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#29 行方

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 会場がざわめき始めた。


 改めて登場したマリアベルに祝いの言葉を述べる人たちで行列が出来ている。
 そしてクロードもマリアベルの横に立ち、一緒に挨拶をしていた。


 (クロードは忙しそう。何か食べてようかな)


 リーシェはグラスを手に取ると、壁際に寄りかかった。





 その時だった。
 会場が大きくざわついた。


 (誰か来たみたい…)


 皆の視線の先を辿ると、そこにはーーー。




 シェリーと皇太子である第二皇子が一緒に会場に登場したのだ。


 (…どういう事!?)


 リーシェは驚きクロードの方を見た。
 クロードはリーシェの視線に気付くとふっと笑った。
 ふとクロードが「シェリーは他の男と来る」と言っていた言葉を思い出した。


 (クロードはこの事を知っていたわ。こんな大勢がいる場所で第二皇子と来るなんて、クロードとは婚約破棄すると言っているのと同じ…)


 クロードはマリアベルと共に大勢に囲まれている。
 そして、シェリーと第二皇子はマリアベルの元へ行き歓談を始めたようだった。


 (色々聞きたいけど…今は無理そう…)


 リーシェは溜め息をつくと、グラスに口をつけた。
 会場はヒソヒソと噂話に満ちた。


 (そう言えばデイジーとクラウディアはどこかしら。探そう)


 そう思いグラスをテーブルに置くと、リーシェは広い会場を歩き始めた。
 人々はシェリーと第二皇子への驚きで、まだざわついている。




 暫く人混みを掻き分けながら進んでいくと、その目線の先にアレクシスの姿が映った。
 

 (アレクシス…!)


 あれからアレクシスには会えていなかった。
 アレクシスも避けているようだったが、リーシェ自身も会いに行って何を話せば良いか分からなかった。


 (だけどちゃんと話さなくちゃ…)


 アレクシスの後を着いていく。
 アレクシスは出入り口に向かっているようだった。
 時折人とぶつかりながらもアレクシスを追う。


 「あっ!すみません…」


 (見失っちゃう…!)


 アレクシスが出た扉から外へと出る。
 だがアレクシスの姿はそこになかった。


 リーシェは少し息を切らしながら庭園へと出た。
 夜風が吹き、灯りに照らされた薔薇の花が美しかった。
 そしてそこにアレクシスの姿があった。


 リーシェはぎゅっと手を固く握り締めると、


 「…アレクシス」
と声を掛けた。


 アレクシスはゆっくりと振り向いた。
 声の主が誰か分かったからだろう。


 「リーシェ…」


 (声をかけたはいいけど、何て言えばいいのかしら)


 緊張で心臓の鼓動が速くなり、手に汗を握った。
 すると、アレクシスは寂しげに微笑んだ。


 「今日のリーシェは一段と綺麗だね」


 「ありがとう…」
 リーシェは少し困ったような顔で答えた。




 「…こういう事だったんだね。皇太子相手なら誰も文句は言わないよ」


 (こういう事…?)
 とリーシェは戸惑った。


 「…もしクロードにフラれる事があったら、俺の所においで」


 「えっ…!!何でクロードを好きなこと知ってるの!」
 


 リーシェは驚き過ぎて、声は裏返り真っ赤になった。
 するとアレクシスは「ふふっ」と笑って、リーシェに近付いた。


 「ずっと見てたからね。やっぱり元気なリーシェが好きだよ」


 そう言うとリーシェの髪を一房手に取りキスをした。





 「もうすぐダンスタイムだ。戻った方がいい」


 …そしてアレクシスは背を向けると歩き出した。
 リーシェはアレクシスの姿が見えなくなるまで見送った。
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