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第一章:三日の猶予と、二人の出会い
ハーフエルフ、生臭坊主と出会う
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「よいか。シャルマーニ殿下は極めて峻厳な御方だ。口先だけの世辞や、女の浅知恵で機嫌を取ろうなどと考えるな。見透かされた瞬間、その首が飛ぶと思え」
ロランドに連れられながら、ランスローネは注意喚起を受ける。
「そうなん? 気をつけとくわ」
(怖っ。なんやのその王女様。あざとい笑顔で「頑張りますぅ」言うとけばええやろって思うてたけど、猫かぶり作戦は封印しといたほうが良さそうやな。けど、うちの性格やしなー。自然にポロってやってまいそうや)
ランスローネは内心で首を竦めながら、表向きは愛想笑いを浮かべておく。
領主館は、丸太造りの二階建ての本館を中心に、兵舎と練兵場と礼拝堂、鍛冶場と工房、貯水槽と倉庫が立てられている。
練兵場からは掛け声と剣戟の音が響き、鍛冶場からは槌を打つ音が聞こえ、その煙突からは煙が上がっている。
(──どこもかしこも剥き出しの丸太ばっかりやな。造り方も甘いし、敷地を囲ってる外壁も防腐処理が申し訳程度やし。
雨に晒されてたらそのうち腐るで。
それに油撒いて火をつけられたら一発やん。
せっかく『アイゼン』なんて鉄を意味する格好ええ響きの名前ついてるんやから、もっと石とか鉄で固めたらええのになあ……)
本館の廊下を歩きながら、ランスローネはふと窓枠を指先でなぞる。
(……掃除はきちんとしてるみたいやな。規律は行き届いてるんか。そこはとなくピリッとした雰囲気の正体は、これか)
構造は甘いが、管理は徹底されている。
その事実に、ランスローネはわずかに背筋が伸びるのを感じた。
さっきまでの「あざとい笑顔で乗り切ろう」という余裕が、少しずつ削り取られていく。
「……やれやれ。廊下を歩く足音が、まるでオーク種族のようだよ、ロランド卿。もう少しエレガントに歩けないのかい?」
突き当たりの角から、飾りや刺繍が施された僧服を着た若い男が姿を現した。
「オリビエ……貴様、礼拝堂で神仏に祈らずこんなところで何をしている」
ロランドが露骨に顔をしかめる。
「エレガントなシャルマーニ殿下に仕えようとする美しき黄金の蝶を歓迎しようとしていたのさ」
オリビエは気取った仕草で前髪を払いながら、楽しげに目を細めた。
「……はじめまして、麗しきハーフエルフのお嬢様。
君の瞳は、ヴェリアの荒野には勿体ないほどエレガントで鮮やかな翡翠だね」
オリビエはランスローネの前に跪き、その手を取ろうとする。
(お、この生臭坊主なお兄さん、ええ匂いするな。
高級な香油やろか……けど、エレガントって何やねん?)
ランスローネは内心で品定めしつつ、愛想笑いを浮かべる。
「おや……この繊細な指先、単なる蝶にしては少しばかり『働き者』の跡があるようだ。
君がこのアイゼン・ガルドに何をもたらすのか、楽しみにさせてもらうよ、エレガントなお嬢様」
オリビエはそう言って、優雅な仕草でお辞儀して去って行った。
(うーん、うちとは何か相性悪そうな兄さんやな)
後ろ姿を見送りながら、ランスローネは会ったばかりのオリビエに辟易する。
「……あのような男に構うな、さあ行くぞ。
ご主君たるシャルマーニ殿下はこの先だ」
ロランドに連れられ、ランスローネは領主の執務室の前に着いた。
どこもかしこも剥き出しの丸太だったが、その突き当たりにある一際大きな双開きの扉だけは、黒々とした鉄で厳重に補強されていた。
さっきまでオリビエに毒づいていたロランドが、まるで彫像のように背筋を伸ばし、一分の隙もない敬礼の姿勢をとる。
「……ランスローネとやら。この扉の先におられるのが、我が主シャルマーニ殿下だ。くれぐれも失礼のないようにな」
その声の緊張感に、ランスローネも思わず生唾を飲み込んだ。
(……うちも、少しは猫被っといたほうがええかな。お腹いっぱいご飯食べるためや、気張らんと)
重厚な鉄の鳴き声と共に、扉が開かれる。
陽光が差し込む広々とした執務室。
その中央、大きな机に腰掛けてこちらを見据えている人物がいた。
ロランドに連れられながら、ランスローネは注意喚起を受ける。
「そうなん? 気をつけとくわ」
(怖っ。なんやのその王女様。あざとい笑顔で「頑張りますぅ」言うとけばええやろって思うてたけど、猫かぶり作戦は封印しといたほうが良さそうやな。けど、うちの性格やしなー。自然にポロってやってまいそうや)
ランスローネは内心で首を竦めながら、表向きは愛想笑いを浮かべておく。
領主館は、丸太造りの二階建ての本館を中心に、兵舎と練兵場と礼拝堂、鍛冶場と工房、貯水槽と倉庫が立てられている。
練兵場からは掛け声と剣戟の音が響き、鍛冶場からは槌を打つ音が聞こえ、その煙突からは煙が上がっている。
(──どこもかしこも剥き出しの丸太ばっかりやな。造り方も甘いし、敷地を囲ってる外壁も防腐処理が申し訳程度やし。
雨に晒されてたらそのうち腐るで。
それに油撒いて火をつけられたら一発やん。
せっかく『アイゼン』なんて鉄を意味する格好ええ響きの名前ついてるんやから、もっと石とか鉄で固めたらええのになあ……)
本館の廊下を歩きながら、ランスローネはふと窓枠を指先でなぞる。
(……掃除はきちんとしてるみたいやな。規律は行き届いてるんか。そこはとなくピリッとした雰囲気の正体は、これか)
構造は甘いが、管理は徹底されている。
その事実に、ランスローネはわずかに背筋が伸びるのを感じた。
さっきまでの「あざとい笑顔で乗り切ろう」という余裕が、少しずつ削り取られていく。
「……やれやれ。廊下を歩く足音が、まるでオーク種族のようだよ、ロランド卿。もう少しエレガントに歩けないのかい?」
突き当たりの角から、飾りや刺繍が施された僧服を着た若い男が姿を現した。
「オリビエ……貴様、礼拝堂で神仏に祈らずこんなところで何をしている」
ロランドが露骨に顔をしかめる。
「エレガントなシャルマーニ殿下に仕えようとする美しき黄金の蝶を歓迎しようとしていたのさ」
オリビエは気取った仕草で前髪を払いながら、楽しげに目を細めた。
「……はじめまして、麗しきハーフエルフのお嬢様。
君の瞳は、ヴェリアの荒野には勿体ないほどエレガントで鮮やかな翡翠だね」
オリビエはランスローネの前に跪き、その手を取ろうとする。
(お、この生臭坊主なお兄さん、ええ匂いするな。
高級な香油やろか……けど、エレガントって何やねん?)
ランスローネは内心で品定めしつつ、愛想笑いを浮かべる。
「おや……この繊細な指先、単なる蝶にしては少しばかり『働き者』の跡があるようだ。
君がこのアイゼン・ガルドに何をもたらすのか、楽しみにさせてもらうよ、エレガントなお嬢様」
オリビエはそう言って、優雅な仕草でお辞儀して去って行った。
(うーん、うちとは何か相性悪そうな兄さんやな)
後ろ姿を見送りながら、ランスローネは会ったばかりのオリビエに辟易する。
「……あのような男に構うな、さあ行くぞ。
ご主君たるシャルマーニ殿下はこの先だ」
ロランドに連れられ、ランスローネは領主の執務室の前に着いた。
どこもかしこも剥き出しの丸太だったが、その突き当たりにある一際大きな双開きの扉だけは、黒々とした鉄で厳重に補強されていた。
さっきまでオリビエに毒づいていたロランドが、まるで彫像のように背筋を伸ばし、一分の隙もない敬礼の姿勢をとる。
「……ランスローネとやら。この扉の先におられるのが、我が主シャルマーニ殿下だ。くれぐれも失礼のないようにな」
その声の緊張感に、ランスローネも思わず生唾を飲み込んだ。
(……うちも、少しは猫被っといたほうがええかな。お腹いっぱいご飯食べるためや、気張らんと)
重厚な鉄の鳴き声と共に、扉が開かれる。
陽光が差し込む広々とした執務室。
その中央、大きな机に腰掛けてこちらを見据えている人物がいた。
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