アルディアからの景色

沼田桃弥

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第7章:苺の特訓(苺視点)

7-7:冷たい優しさ

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 苺が風呂場へ入ると、既に灯りがついており、浴槽には湯が張られていた。苺は仕方なく濡れた服を脱ぎ、風呂へ入った。オルトロスも一緒に入るかと思ったが、オルトロスは大人しく脱衣所で寝そべっていた。
 苺は体を洗うと、浴槽に浸かった。適度な湯加減で、滑らかな泉質が冷えた体に沁み渡り、思わずため息が漏れる。


「はぁ……、気持ち良い。打ち身に効く泉質なのかな? 痛みが和らぐ感じがする」


 苺がゆっくりと心身の疲れを癒やしていると、脱衣室からストラスの声がした。しかし、その声は苛立っているように思えた。


「いつまで入っているんだ。食事が出来た。さっさと上がれ」


 バタンと勢いよく閉まるドアの音に、苺は体をビクッとさせた。苺は急いで浴槽から出ると、バスタオルで体を拭き、準備されていたシルク素材のパジャマに着替えた。しかし、パジャマはストラスのものなのか、ダボダボで苺には大き過ぎた。
 苺はズボンをたくし上げながら、オルトロスの案内で食堂へ向かった。ダイニングテーブルには、丸いパンに、ふかし芋とミートボール、人参とインゲンのソテーが綺麗に盛り付けられ、準備されていた。


「お前はそこに座れ」
「は、はい……」


 食事が置かれていたのは、長いダイニングテーブルの両端だった。ストラスは先に座って、食事を始めていた。素っ気ないストラスの態度に心を痛めながら、苺は言われた通り、席に座った。しかし、やはり距離が遠すぎるのが気になり、苺はストラスに恐る恐る声をかけた。


「あの、……一緒に食べるなら、隣の方が――」
「黙れ。さっさと食事を済ませろ。なんだ? 私が作った料理では不満か?」
「……すみません。い、頂きます」
「フンッ」


 苺は出された食事を食べ始めた。どれも優しい味付けで懐かしさを感じた。しかし、それよりも終始沈黙のままで、ストラスに声を掛けられるような雰囲気ではなかった。
 ぎこちない空気の中、食事を済ませた。そして、再び客間に通され、苺はソファに座った。ストラスは温かいハーブティーを淹れると、苺に提供した。ストラスも自分のハーブティーを淹れると、また苺とは反対側の遠いソファに座り、お茶を飲み始めた。


「何故、お前は魔界に来た? ここはお前みたいな幼子が来る場所ではない」
「それが話すと長くなるのですが……」


 苺は魔界に来た経緯を話した。話している間、ストラスは足を組み、お茶を飲みながら、黙って聞いていた。


「それで、崖から湖に落ちて――」


 苺が湖に落ちた話をすると、ストラスは急に顔色を変え、ティーカップを音をさせ、置いた。そして、急に立ち上がったと思えば、苺の両肩を持ち、血相を変え、苺に問いただした。


「何故、湖に落ちたことを早く言わない! お前がずぶ濡れだから、もしやと思っていたが……。湖の水は飲んでいないだろうな?」
「きゅ、急にどうされたんですか? まぁ、真っ逆さまに落ちましたし、多少の水は飲んでしまいましたが……」
「はぁ、なんてことだ」


 ストラスは頭を抱え、落胆した様子で椅子にドカッと座った。苺は訳が分からず、ストラスの様子を窺った。


「な、何か良くない事でもあるんですか? で、でも、湖に落ちたお陰で打ち身位で済みましたし、何処も悪くないですよ?」
「いや、そういう事ではない。まぁ、いい。今日はもう遅いから、向こうの寝室で休め」
「わ、分かりました。ストラス様はどちらで休まれるのですか?」
「私は主寝室で休む。頼むから、主寝室だけには何があっても来るな。分かったな」
「はい……。では、おやすみなさいませ」


 苺はストラスからあからさまに避けられているのを感じた。苺はしょんぼりしながら、オルトロスの案内で来客用の寝室へ来ると、ベッドへ入った。
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