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番外編 垣田
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僕は今、桜庭病院で産科医として働いている。
中学時代、仲の良い友達がいた。蒼原星有だ。
高校に入学してから全く会っていなかった。それでも、あいつは元気にしていると思っていた。
そして、僕は学校に行っていなかった。星有という同じような境遇をもつ人が僕の前から居なくなり、誰に何を話したらいいのかが分からなくなった。
たったそれだけで休むなんて、どうかしてると思う人もいるかもしれない。
そうだ。僕はあの時はどうかしていた。
とても辛くて、何度も兄と会うことを考えた。
でも、そういう日に限って、僕は兄との楽しかった思い出を思い出してしまう。
だから、兄の分まで生きてみようと思った。
病気のせいで、自分の好きなことを行うことさえままならなかった兄のかたきをうってやるんだ、とも思った。
そして、今。
星有は何をしているだろうか。
今更知った事だが、星有は父も母も亡くなったという。
身寄りがいなくなった星有は、奈菜さんという綺麗な女性と結婚した。
そして、奈菜さんが妊娠した時、僕が働く桜庭病院に診察に来た。
僕は奈菜さんを妊婦の一人として特に気に留めることなく接してきた。だけど、星有が奈菜さんと一緒に検診に来た時、僕は直感でこう思った。
星有の事が気がかりだ、と。
彼は全く気づいていなかった。僕の事も、僕の不安も。
二人はとても幸せそうに帰って行った。
僕が少しでも声をかけていたら…。悩み事や辛い事を相談できる相手に僕がなれたかもしれない。
それでも僕は、声をかけずに彼らの背中を見守った。
僕は声をかけなくてもよかったかもしれないと思えた。
奈菜さんは元気な女の子を出産したのだ。
その時の二人の笑顔は今でも目に焼きついて離れようとしない。
幸せなんだ。星有は幸せなんだ。
そうやって、僕は僕を安心させた。
ある日、救急車で運ばれてきたのは、奈菜さんの子どもだった。
「愛海、愛海、…」
奈菜さんの叫ぶ姿を忘れられない。あの時はとても驚いた。
愛海ちゃんが急いで運ばれていた。
僕も気になって後をつけた。
医師や看護師は、もうすでに消え去っていた命の灯火をただ眺めていた。
奈菜さんが愛海ちゃんを呼ぶ声だけが響き渡る。この病院いっぱいに。
奈菜さんの両親が来た。
両親は奈菜さんを宥めることしかできなかった。僕らもそうだった。
しばらくして、星有が到着した。
息を切らしている。走ってきたのだろう。
でも、再び息を吹き返した愛海ちゃんほ姿を見ることはなかった。
星有、お前は何をやっていたんだ。
奈菜さんも電話をしたと言っていたのに。仕事がそんなに大切なのか。
星有への怒りが込み上げてきた。
それと同時に、自分自身への怒りも込み上げてきた。
僕があの時声をかけていれば…。
僕の不安は的中した。
でも、的中しても意味はなかった。
思っただけで、言葉にして伝えなかった。
僕は情けなかった。情けない人間なのだ。
僕は星有と奈菜さん、愛海ちゃんの事で何かできないか考えた。
集会ー。それが僕の出した答えだ。
多くの不安を持つ親に対し、その不安を共有し、少しでも楽に出産や子育てをして欲しいと思う。
僕の答えは正しかったのだろうか。
きっと、それは僕が空へ行っても分からないだろう。
愛海ちゃんが亡くなってから五年後。久しぶりに早く帰ってテレビをつけた時、嫌なニュースが流れてきた。
飛び降り自殺ー。
何故か分からない。でも、星有がこの世界からいなくなった気がしてたまらなかった。
僕はまだ知らない。この飛び降り自殺で誰が死んだかなんて。
でも、それでも、僕は前を向いて歩まねばならない。
そうすることで、幸せな家庭を気づいてくれる人が増えるかもしれないのだから。
中学時代、仲の良い友達がいた。蒼原星有だ。
高校に入学してから全く会っていなかった。それでも、あいつは元気にしていると思っていた。
そして、僕は学校に行っていなかった。星有という同じような境遇をもつ人が僕の前から居なくなり、誰に何を話したらいいのかが分からなくなった。
たったそれだけで休むなんて、どうかしてると思う人もいるかもしれない。
そうだ。僕はあの時はどうかしていた。
とても辛くて、何度も兄と会うことを考えた。
でも、そういう日に限って、僕は兄との楽しかった思い出を思い出してしまう。
だから、兄の分まで生きてみようと思った。
病気のせいで、自分の好きなことを行うことさえままならなかった兄のかたきをうってやるんだ、とも思った。
そして、今。
星有は何をしているだろうか。
今更知った事だが、星有は父も母も亡くなったという。
身寄りがいなくなった星有は、奈菜さんという綺麗な女性と結婚した。
そして、奈菜さんが妊娠した時、僕が働く桜庭病院に診察に来た。
僕は奈菜さんを妊婦の一人として特に気に留めることなく接してきた。だけど、星有が奈菜さんと一緒に検診に来た時、僕は直感でこう思った。
星有の事が気がかりだ、と。
彼は全く気づいていなかった。僕の事も、僕の不安も。
二人はとても幸せそうに帰って行った。
僕が少しでも声をかけていたら…。悩み事や辛い事を相談できる相手に僕がなれたかもしれない。
それでも僕は、声をかけずに彼らの背中を見守った。
僕は声をかけなくてもよかったかもしれないと思えた。
奈菜さんは元気な女の子を出産したのだ。
その時の二人の笑顔は今でも目に焼きついて離れようとしない。
幸せなんだ。星有は幸せなんだ。
そうやって、僕は僕を安心させた。
ある日、救急車で運ばれてきたのは、奈菜さんの子どもだった。
「愛海、愛海、…」
奈菜さんの叫ぶ姿を忘れられない。あの時はとても驚いた。
愛海ちゃんが急いで運ばれていた。
僕も気になって後をつけた。
医師や看護師は、もうすでに消え去っていた命の灯火をただ眺めていた。
奈菜さんが愛海ちゃんを呼ぶ声だけが響き渡る。この病院いっぱいに。
奈菜さんの両親が来た。
両親は奈菜さんを宥めることしかできなかった。僕らもそうだった。
しばらくして、星有が到着した。
息を切らしている。走ってきたのだろう。
でも、再び息を吹き返した愛海ちゃんほ姿を見ることはなかった。
星有、お前は何をやっていたんだ。
奈菜さんも電話をしたと言っていたのに。仕事がそんなに大切なのか。
星有への怒りが込み上げてきた。
それと同時に、自分自身への怒りも込み上げてきた。
僕があの時声をかけていれば…。
僕の不安は的中した。
でも、的中しても意味はなかった。
思っただけで、言葉にして伝えなかった。
僕は情けなかった。情けない人間なのだ。
僕は星有と奈菜さん、愛海ちゃんの事で何かできないか考えた。
集会ー。それが僕の出した答えだ。
多くの不安を持つ親に対し、その不安を共有し、少しでも楽に出産や子育てをして欲しいと思う。
僕の答えは正しかったのだろうか。
きっと、それは僕が空へ行っても分からないだろう。
愛海ちゃんが亡くなってから五年後。久しぶりに早く帰ってテレビをつけた時、嫌なニュースが流れてきた。
飛び降り自殺ー。
何故か分からない。でも、星有がこの世界からいなくなった気がしてたまらなかった。
僕はまだ知らない。この飛び降り自殺で誰が死んだかなんて。
でも、それでも、僕は前を向いて歩まねばならない。
そうすることで、幸せな家庭を気づいてくれる人が増えるかもしれないのだから。
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