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第二章:丸太と魔法と、覇道の軍道
ハーフエルフ、腹を鳴らす
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やがてランスローネたちは岩の階段の頂に、いわゆる「峠」へと辿り着いた。
「ロランドはん、おおきに。ここでおろして」
ロランドの背に揺られていたランスローネは地に足をつけると軽く足踏みして感覚を確かめ、それから前方の崖際へと歩み寄った。
「……うわ、なんやこれ。えげつないな」
ランスローネの翡翠色の瞳が驚愕に細められる。
開けた視界の先にあったのは、大地が巨大な獣に噛みちぎられたかのような、深く険しい峡谷だった。
両脇はほぼ垂直に近い切り立った絶壁。
その遥か下方、雲海のような霧が薄く漂う谷の底に、蟻の這いずるような小さな光が点々と蠢いている。
鶴嘴や鏨で岩を叩く乾いた音が、深い谷の底で反響し、不気味な重低音となってここまで響いてくる。
「あそこが……地下鉱脈『ヴェリアの心臓』の入り口だ」
ロランドが厳かに指差す。
谷底には、掘り出された鉄塊が山積みにされており、そこから細い糸のような、今にも崩れそうな桟道が、岩肌を縫うようにして上へと伸びていた。
歩荷たちは、その命懸けの細道を、一歩間違えれば奈落の底という恐怖に耐えながら、重い鉄を背負って登る。
先刻まではそうだっただろうが、今は違っていた。
「見てください。ランスローネさんが歩荷さんたちに作った道が、早速役に立ってますよ!」
エーリカが谷底を指差す。
ランスローネが土の精霊魔法で作った岩の階段を、歩荷たちが嬉しそうな顔をして上っていた。
「そうか……ローネさんは、あの笑顔が見たいんですね!」
エーリカはぐっと両手を握る。
どうやら、これからやろうとする仕事の意義を見出したようだ。
「えへへ、そない言われたらなんか照れるな……」
ランスローネは照れ笑いをしてから、改めて谷底を見下ろす。
「……『ヴェリアの心臓』やなんて、えらい大層な名前ついてるんやね」
「うむ……あそこで採れるのは、ただの鉄ではない。シャルマーニ殿下の覇道を前に進めるための、文字通り、この地の、そして我らの未来を動かすための血を送り出す心臓なのだ」
ロランドは険しい表情で頷いた。
「意気込みは分かるけど……馬車二台どころか、馬一頭通るのも命がけやんか。あんな底から、どうやって鉄を引き上げるつもりやったんや……あの姫様は」
谷から吹き上げてくる冷たい風に蜂蜜色の髪をなびかせながら、ランスローネは頭の中で計算を始める。
高低差、岩盤の強度、そして「三日」という残された時間。
普通の人間なら、この景色を見ただけで「不可能だ」と吐き捨てて立ち去るだろう。
(……でも、面白いで。この谷底に、真っ直ぐな『道』をぶっ刺してやろうやないかい!)
やる気を出したランスローネの口角が、不敵に吊り上がる。
その隣で、エーリカもまた瓶底眼鏡の奥の瞳を鋭くさせ、谷底に秘められたマナ──魔法の力の根源を測るように見つめていた。
ぐぅ~。
腹鳴りの音がした。
ロランドとエーリカが、きょとん顔をして腹を押さえるランスローネを見て、そして三人は声を出して笑った。
「ほな、はよ下に降りて、ご飯食べよか」
ランスローネを先頭に、三人は意気揚々と谷底へと降りて行った。
「ロランドはん、おおきに。ここでおろして」
ロランドの背に揺られていたランスローネは地に足をつけると軽く足踏みして感覚を確かめ、それから前方の崖際へと歩み寄った。
「……うわ、なんやこれ。えげつないな」
ランスローネの翡翠色の瞳が驚愕に細められる。
開けた視界の先にあったのは、大地が巨大な獣に噛みちぎられたかのような、深く険しい峡谷だった。
両脇はほぼ垂直に近い切り立った絶壁。
その遥か下方、雲海のような霧が薄く漂う谷の底に、蟻の這いずるような小さな光が点々と蠢いている。
鶴嘴や鏨で岩を叩く乾いた音が、深い谷の底で反響し、不気味な重低音となってここまで響いてくる。
「あそこが……地下鉱脈『ヴェリアの心臓』の入り口だ」
ロランドが厳かに指差す。
谷底には、掘り出された鉄塊が山積みにされており、そこから細い糸のような、今にも崩れそうな桟道が、岩肌を縫うようにして上へと伸びていた。
歩荷たちは、その命懸けの細道を、一歩間違えれば奈落の底という恐怖に耐えながら、重い鉄を背負って登る。
先刻まではそうだっただろうが、今は違っていた。
「見てください。ランスローネさんが歩荷さんたちに作った道が、早速役に立ってますよ!」
エーリカが谷底を指差す。
ランスローネが土の精霊魔法で作った岩の階段を、歩荷たちが嬉しそうな顔をして上っていた。
「そうか……ローネさんは、あの笑顔が見たいんですね!」
エーリカはぐっと両手を握る。
どうやら、これからやろうとする仕事の意義を見出したようだ。
「えへへ、そない言われたらなんか照れるな……」
ランスローネは照れ笑いをしてから、改めて谷底を見下ろす。
「……『ヴェリアの心臓』やなんて、えらい大層な名前ついてるんやね」
「うむ……あそこで採れるのは、ただの鉄ではない。シャルマーニ殿下の覇道を前に進めるための、文字通り、この地の、そして我らの未来を動かすための血を送り出す心臓なのだ」
ロランドは険しい表情で頷いた。
「意気込みは分かるけど……馬車二台どころか、馬一頭通るのも命がけやんか。あんな底から、どうやって鉄を引き上げるつもりやったんや……あの姫様は」
谷から吹き上げてくる冷たい風に蜂蜜色の髪をなびかせながら、ランスローネは頭の中で計算を始める。
高低差、岩盤の強度、そして「三日」という残された時間。
普通の人間なら、この景色を見ただけで「不可能だ」と吐き捨てて立ち去るだろう。
(……でも、面白いで。この谷底に、真っ直ぐな『道』をぶっ刺してやろうやないかい!)
やる気を出したランスローネの口角が、不敵に吊り上がる。
その隣で、エーリカもまた瓶底眼鏡の奥の瞳を鋭くさせ、谷底に秘められたマナ──魔法の力の根源を測るように見つめていた。
ぐぅ~。
腹鳴りの音がした。
ロランドとエーリカが、きょとん顔をして腹を押さえるランスローネを見て、そして三人は声を出して笑った。
「ほな、はよ下に降りて、ご飯食べよか」
ランスローネを先頭に、三人は意気揚々と谷底へと降りて行った。
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