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第二十四章 飽くなき暴食の宴
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数年の時が流れた。
かつて不毛の荒野と呼ばれた北の大地は今、見渡す限りの黄金色に染まっていた。
亜人たちの魔法と技術によって生まれ変わった、広大な麦畑。
冷たい風は魔法の温室によって和らぎ、青々とした牧草地には、丸々と太った牛や羊が群れを成している。
新都アイゼン・トーア。
その中心にそびえ立つ新たな皇城のバルコニーで、二人の男女がランチを楽しんでいた。
「ん~っ! 美味しい! やっぱり、採れたてのお肉は最高ね!」
ルスラーナが極厚のステーキを頬張りながら満面の笑みを浮かべる。
その仕草は優雅でありながら、獲物を食らう野獣の獰猛さを微かに残していた。
その隣で、ヴァレンティンは静かに酒杯を揺らし、眼下に広がる豊かな国を見下ろしていた。
都の通りは活気に溢れている。
そこでは人間も、エルフも、人狼も、ドワーフも、等しく「能力」によって職を得ていた。
かつて泥にまみれていたミハイルとその部下たちは、今や「新生グレイヴェリア帝国」の精鋭軍団として、街の治安と国境の守りを担っている。
「旦那様、またそんなに食べて。お腹が出ても知りませんよ?」
城壁近くの公園では、隠居しつつも近衛騎士の教官を務めるガルド・アイゼンが、妻ミナの淹れた茶をすすっていた。
「スープより茶が欲しい」というあの日の約束は、今では穏やかな日常の一コマとなっていた。ガルドの隻眼は、かつて守り抜いた若き主君が築き上げた、差別のない国の光景を静かに見守っている。
「ランスローネさん、例の鉄道建設、順調ですよ!」
「ああ、エーリカ。助かるわ。これで北の物資を一気に南へ流せるな」
工兵隊のランスローネとエーリカは、今や帝国のインフラを支える二大巨頭として、種族間の架け橋となっていた。
彼女たちの活躍こそが、この国が「契約」によって結ばれていることの証明であった。
一方で、北の最果ての開拓地では、かつての栄華を失ったマクシミリアンや腐敗貴族たちが、泥にまみれて鍬を振るっていた。
彼らを監督するのは、かつて自分たちが「家畜」と蔑んでいた屈強なオークたちだ。
「働かざる者、食うべからず」──ヴァレンティンが掲げた絶対のルールが、かつての支配者たちにも平等に適用されていた。
*
「どうだ、ルスラーナ。私が約束した『肉の都』は」
「うん、合格! 兄上は嘘つきじゃなかったわね」
ルスラーナはフォークを置き、ナプキンで口元を拭うと、ヴァレンティンに熱い視線を送った。
「でもね、兄上。この国のお肉、もう食べ尽くしちゃいそうなんだけど?」
平和な日々は幸せだが、彼女の中の「捕食者」は、また新たな刺激を求めていた。ヴァレンティンは苦笑し、立ち上がる。
そして、遥か彼方──大陸の西方や、海の向こうを指差した。
「安心しろ。世界は広い。西には大リュード王国のオーガ軍団。海を越えれば未知の魔獣たちがいる。我々の皿の上には、まだ見ぬご馳走が山ほど残っているのだよ」
「本当!? 全部食べていいの?」
「ああ。全て平らげよう。私とお前で、この世界の全てを食い尽くすまで、我々の『戦い』は終わらない」
「あはっ! 兄上、大好き!」
ルスラーナがヴァレンティンに抱きつく。
二人はバルコニーで、甘く、濃厚な口づけを交わした。
それは、世界を恐怖と豊穣で支配する「魔王」と、その最強の「剣」による、永遠の契約の儀式。
かつて地下牢の檻の中で出会った二人の飢えた子供は今、世界という最大のテーブルにつき、飽くなき暴食の宴を始めたのである。
鉄騎の蹄が鳴り響く。
さあ、次のメインディッシュはどこの国か──。
fin
後世の史家は、新生グレイヴェリア帝国の始祖についてこう記している。
ヴァレンティン帝は、その生涯においてついに妻を娶ることはなかった。
その傍らには、黒衣の死神が常に寄り添っていたという。
かつて不毛の荒野と呼ばれた北の大地は今、見渡す限りの黄金色に染まっていた。
亜人たちの魔法と技術によって生まれ変わった、広大な麦畑。
冷たい風は魔法の温室によって和らぎ、青々とした牧草地には、丸々と太った牛や羊が群れを成している。
新都アイゼン・トーア。
その中心にそびえ立つ新たな皇城のバルコニーで、二人の男女がランチを楽しんでいた。
「ん~っ! 美味しい! やっぱり、採れたてのお肉は最高ね!」
ルスラーナが極厚のステーキを頬張りながら満面の笑みを浮かべる。
その仕草は優雅でありながら、獲物を食らう野獣の獰猛さを微かに残していた。
その隣で、ヴァレンティンは静かに酒杯を揺らし、眼下に広がる豊かな国を見下ろしていた。
都の通りは活気に溢れている。
そこでは人間も、エルフも、人狼も、ドワーフも、等しく「能力」によって職を得ていた。
かつて泥にまみれていたミハイルとその部下たちは、今や「新生グレイヴェリア帝国」の精鋭軍団として、街の治安と国境の守りを担っている。
「旦那様、またそんなに食べて。お腹が出ても知りませんよ?」
城壁近くの公園では、隠居しつつも近衛騎士の教官を務めるガルド・アイゼンが、妻ミナの淹れた茶をすすっていた。
「スープより茶が欲しい」というあの日の約束は、今では穏やかな日常の一コマとなっていた。ガルドの隻眼は、かつて守り抜いた若き主君が築き上げた、差別のない国の光景を静かに見守っている。
「ランスローネさん、例の鉄道建設、順調ですよ!」
「ああ、エーリカ。助かるわ。これで北の物資を一気に南へ流せるな」
工兵隊のランスローネとエーリカは、今や帝国のインフラを支える二大巨頭として、種族間の架け橋となっていた。
彼女たちの活躍こそが、この国が「契約」によって結ばれていることの証明であった。
一方で、北の最果ての開拓地では、かつての栄華を失ったマクシミリアンや腐敗貴族たちが、泥にまみれて鍬を振るっていた。
彼らを監督するのは、かつて自分たちが「家畜」と蔑んでいた屈強なオークたちだ。
「働かざる者、食うべからず」──ヴァレンティンが掲げた絶対のルールが、かつての支配者たちにも平等に適用されていた。
*
「どうだ、ルスラーナ。私が約束した『肉の都』は」
「うん、合格! 兄上は嘘つきじゃなかったわね」
ルスラーナはフォークを置き、ナプキンで口元を拭うと、ヴァレンティンに熱い視線を送った。
「でもね、兄上。この国のお肉、もう食べ尽くしちゃいそうなんだけど?」
平和な日々は幸せだが、彼女の中の「捕食者」は、また新たな刺激を求めていた。ヴァレンティンは苦笑し、立ち上がる。
そして、遥か彼方──大陸の西方や、海の向こうを指差した。
「安心しろ。世界は広い。西には大リュード王国のオーガ軍団。海を越えれば未知の魔獣たちがいる。我々の皿の上には、まだ見ぬご馳走が山ほど残っているのだよ」
「本当!? 全部食べていいの?」
「ああ。全て平らげよう。私とお前で、この世界の全てを食い尽くすまで、我々の『戦い』は終わらない」
「あはっ! 兄上、大好き!」
ルスラーナがヴァレンティンに抱きつく。
二人はバルコニーで、甘く、濃厚な口づけを交わした。
それは、世界を恐怖と豊穣で支配する「魔王」と、その最強の「剣」による、永遠の契約の儀式。
かつて地下牢の檻の中で出会った二人の飢えた子供は今、世界という最大のテーブルにつき、飽くなき暴食の宴を始めたのである。
鉄騎の蹄が鳴り響く。
さあ、次のメインディッシュはどこの国か──。
fin
後世の史家は、新生グレイヴェリア帝国の始祖についてこう記している。
ヴァレンティン帝は、その生涯においてついに妻を娶ることはなかった。
その傍らには、黒衣の死神が常に寄り添っていたという。
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