貴方に必要とされたいとは望みましたが……

こことっと

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 謝罪の言葉と共にルドルフ殿下は、深く頭を下げられたのです。

「申し訳ない事をしてしまったと思っています。 君の好意を当たり前のように受け取り、僕が君に愛情を示す事はありませんでした」

 それも気まずそうに、後悔の表情を浮かべ、不安を瞳に宿しながら謝罪し頭を下げる等……こんな事、考えられません!!

 ルドルフ殿下は頭を下げる事を嫌う方なのですから。 王族としての威信にかかわるから、無暗に謝るものではないと教えを受けているのかもしれません。

 自国の者はそれでよいのですが、隣国の親善相手であるハルトヴィン・グロール様との交流を積極的に行わない理由も、頭を下げなければいけないから……と、言うのであるなら……それは、次期王として大きな欠点と言えるでしょう。

 そんな彼が謝るなんて!!

 大げさではなく……私は本気で驚きました。
 彼は本気で謝り、私との婚約を継続したいと考えているのだ。

 私が、彼に大きな変化をもたらしたのだと……感慨深いものを感じましたが、今更と言うものです。

 もし、涙を流していた時であれば、切なさや悲しみ……可哀そうな私に酔いしれていた時であれば、やっぱり私を必要とされるのですね。 そう言って喜び、婚約の継続に合意したかもしれません。

 でも、もう、涙は枯れ果てました。

 それに彼は、私が悲しんでいる間、今までと変わらない日々を……いえ、今まで以上にグレーテル男爵令嬢との関係が噂となるような日々を送られていたのですから。

「殿下……頭をお上げくださいませ……」

「許してくれるのか!!」

「いえ……気持ちを変えるつもりがないからこそ、謝罪を必要としないのです」

「そんな……僕は反省した。 これからは君に愛を注ごう。 君はずっと僕を支えてくれていたから、僕の愛を理解していると思っていたのですよ。 君にも責任がある!! どうか、今まで通り僕を支え共に人生を歩いて欲しい」

 婚約者ではなくとも、殿下を支える方法はいくらでもある。 そんな風に考えていました。 彼の謝罪は私にとってそれほどの意味があったのです。

 なのに……。

「殿下……私は自分の思いを変えるつもりはありません」

「僕から、頭を下げ謝罪していると言うのにか!!」

 突然に殿下は声を荒げた。

「はい……私は、殿下の謝罪も愛情ももう必要とはしておりません」

 私の言葉に、殿下は美しい顔を歪ませ……それでも微笑んだ。

「君は勘違いをしている。 僕は今まで1度たりとも君を愛した事等ない。 愛は今から、これから築きあげていくんだ。 僕の愛を受け取るんだ。 僕の愛を1度でいい受け入れてください。 そうすれば……その頑なな考えは変わるはずだ」

 そうして彼はソファを立ち、私の方へと歩み寄って来る。 私は、ソファを立ちあがり後退り彼から逃げた。

 笑うルドルフ殿下。

「逃げる君は随分とカワイイですよ」

 素早く近寄り、顔を寄せれば……ソレを避けようと私は尻もちをついてしまった。

 ルドルフ殿下は私に手を差し出したけれど……私は、その手を取る事はできません。 だって……前回……。

「何を想像しているのですか?」

 ルドルフ殿下は笑いながら強引に私の手を取り引き起こし、そして豪華な箱を私に持たせた。

「これは……」

「あぁ……婚約披露パーティにつけてもらおうと準備した代物だ。 この国でも唯一無二ともいえる宝石で彩られている」

 そうして箱を開けば、殿下と同じ瞳の色をしたネックレスがあった。 彼の色を纏うようにと受けたプレゼント……普通に考えればとてもロマンティックな贈り物でしょう。

 だけど……
 私はそのネックレスに見覚えがあったのです。

 箱にはグレーテル・ベッカー男爵令嬢のご実家の店の名前とマークが刻まれていますし……宝石は、卒業式に身に着けるのだとグレーテル男爵令嬢が見せびらかしていたものだったのです。

 受け取る訳にはいきません。

「グレーテル男爵令嬢の許可は得ているのですか?」

 私は溜息交じりに問いかけた。

「僕を愛しているなら、素直に受け取れ!!」

 喜ばない私に殿下の怒りは一気に高まってしまった。 だけど……怯えてばかりではダメです。 外から感じる人の気配……それが私を救ってくれるはずなのです。

「私は、婚約破棄を望みました。 ソレは覆す事の無い覚悟あっての事です」

「ここまでさせておいて、僕を馬鹿にするのか!!」

 荒げる声は通路にも聞こえていたのだろう。

「殿下……部屋の外に人がいます。 声を控えられた方がいいでしょう」

 言えば顔を真っ赤にして口をつぐんだ。

「本当に、僕達の関係は終わりだと言うのですか?」

「はい……」

「僕達の婚約が国のためだと理解していても変わらないと言うのですか?」

「はい……」

「恥をかき、責められるのは貴方ですよ?」

 私は、なぜ? と殿下を見つめた。

「僕は言いました。 グレーテル男爵令嬢との関係はその莫大な資産があってこそだと……彼女を愛している訳ではないのです。 私と彼女の関係は浮気ではなく大儀なのです。 そんな事も理解できないとは両親が悲しまれますよ」

 ニヤリと彼は笑った。

 笑ったのだ……。

 その瞬間扉が勢いよく開かれた。

「で、殿下……」

 悲しみに濡れ掠れた声の主はグレーテル男爵令嬢。

 涙に濡れた顔だった。
 どれほどの時間泣いたのだろう。

 それはそうだ……殿下の色を身にまとい卒業パーティの準備をしていたのです。 同じ女としてその悲しみは十二分に理解できます。

「殿下……今、なんて……おっしゃいました? 殿下は……私を愛していると言いましたよね? 私が必要だと、無くてはならない存在だと。 殿下!!」

「あぁ、グレーテル男爵令嬢……君は僕にとって、無くてはならない存在ですよ。 私が王位につくためには君の力は大いに役に立ってくれるでしょう。 だけど、君だけではダメなのです。 君に王妃の仕事が出来ますか? 君に国を統治するための知恵がありますか? 影になり私をたてる事ができますか? グレーテル……君も、ラーレ……君も、2人とも妻として足りないのですよ。 自らの汚点を理解することなく……僕を責めようと言うのですか? 君達は頭を下げ自らを利用してくださいと僕に願うべきなのです。 理解できますよね? 欠陥品」

 グレーテル男爵令嬢の顔色が土色に変わった。

 誰が想像できただろう。

 グレーテル男爵令嬢が反旗を翻す等。

 だけど……私には分かる……。 もし、私が愛されていたと錯覚していたなら……きっと彼の本音を受け止めること等出来なかったでしょう。

 グレーテル男爵令嬢は、幽鬼のように揺れ動き……引いた金属音を響かせ、護衛の男の剣を引き抜き殿下に向かって走って行く。

「危ない!!」

 そう叫んだのは……私ではなく、私に向けられた言葉。

 危険から私を守るようにグロール公子は私の腕を掴み戸口に引き寄せ抱きしめた。 まるでただの見物人のように……。

「私が!! 私がいなければ!! 王子としての尊敬も賛美も得られない癖に!!」

「うわぁああああああああ」

 殿下は背を向け逃げ出したが、焦った足元はもたつき転倒した。 グレーテル男爵令嬢はその背に剣を振り下ろす。
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