しているとおっしゃられたのです。 慰謝料は貴方の望む額をお支払いしましょう。 どうかご検討をお願いいたします」

 丁寧に優雅に……彼女は頭を下げ背を向けた。

 胸が……痛い。
 心がツライ。

 私は好奇の視線を気にする余裕もなくその場を走り去った。

 逃げるように……。

 泣くための場所を求めて……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

妹が欲しがるので婚約者をくれてやりましたが、私の本命は別にいます

Megumi
恋愛
姉・メアリーの真似ばかりして、周囲から姉を孤立させていく妹・セラフィーナ。 あなたはお姉さんだからと、両親はいつも妹の味方だった。 ついには、メアリーの婚約者・アルヴィンまで欲しがった。 「お姉様、アルヴィン様をシェアしましょう?」 そう囁く妹に、メアリーは婚約者を譲ることに。 だって——それらは全部、最初から「どうでもいいもの」だったから。 これは、すべてを奪われたはずの姉が、最後に一番大切なものを手にいれる物語。

妹のことを長年、放置していた両親があっさりと勘当したことには理由があったようですが、両親の思惑とは違う方に進んだようです

珠宮さくら
恋愛
シェイラは、妹のわがままに振り回される日々を送っていた。そんな妹を長年、放置していた両親があっさりと妹を勘当したことを不思議に思っていたら、ちゃんと理由があったようだ。 ※全3話。

思いを込めてあなたに贈る

あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

せっかく家の借金を返したのに、妹に婚約者を奪われて追放されました。でも、気にしなくていいみたいです。私には頼れる公爵様がいらっしゃいますから

甘海そら
恋愛
ヤルス伯爵家の長女、セリアには商才があった。 であれば、ヤルス家の借金を見事に返済し、いよいよ婚礼を間近にする。 だが、 「セリア。君には悪いと思っているが、私は運命の人を見つけたのだよ」  婚約者であるはずのクワイフからそう告げられる。  そのクワイフの隣には、妹であるヨカが目を細めて笑っていた。    気がつけば、セリアは全てを失っていた。  今までの功績は何故か妹のものになり、婚約者もまた妹のものとなった。  さらには、あらぬ悪名を着せられ、屋敷から追放される憂き目にも会う。  失意のどん底に陥ることになる。  ただ、そんな時だった。  セリアの目の前に、かつての親友が現れた。    大国シュリナの雄。  ユーガルド公爵家が当主、ケネス・トルゴー。  彼が仏頂面で手を差し伸べてくれば、彼女の運命は大きく変化していく。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

婚約者が、私より従妹のことを信用しきっていたので、婚約破棄して譲ることにしました。どうですか?ハズレだったでしょう?

珠宮さくら
恋愛
婚約者が、従妹の言葉を信用しきっていて、婚約破棄することになった。 だが、彼は身をもって知ることとになる。自分が選んだ女の方が、とんでもないハズレだったことを。 全2話。

処理中です...