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第二十三章 一族の終焉、断罪の凱旋
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エルバニア王国軍二十万の背後にある野営地。
そこは、勝利を確信した者たちが談笑し、炊き出しの煙を上げる安穏の聖域となるはずだった。
だが、その平穏は、夜の帳を切り裂く「捕食者」たちの咆哮によって、一瞬にして凄惨な解体場へと塗り替えられた。
「……始めろ」
丘の上に立つヴァレンティンの冷徹な号令が飛ぶ。
先陣を切ったのは、ウェアウルの長ガルオウ率いる精鋭と、ザルヴァゴス率いるダークエルフの魔導部隊だ。
グレイヴェリアの冒険者組合から、グラハム・レノックスの一族の女たちが全て集っているという情報は得ている。
かつてアルバの野で自軍の野営地を襲わせたグラハムへの、それは慈悲なき、そして合理的な「意趣返し」であった。
「一兵たりとも生かしては返さない。禍根は全て絶つ。
ルスラーナばかり、血を浴びさせるわけにはいかんしな」
ヴァレンティンは、絶望に染まる光景をどこか哀しげに見下ろしていた。それは兄としての歪んだ、しかし深い愛の形でもあった。
*
月明かりが静まり返った戦場を照らし出す。血塗れのグラハム・レノックスが這い出てきたが、彼が見たのは足元に転がる愛息たちの変わり果てた姿と、後方から運ばれてきた、一族の女たちの無残な遺品だった。
「……なぜだ……我が一族の夢が……っ!」
その遺恨を他所に、影に潜んで逃げようとした暗殺者ムギトの首を、ランスローネの愛剣『アロンダート』が容赦なく撥ね飛ばした。
ヴァレンティンの密命通り、「鼠の掃除」は完了したのだ。
血の涙を流して慟哭するグラハムの前に、ヴァレンティンとルスラーナが立つ。
「お前は、悪魔か……!」
「いいえ、私はただの『合理的』な支配者ですよ。……我が覇道の礎となるがいい」
ルスラーナの斧槍が銀光を放ち、エルバニアの老将の執念は北の凍土へと沈んだ。
*
皇城『黒鉄宮』。
城壁の上で泰然と待っていたガルド・アイゼンが内側から重厚な城門を押し開くと、返り血を浴びた死神を先頭に掲げたヴァレンティン軍が、驚愕に震える玉座の間へと悠然と足を踏み入れた。
「おお、ヴァレンティン! よくぞ戻った!」
玉座にはガイゼリック皇帝が、その横にはマクシミリアン第一皇子が、安堵と強がりの入り混じった表情で待ち構えていた。
二十万の敵を殲滅したヴァレンティンを、まだ自分の「駒」として扱えると思い込んでいるのだ。
「褒美をとらすぞ。さあ、こちらへ来て跪け!」
だが──ヴァレンティンは動かなかった。
階段の下で足を止め、冷ややかな視線で父と兄を見上げる。
「……跪け? 誰にだ?」
「な、何を言っておる!?
予は皇帝であり、そなたの父であるぞ!」
「勘違いするな、ガイゼリック」
ヴァレンティンは、父を呼び捨てにした。
「私は報告に来たのではない。『退去』を命じに来たのだ」
「なッ……!?
貴様、乱心したかヴァレンティン!」
マクシミリアンが激昂し剣に手をかけるが、それより速く、ルスラーナが床の大理石を粉砕しながら一歩踏み出した。
「……兄上に剣を向けたら、その腕、食べるわよ?」
その一睨みで、マクシミリアンは無様に尻餅をついた。
ヴァレンティンは彼らを殺す価値すらないと鼻で笑い、南の離宮への隠居──事実上の終身刑──を宣告した。
「皇帝? いいや、ただの『飼い殺しの豚』だ。……連れて行け。視界に入れるのも汚らわしい」
皇帝と皇子が引きずり出された後、ヴァレンティンは震える貴族たちを見回した。
「貴様らは東へ送る。
アイゼン・トーアの開拓地で、貴様らが『亜人』と蔑んでいたオークやゴブリンたちにこき使われて罪を償うがいい」
「そ、そんな殺生なァァッ!」
絶叫が響く中、ヴァレンティンは空になった玉座へ歩み寄り、深く腰を下ろした。
「……硬い椅子だ。座り心地が悪い」
「じゃあ、新しいの作っちゃう?」
「そうだな。この帝都シュタールグラードも、もう古い。カビと腐敗の臭いが染み付いている」
新皇帝ヴァレンティンは、高らかに宣言した。
「遷都する!
新たな都は東、アイゼン・トーア! 種族を問わず、能力ある者が集い、富み、肥える国。
それが私の作る『新生グレイヴェリア帝国』だ!」
静まり返った謁見の間。
玉座に座るヴァレンティンの傍らで、ルスラーナが至福の表情で問いかける。
「兄上、お掃除、綺麗にできた……?」
「ああ、完璧だ。……お前の望む報酬を、いくらでもやろう」
ヴァレンティンはルスラーナを引き寄せ、最高の勝利の証として、深い口づけを交わした。
二人の影は、血と鉄に彩られた玉座の上で、長く、黒く伸びていた。
そこは、勝利を確信した者たちが談笑し、炊き出しの煙を上げる安穏の聖域となるはずだった。
だが、その平穏は、夜の帳を切り裂く「捕食者」たちの咆哮によって、一瞬にして凄惨な解体場へと塗り替えられた。
「……始めろ」
丘の上に立つヴァレンティンの冷徹な号令が飛ぶ。
先陣を切ったのは、ウェアウルの長ガルオウ率いる精鋭と、ザルヴァゴス率いるダークエルフの魔導部隊だ。
グレイヴェリアの冒険者組合から、グラハム・レノックスの一族の女たちが全て集っているという情報は得ている。
かつてアルバの野で自軍の野営地を襲わせたグラハムへの、それは慈悲なき、そして合理的な「意趣返し」であった。
「一兵たりとも生かしては返さない。禍根は全て絶つ。
ルスラーナばかり、血を浴びさせるわけにはいかんしな」
ヴァレンティンは、絶望に染まる光景をどこか哀しげに見下ろしていた。それは兄としての歪んだ、しかし深い愛の形でもあった。
*
月明かりが静まり返った戦場を照らし出す。血塗れのグラハム・レノックスが這い出てきたが、彼が見たのは足元に転がる愛息たちの変わり果てた姿と、後方から運ばれてきた、一族の女たちの無残な遺品だった。
「……なぜだ……我が一族の夢が……っ!」
その遺恨を他所に、影に潜んで逃げようとした暗殺者ムギトの首を、ランスローネの愛剣『アロンダート』が容赦なく撥ね飛ばした。
ヴァレンティンの密命通り、「鼠の掃除」は完了したのだ。
血の涙を流して慟哭するグラハムの前に、ヴァレンティンとルスラーナが立つ。
「お前は、悪魔か……!」
「いいえ、私はただの『合理的』な支配者ですよ。……我が覇道の礎となるがいい」
ルスラーナの斧槍が銀光を放ち、エルバニアの老将の執念は北の凍土へと沈んだ。
*
皇城『黒鉄宮』。
城壁の上で泰然と待っていたガルド・アイゼンが内側から重厚な城門を押し開くと、返り血を浴びた死神を先頭に掲げたヴァレンティン軍が、驚愕に震える玉座の間へと悠然と足を踏み入れた。
「おお、ヴァレンティン! よくぞ戻った!」
玉座にはガイゼリック皇帝が、その横にはマクシミリアン第一皇子が、安堵と強がりの入り混じった表情で待ち構えていた。
二十万の敵を殲滅したヴァレンティンを、まだ自分の「駒」として扱えると思い込んでいるのだ。
「褒美をとらすぞ。さあ、こちらへ来て跪け!」
だが──ヴァレンティンは動かなかった。
階段の下で足を止め、冷ややかな視線で父と兄を見上げる。
「……跪け? 誰にだ?」
「な、何を言っておる!?
予は皇帝であり、そなたの父であるぞ!」
「勘違いするな、ガイゼリック」
ヴァレンティンは、父を呼び捨てにした。
「私は報告に来たのではない。『退去』を命じに来たのだ」
「なッ……!?
貴様、乱心したかヴァレンティン!」
マクシミリアンが激昂し剣に手をかけるが、それより速く、ルスラーナが床の大理石を粉砕しながら一歩踏み出した。
「……兄上に剣を向けたら、その腕、食べるわよ?」
その一睨みで、マクシミリアンは無様に尻餅をついた。
ヴァレンティンは彼らを殺す価値すらないと鼻で笑い、南の離宮への隠居──事実上の終身刑──を宣告した。
「皇帝? いいや、ただの『飼い殺しの豚』だ。……連れて行け。視界に入れるのも汚らわしい」
皇帝と皇子が引きずり出された後、ヴァレンティンは震える貴族たちを見回した。
「貴様らは東へ送る。
アイゼン・トーアの開拓地で、貴様らが『亜人』と蔑んでいたオークやゴブリンたちにこき使われて罪を償うがいい」
「そ、そんな殺生なァァッ!」
絶叫が響く中、ヴァレンティンは空になった玉座へ歩み寄り、深く腰を下ろした。
「……硬い椅子だ。座り心地が悪い」
「じゃあ、新しいの作っちゃう?」
「そうだな。この帝都シュタールグラードも、もう古い。カビと腐敗の臭いが染み付いている」
新皇帝ヴァレンティンは、高らかに宣言した。
「遷都する!
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それが私の作る『新生グレイヴェリア帝国』だ!」
静まり返った謁見の間。
玉座に座るヴァレンティンの傍らで、ルスラーナが至福の表情で問いかける。
「兄上、お掃除、綺麗にできた……?」
「ああ、完璧だ。……お前の望む報酬を、いくらでもやろう」
ヴァレンティンはルスラーナを引き寄せ、最高の勝利の証として、深い口づけを交わした。
二人の影は、血と鉄に彩られた玉座の上で、長く、黒く伸びていた。
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