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第4章:父との再会、そして、特殊研究室に棲む暴君
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実家から車で約二十分。車窓からは高くそびえる灰色の防壁が見え、他の施設よりひと際目立っている。健人は初めて見る建物に驚きが隠せなかった。
「はい、ここが防衛機関アイリスよ。中央ゲートの警備ロボにスマートカードを見せれば、入れると思うわ。私はたぶん入れないかもしれないから、送迎はここまで」
母は中央ゲート前の路肩に車を停めた。健人はついに来てしまったと思うと、顔が緊張と不安で強張る。母がそれを察したのか、母はいきなり健人の両頬をぎゅーっとつまむように触ってきた。
「いてててっ! 母さん、何すんだよ」
「うふふっ。だって、不細工な顔をしてるんだもの。しょうがないから直してあげたのよ」
「なんだよ、それ」
健人たちは互いに見つめ合い、声を出して笑った。そして、健人は車を降り、母と別れを告げると、中央ゲートの警備ロボにスマートカードを提示した。警備ロボが認証し終えると、健人は単調な自動音声で話す警備ロボの指示に従い、脇戸から中へ入り、エントランスホールまで案内された。
建物内は白とライトブルーを基調とし、エントランスホールだからか、ホログラムで様々な立体映像が映し出されていた。健人は初めて見る光景に自然と足が止まり、ぽかんと口を開け、見入った。
「うわぁ、凄いな。……って、あれ?」
健人は本来の目的を思い出し、我に返った。辺りを見渡すと、さっきまでいたはずの警備ロボの姿が無かった。健人はとりあえず目の前に見える受付カウンターらしき所へ向かった。しかし、誰もおらず、静まり返っていた。その時、後ろから突然声を掛けられ、健人は体をビクッとさせ、ゆっくりと振り返った。そこにはドクターコートを羽織った研究員らしき女性が不審そうに自分を見ていた。
「あなた、見学者? それとも学生さん? 部外者だったら、警備ロボを――」
「あ、いや、待ってください! 僕は決して怪しい者ではなくて! 父に呼び出されて。さっきまで警備ロボが案内してくれたんですけど、見失ってしまって」
健人は首からぶら下げていたスマートカードを研究員に突きつけるように提示した。健人の顔とスマートカードを交互に凝視する研究員はハッとした顔をして、満面の笑みで手を握って来た。
「あっ、えっと……」
「もしかして、かおり前室長の息子さんですか! かおり前室長は今も元気にされていますか?」
「かおり前室長って僕の母のことですか? えぇ、まぁ、元気にやっていますけど。――ところで、あなたはどちら様ですか?」
健人は興奮する研究員に若干引き気味になりつつ、尋ねた。研究員は我に返り、軽く咳払いをすると、健人に自分のスマートカードを見せ、母の元部下であることを告げた。健人は研究員にここへ来た目的を話すと、研究員は父がいる司令官執務室へ快く案内してくれた。道中、健人は研究員から母の功績を一方的に聞かされた。研究員の口調は早口でとても興奮しているように思えた。母はオペレーティングシステムやバーチャルアシスタント開発、メンタルセラピー関連事業などを手掛けた前室長で、サンキュー(救助・救護・救援)システムの発案者でもあるらしい。健人にはさっぱりで、とりあえず母はもの凄い人だという結論に至った。……ただの医者なはずなんだけど。
執務室に着く頃には研究員の熱弁も終わり、健人は何故かどっと疲れを感じた。健人は研究員と別れ、執務室のドアをノックし、部屋の中へ入った。司令官という位の高い役職だから、高級そうな絨毯が敷かれ、アンティークっぽい何かが所狭しにあり、いかにもお偉いさんの部屋だと勝手に想像していたが、それとは真逆で、まるで埃くさい理科準備室みたいで拍子抜けした。
「ここに来たということは、アカデミーへ入学する意思があるということだな」
「うわっ、ビックリした! 父さん、驚かせないでよ」
健人は完全に油断していた。父の立っていた場所が開閉した扉でちょうど隠れる形となり、父の声が急に聞こえ、健人は心臓が飛び出てきそうな声を思わず上げてしまった。しかし、父はそんな事お構いなしに淡々と話し、乱雑に脱ぎ捨てられたドクターコートを羽織った。
「お前専用のシンクロイドを造ったんだ。研究室へ早速行くぞ」
「えっ、あっ……」
「なんだ?」
「いや、なんでもないです」
「……ふん。あと、このスマートウォッチを常時装備しておけ。スマートカード代わりだ」
健人は父から押し付けられるようにスマートウォッチを渡され、先へ先へと行く父を追いながら、スマートウォッチを装着した。健人は父を呼び止めるも、鋭い眼光で自分を見てくるだけで聞きたいことが山ほどあるのに、それさえも許されなかった。数年振りの父との再会はまともに会話もせずに呆気ないものだった。
健人は父の背中を追い、いくつものセキュリティドアを通過し、『特殊研究室』と書かれた部屋に辿り着いた。ドアが開いた先は薄暗い廊下が伸びており、ホログラムモニターや操作パネルの明かりで怪しげな雰囲気を醸し出していた。
「この先だ。ちゃんとついてこい」
父の低い声と足音が廊下に響く。健人は小さく頷き、左見右見しながら、父の後ろをついて行く。大きな覗き窓からは部屋の中が少しだけ窺える。手術室のような部屋があれば、リカバリールームのような部屋もあり、まるで病院にある手術室の長い廊下を歩いているようだ。
使用中の赤いランプが点灯する一室の前で父は立ち止まった。そして、そこにいる研究員と父が何やら話し始め、健人は覗き窓からその室内を見た。室内は病院の手術室もしくは四人部屋二つ分の広さで、照明が一部しか点灯しておらず、部屋の奥は薄暗い。健人は部屋の奥に何かいるような気がしたが、はっきりとは分からなかった。しかし、他の部屋とは様子が明らかに違う気がし、思わず息を呑んだ。しばらく経って、健人は父と会話していた研究員から声をかけられ、その部屋の前室へ案内された。
「では、肌着以外の服を全て脱いでいただいて、この衝撃吸収スーツに着替えてください。また、スマートウォッチ以外の全ての装飾物及び貴重品をロッカーに入れてください」
「えっ、着替えるんですか? この部屋には何があるんですか?」
「この部屋には貴方のあらゆるデータに基づいてカスタマイズされたシンクロイドがいます。とにかく早く着替えて、入室してください」
健人は事務的で有無をいわせぬ口調の研究員に不快感を抱いたが、言われた通りに貴重品などをロッカーに入れ、ジャンプスーツに着替えた。そして、音楽室にあるような防音ドアのグレモンハンドルを回し、入室した。健人が入室したと同時にドアの閉まる音がした。よく見ると、内側にハンドルがなく、外側からロックされたみたいだ。健人がドアをバンバンと叩いたが、開くはずもなく、覗き窓から研究員たちを見たが、こちらに興味がないように見えた。
「嘘だろ……。十分な説明も受けていないのに、部屋に閉じ込めて。父さんは一体何を考えているんだ。覗き窓の前でいくら訴えても、父のことだから易々と出してくれないだろうな。はぁ……」
室内は火薬が焼け焦げたような臭いや金気臭が漂い、空調のせいなのか、少し肌寒い。部屋の両サイドの壁には物騒な武器や工具がいくつも掛けられていた。健人は恐怖で体を震わせ、目を凝らし、暗がりの中を慎重に一歩ずつ足を進めた。異質な部屋に放り込まれ、お化け屋敷に来たのではないかと錯覚してしまいそうだ。
「おい、貴様。さっきからピーピーピーピーうるせぇぞ。蘇芳様の睡眠の邪魔をすんじゃねぇよ」
「ひぃっ! だ、だ、だ、誰! ごめんなさい、ごめんなさい!」
健人は突然聞こえてきた男の殺気立った声に腰を抜かし、へなへなと座り込むと、手を合わせて必死に土下座した。
「うるせぇな、黙れ。おい! クソ研究員、聞こえてんだろ? さっさと電気つけろ!」
苛立った口調で男がそう言うと、部屋の照明が次々と点灯し、健人の視線にある床も明るくなった。健人はゆっくりと顔を上げ、男の声がする方向を見て、絶句した。
そこにはバラバラになったアンドロイドたちが小さく山を成すように積み上げられ、それを玉座のようにして、ボサボサの赤髪をしたシンクロイドが鎮座していた。そのシンクロイドは立てた膝に頬杖をついて、健人をじっと見ていた。
「なんだ? 俺様を見て、声も足も出ねぇか。それともあれか? ちびったか?」
健人は状況整理をしたいが、情報量が多過ぎて、頭の中がパンクしそうだった。健人はそのシンクロイドと覗き窓の向こうにいる動じない研究員たちを二度見して、ますますパニックになり、体が言うことを聞かず、動けずじまいだった。
「はい、ここが防衛機関アイリスよ。中央ゲートの警備ロボにスマートカードを見せれば、入れると思うわ。私はたぶん入れないかもしれないから、送迎はここまで」
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「うふふっ。だって、不細工な顔をしてるんだもの。しょうがないから直してあげたのよ」
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建物内は白とライトブルーを基調とし、エントランスホールだからか、ホログラムで様々な立体映像が映し出されていた。健人は初めて見る光景に自然と足が止まり、ぽかんと口を開け、見入った。
「うわぁ、凄いな。……って、あれ?」
健人は本来の目的を思い出し、我に返った。辺りを見渡すと、さっきまでいたはずの警備ロボの姿が無かった。健人はとりあえず目の前に見える受付カウンターらしき所へ向かった。しかし、誰もおらず、静まり返っていた。その時、後ろから突然声を掛けられ、健人は体をビクッとさせ、ゆっくりと振り返った。そこにはドクターコートを羽織った研究員らしき女性が不審そうに自分を見ていた。
「あなた、見学者? それとも学生さん? 部外者だったら、警備ロボを――」
「あ、いや、待ってください! 僕は決して怪しい者ではなくて! 父に呼び出されて。さっきまで警備ロボが案内してくれたんですけど、見失ってしまって」
健人は首からぶら下げていたスマートカードを研究員に突きつけるように提示した。健人の顔とスマートカードを交互に凝視する研究員はハッとした顔をして、満面の笑みで手を握って来た。
「あっ、えっと……」
「もしかして、かおり前室長の息子さんですか! かおり前室長は今も元気にされていますか?」
「かおり前室長って僕の母のことですか? えぇ、まぁ、元気にやっていますけど。――ところで、あなたはどちら様ですか?」
健人は興奮する研究員に若干引き気味になりつつ、尋ねた。研究員は我に返り、軽く咳払いをすると、健人に自分のスマートカードを見せ、母の元部下であることを告げた。健人は研究員にここへ来た目的を話すと、研究員は父がいる司令官執務室へ快く案内してくれた。道中、健人は研究員から母の功績を一方的に聞かされた。研究員の口調は早口でとても興奮しているように思えた。母はオペレーティングシステムやバーチャルアシスタント開発、メンタルセラピー関連事業などを手掛けた前室長で、サンキュー(救助・救護・救援)システムの発案者でもあるらしい。健人にはさっぱりで、とりあえず母はもの凄い人だという結論に至った。……ただの医者なはずなんだけど。
執務室に着く頃には研究員の熱弁も終わり、健人は何故かどっと疲れを感じた。健人は研究員と別れ、執務室のドアをノックし、部屋の中へ入った。司令官という位の高い役職だから、高級そうな絨毯が敷かれ、アンティークっぽい何かが所狭しにあり、いかにもお偉いさんの部屋だと勝手に想像していたが、それとは真逆で、まるで埃くさい理科準備室みたいで拍子抜けした。
「ここに来たということは、アカデミーへ入学する意思があるということだな」
「うわっ、ビックリした! 父さん、驚かせないでよ」
健人は完全に油断していた。父の立っていた場所が開閉した扉でちょうど隠れる形となり、父の声が急に聞こえ、健人は心臓が飛び出てきそうな声を思わず上げてしまった。しかし、父はそんな事お構いなしに淡々と話し、乱雑に脱ぎ捨てられたドクターコートを羽織った。
「お前専用のシンクロイドを造ったんだ。研究室へ早速行くぞ」
「えっ、あっ……」
「なんだ?」
「いや、なんでもないです」
「……ふん。あと、このスマートウォッチを常時装備しておけ。スマートカード代わりだ」
健人は父から押し付けられるようにスマートウォッチを渡され、先へ先へと行く父を追いながら、スマートウォッチを装着した。健人は父を呼び止めるも、鋭い眼光で自分を見てくるだけで聞きたいことが山ほどあるのに、それさえも許されなかった。数年振りの父との再会はまともに会話もせずに呆気ないものだった。
健人は父の背中を追い、いくつものセキュリティドアを通過し、『特殊研究室』と書かれた部屋に辿り着いた。ドアが開いた先は薄暗い廊下が伸びており、ホログラムモニターや操作パネルの明かりで怪しげな雰囲気を醸し出していた。
「この先だ。ちゃんとついてこい」
父の低い声と足音が廊下に響く。健人は小さく頷き、左見右見しながら、父の後ろをついて行く。大きな覗き窓からは部屋の中が少しだけ窺える。手術室のような部屋があれば、リカバリールームのような部屋もあり、まるで病院にある手術室の長い廊下を歩いているようだ。
使用中の赤いランプが点灯する一室の前で父は立ち止まった。そして、そこにいる研究員と父が何やら話し始め、健人は覗き窓からその室内を見た。室内は病院の手術室もしくは四人部屋二つ分の広さで、照明が一部しか点灯しておらず、部屋の奥は薄暗い。健人は部屋の奥に何かいるような気がしたが、はっきりとは分からなかった。しかし、他の部屋とは様子が明らかに違う気がし、思わず息を呑んだ。しばらく経って、健人は父と会話していた研究員から声をかけられ、その部屋の前室へ案内された。
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「なんだ? 俺様を見て、声も足も出ねぇか。それともあれか? ちびったか?」
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