君のために僕がいる

美珠

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2巻

2-2

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   * * *


 あのあと急いで支度をした万里緒は、十二時台の飛行機に乗った。フライト中はぐっすり寝ていたので、着いたときにはすっきりしていた。久しぶりの羽田空港で一息ついた万里緒は、トイレに行って化粧がきちんとできているかチェックする。

「よし、大丈夫! 疲れてない」

 そう言いながらも、化粧直しをするあたり、自分も女だなぁ、と思った。
 羽田空港から電車に乗る前に千歳に電話をする。千歳は出なかった。出ないということは、仕事をしているか携帯電話の近くにいないか、のどちらかだろう。だが、千歳との会話から、今日も病院にいると思われた。
 とりあえず病院に行こう。ひと目会うだけでも構わない。どうせすぐに帰らないといけないのだ。万里緒にはまだ仕事が残っている。
 千歳の勤める病院近くの駅の改札を通ったとき、万里緒の携帯電話が鳴った。フリップを開くと千歳からだった。
 折り返し電話をかけてくれたことを、嬉しく思いながら電話にでた。

「もしもし」
『万里緒? すぐに電話にでられなくてごめん。今日は当直明けだよね?』

 聞こえてくる声が優しくて、ジンとする。
 もうすぐ会える、この声を近くでちゃんと聞きたいと思った。

「そうです。星奈先生、病院ですか?」
『うん。もう少ししたら帰ろうと思うけど』

 やっぱり病院にいた。そう思いながら駅から徒歩で三分ほどの距離を早足で歩く。

「消化器外科の医局ですか?」

 万里緒が聞くと、千歳がすぐに答えた。

『今? そう、医局だよ』

 首を傾げた千歳の顔が思い浮かんで、万里緒はより一層足を速めた。

「わかりました」

 電話を切って、早足で歩く。もうすぐ帰る、と言っていたのですれ違いにはなりたくないと思った。
 今日は日曜だから人通りは少ない。院内も人が少ないはずだ。休日は外来患者の診察はない。北海道の病院では、地域性もあるかもしれないが、休日もなるべく患者を受け入れているのだが。
 病院に着くと外科の医局を目指して歩く。院内は人がほとんどいなくて、会ったのは面会に来た人たちと入院患者くらい。時々看護師ともすれ違うが、万里緒のことなど気にも留めない。
 気に留めないで結構。万里緒も今は好きな人に会いたい一心なのだ。
 そのとき、携帯の着信が聞こえてフリップを開く。
 千歳からだった。もうすぐだから待っていて、星奈先生、と心の中でつぶやきながら着信を切って足を速めた。というか院内なのに小走りになっていたと思う。
 廊下を曲がって医局のすぐ近くまで来ると、千歳が医局から出てくるところだった。クルリとした目が万里緒を見て、驚いた顔になり、それから万里緒の好きな笑顔に変わった。
 もうトキメキます、と思いながら小走りで千歳に駆け寄る。もちろん万里緒の顔には笑みが浮かんでいた。

「万里緒……来たんだ? びっくりしたな」

 大学病院指定のネイビーカラーの服の上に白衣を着ている。久しぶりに医師モードの千歳を見た。
 メチャクチャに会いたかったから、万里緒の心臓がうるさく鳴り始める。
 会いたかったから、という言葉を口に出せないのは、千歳が素敵すぎるからだ。こんな人が私の旦那様なんて、本当に夢ではないかと思うけれど、これが現実。

「当直明けでしょう、大丈夫?」

 万里緒をいたわってくれるその笑顔で、疲れなんか吹き飛びます、と心の中で言う。でも胸がいっぱいすぎて、何も言えない自分がもどかしい。
 近づいてくる千歳を見て、今すぐ抱きつきたいと思った。
 が、医局の前なので、さすがにそれはできない。日曜にも病院に出てくる医師は多いのだ。祝日の明日、完全に休むために、今日患者をておこうという医師もいるだろう。
 すぐ近くまで来た千歳の腕を引くと、千歳が目をまたたいた。そのまま腕を引いて、非常階段へ。
 何も言わずにこんなことをする自分は大胆だと思う。
 だってここでは千歳に抱きつけないし、この思いをぶつけられない。ぶつけるのはどうかと思うが、とにかくもう、万里緒の心は千歳でいっぱいなのだった。

「万里緒、どうしたの?」

 首を傾げる千歳は、カッコよくてキュートで、とにかくギュッとしたい。

「会いたかった!」

 万里緒は非常階段の壁に千歳の身体を押しつけると、顔を上げて千歳の顔を両手で固定する。
 ようやく言葉で気持ちを言えた、と思いながら、千歳の整った顔に顔を近づける。大好きな千歳のアヒル口に、万里緒は唇を押し付けた。

「……っ!」

 キスをすると千歳が驚いて、息を詰めた。押し付けた唇を開き、万里緒から千歳の唇をついばんで、開いた唇の内側に舌を入れて深く唇を合わせる。唇をずらし、呼気を肺に入れると声が漏れた。

「ん……っふ」

 自分の唇から甘い吐息が出たのを聞いて、まるで千歳に飢えているようだと思った。そう思うと急に恥ずかしくなって唇を離そうとすると、千歳の唇が万里緒の唇を追ってくる。
 そして、千歳が万里緒の身体をきつく抱きしめた。背中に手を回し、背をで後頭部も撫でる。その手の心地よさとキスに、万里緒は甘い声を小さく上げた。

「ふ……っあ」

 濡れた音を立てるキスに酔って、千歳の唇の合間に漏れた吐息に酔う。
 久しぶりのキスは本当に気持ち良くて、しかも千歳を身近に感じることができた。

「……っ、万里緒」

 大好きな人に甘く呼ばれて、たまらない気持ちになった。
 キスは気持ちいいし、ドキドキするし、お腹の底がなんだかざわついてくる。
 今日中に帰らなければいけないのに、千歳と肌を合わせる自分を想像した。そうすると、余計にお腹の底から込み上げるものがあって、下半身がうずいてくる。
 イケナイんだけど、と思いながら千歳の背を撫で、大好きなヒップラインに手を回す。千歳のヒップを撫でると、千歳が身体を入れ替え万里緒を壁に押し付けてきた。

「触り過ぎですよ、奥さん」

 キスの合間に、唇を触れさせたままそう言われた。その吐息交じりの声は、心と身体にクルものがある。言いながら千歳は、背中から万里緒のヒップに手を移動させて、その肉を軽くつかんだ。
 肉厚で、ちょっと気にしているヒップライン。こんなことならもっとエクササイズしておけばよかった、と思った。

「あっ!」

 万里緒が声を出すと、触れさせたままの唇がキスを再開する。
 軽く唇をまれて、もう一度深く唇を合わせたときだった。千歳の医療用PHSが鳴った。どちらともなく唇を離す。濡れた音を立てて離れた唇から、唾液だえきの糸が引いた。千歳はそれを手で軽くぬぐって、PHSの通話ボタンを押した。

「はい……ああ、そう、熱が下がった?」

 そう言いながら万里緒の唇を指で拭う。優しくされるたびに、ドキドキする。さっきまでキスをしていた唇に、こんなことをされると本当にたまらないのだが。
 きつく抱きしめられていた腕が片方離れたので、万里緒は壁から少し身体を離して、千歳から半歩ほど距離を取る。

「じゃあ、あと五分で行くから。……はい? それから?」

 千歳は電話を切れない感じだった。電話をしながら、千歳が万里緒を見て微笑ほほえみ頬をでてくる。そうしてくれることが嬉しくて、その手に頬を押し付けた。
 でも電話の内容から、千歳は忙しいのだと察する。もう少ししたら帰る、と言っていたけど帰れない感じがした。
 万里緒も仕事がとどこおっているから、すぐに北海道へ帰らなければいけない。

「星奈先生、あの……あの……」

 小さい声で万里緒が言うと千歳は電話をしながら首を傾げた。こういうときはどう言えばいいのだろう。
 電話中に声をかけるべきではないけど、でも帰らなくちゃいけないし……
 離れがたい心と身体がせめぎ合い、ちょっとテンパってくる。

「えーっと、あの……唇、いや、キス、えっと、ごちそうさまでした! あと、お尻も! じゃ、帰ります!」
「……は?」

 万里緒の口からとっさに出た言葉に、千歳は目を丸くする。
 電話口で、星奈先生? という看護師らしき人の声が聞こえた。
 万里緒は、一歩下がって、二歩下がって、千歳が電話をまた耳にやったところできびすを返す。
 ごちそうさま、ってなんだよ、と思いながらドアを開けて非常階段を出て行く。
 ごちそうさま、と言った自分が恥ずかしくてひたすら廊下を走った。

「女のほうから尻を撫でまわすなんて、どうかしてるぜ! ごめんよ、星奈先生。でも触りたかったんですよ!」

 触りすぎと言った千歳を思い浮かべる。嫌そうじゃなかったけど、女からは普通しないだろうと思って、顔が熱くなってしまった。
 恥ずかしすぎて、とにかく急いで立ち去った。千歳は追いつけなかったようで、追ってこない。
 病院の外に出るとすぐに駅へ向かい、そのまま空港へ。
 久しぶりの千歳の唇。その感触を思い出すとドキドキして胸が熱くなる。
 これでまた、会えない日々を頑張れそうだ。千歳から着信があったことさえ気付かないくらい、万里緒は胸がいっぱいだった。


   * * *


 東京から北海道へ帰るときも爆睡ばくすいした万里緒は、妙にすっきりした気分で仕事ができた。日曜の午後六時から仕事を始めて、入院患者の対応なんかもして、日付けが変わるまで仕事をした。おかげで、滞っていた仕事も片付き、連休の最終日は寝てすごせると思っていた。
 ところが翌日。
 昨日はきっと、千歳の顔を見てキスをしたハッピーな気持ちと、当直明けというハイテンションが、万里緒に深夜まで仕事をさせ、きつくないと思わせていたのだろう。

「うわ、きっつ……きついよ、これ。うえー……」

 自宅のベッドで目覚めると、時間はすでに午前十時近く。万里緒にとっては遅い時間だ。
 一度は身体を起こしたものの、すぐにベッドに横になった。
 昨日無茶をしなければよかった、と思う。でも、どうしても千歳と会いたかった。身体はきついけど、キスをしたし魅力的なお尻もでられた。
 したいことをして、ちゃんと仕事もしたのだからこの身体のきつさもしょうがない。

「身体重い……もう一回寝よ」

 目を閉じて、ため息をついたとき、インターホンが鳴った。一度目はよく聞こえなかったから目を開けただけ。もう一度鳴ったとき、大きくため息をついて何とか起き上がる。
 ベッドから降りて、寝巻代わりのワンピースの裾を降ろす。寝ている間にめくれ上がっていたようだ。そうしているうちにもう一度、ピンポーン、と鳴ったので、はいはいとドアロックを外す。

「うあーい、だれすかぁ?」

 鍵をまわして、うつむきながらドアを開けると、上から声が降ってきた。

「おはよう。ちゃんと人を確認してドア開けてる?」

 聞き覚えのある低い声。見上げると、そこには見知った夫の顔があった。

「……なにしてんすか?」
「酷いね、会いに来たんだけど」
「は……? 仕事はどうしたんすか?」

 寝起きでうまく言葉がつむげない。千歳は忙しく、休日に北海道なんて来られる状態じゃないはず。

「きつそうだね、万里緒。大丈夫?」

 千歳の心配そうに首を傾げる仕草は好き。しかし動揺している万里緒は、首を振りながら言う。

「いやだから、仕事は? どうしてここに来たんすか、星奈先生」

 寝起きだから顔も髪の毛も相当酷いと思う。万里緒は目を片手でおおって、一歩下がった。というか、身体がグダグダで、千歳がいる状況に頭がついてこない。

「万里緒を頂きに」
「へっ?」

 頂くって、なんだ? と思って目を覆っていた手を外して千歳を見上げると、千歳は万里緒の身体を片手で抱きしめ、もう一つの手で少しきつく胸に触れた。

「あっ!」

 千歳の顔が近づき万里緒の唇が奪われる。唇を軽くついばみ水音を立てるようなキスをしながら、万里緒の身体を抱き上げる。

「ふぁ?」

 唇が離れると、万里緒は何度も目をパチパチさせた。

「え? ……へっ? 星奈先生、あの……」

 抱き上げられて移動したかと思うと、いつの間にかベッドにいて、万里緒の上に千歳がいる。
 ボーッとしながら千歳の重さを感じ、何度も啄むようなキスをされた。ようやく思考が追いついてきたのは、千歳が万里緒の上で言葉を発したときだった。

「抱きに来たって言ったんだよ」

 千歳がそういうセリフを言うとは思わなくて、顔がちょっと赤くなる。

「あ? なに? 抱きに? え?」

 思考は追いついてきたけれど、なぜ千歳が万里緒を抱くためだけにわざわざ北海道まで来たのかが、分からない。

「もう、そのまま寝ていて。勝手にやるから」

 千歳は、わかってないなというような感じでため息をつくと、やや面倒そうにそう言った。なんでそこでため息なんだろう。確かに万里緒はわかっていないけれど。

「……勝手にって?」
「勝手に、だよ。万里緒は何もしないで、横になってて」

 寝巻のワンピースが一気に胸のあたりまでたくし上げられた。もちろん先ほどまで寝ていたので、身に着けているのはショーツだけ。一気に万里緒の胸が露わになって、思わず手で胸を隠す。
 しかし、胸を隠していた手を少しごういんに外され、大きな温かい手が胸に触れる。そして近づく唇。

「ちょ、ちょっと待って……星奈先生……っ」

 たまらず抗議の声を上げた瞬間、万里緒の胸が千歳の唇に含まれる。軽く歯を立てられると、あ、と小さく切ない声が出てしまった。
 胸を揉み上げられ先端をままれる。そして再び千歳の唇が万里緒の胸を吸い、舌で舐められた。

「あ……っあ」

 声を上げるのはしょうがないこと。だって、久しぶりの、愛撫あいぶ
 胸に触れながら、片方の手が下がっていき、ショーツに手をかけられた。その間も、胸をんだ唇は、ゆっくりと脇腹を通り、へその辺りに口づけながら、確実に下がっていく。
 下がっていった唇が、千歳の手によって開かれた足にいきつき、うちももにキスをした。そこを強く吸って赤いあとを残すのを見て、万里緒は下唇を噛む。

「いきなり、ひど……っ」

 半泣きで万里緒が言うと、千歳が呆れたように笑った。

「それは、お互いさま」

 そうして千歳は万里緒の足の間に顔を伏せた。開いた足をさらに開かせるように、手で股関節こかんせつを広げ、指で万里緒の秘めた部分を開く。そこに柔らかい感触がした。

「あ……っん」

 下から上へとでるように動くのは、千歳の舌だ。キスをするように秘めた部分の中心をついばみ、その下にある隙間へ舌を差し入れる。
 舌を身体の中に感じて、万里緒は息を詰め、声にならない声を出す。眠っていた身体には刺激が強すぎて涙が出た。

「やっ! 千歳……っ!」

 もちろん千歳はやめてなんかくれない。
 何度も身体の中心を舐め、時々濡れた音を立てる。千歳の舌が万里緒の身体で暴かない部分はないというように、唇と舌で高められた。足は力が入らず、余計に開き、行為を助長する。
 千歳が顔を上げ濡れた唇を手で拭うと、舌の代わりに指を入れてきてその感覚に腰が跳ねる。

「……っは」
「イイ? 万里緒」

 千歳が濡れた唇をペロリと舐めるその仕草に、身体の奥がうずいてくる。

「指を、締め付けてるよ?」

 何度も万里緒の隙間を出入りする指は二本に増えて、腰を跳ねさせるばかりか限界を訴えてくる。お腹が疼いて、どうしようもなくて、濡れた音がやけに耳に響く。

「あ……っは、ちと、せ、ダメ……っ、ダメ……っあ!」

 あ、あ、と恥ずかしい声を出しながら、万里緒は達してしまう。
 達したあとも指は万里緒の中で動き続ける。しばらくゆっくり動いて、濡れた音を立てて指が離れた。濡れた千歳の指が、糸を引いて離れるのを見て、恥ずかしさと快感が増す。さらにその手が万里緒のだいたいに触れて、濡れた感覚を伝えてきて、たまらずに顔を手でおおった。

「手、濡れてます……ティッシュ、そこにあるので、いてください」

 顔を覆いながらそう言うと、千歳は万里緒のアレで濡れた指を舐めた。

「万里緒は、意外なところで保守的だ」

 淡々とそう言われて、万里緒は顔を覆っていた手を外す。

「ほ、保守的?」
「大胆かと思えば、初々ういういしくなったり、恥ずかしがったり……そういうところも、ツボですよ、万里緒さん」

 そう言って、まだきちんと服を着ていた千歳が自分のカーゴパンツのボタンを外す。続いてジッパーを下げ、下着をずらした。
 魅力的な腰骨が露わになるのを見て、万里緒はなんてエロいんだ、と思った。
 下着をずらしたことで、はっきりと主張した千歳自身が出てくる。身体を起こし、足を開いた万里緒の間に膝をついて、千歳はカーゴパンツのポケットから四角いパッケージを取り出した。
 まさかそんなところに避妊のアレが入っていると思わなかった万里緒は驚く。千歳は準備万端ばんたんに整えて、万里緒をベッドに運んだのだろうか。

「着けなくてもいいかな?」

 千歳は魅力的な唇の隙間から見える白い歯で、パッケージを破りながら言う。

「つ、着けてください」

 万里緒が言うと、千歳は唇をペロリと舐める。その仕草はちょっと反則だ、と思いながら見上げる。
 パッケージの中身を取り出し、自身のモノに被せた千歳は、笑みを浮かべて万里緒の腰骨の横に両手をついた。

「そう言うと思ったよ」

 千歳は万里緒の足の間に自身のモノを押し付けた。隙間の上をスルリと移動する千歳のモノ。濡れた音を立てて、何度かそこを行き来する。

「入れ、ない?」

 万里緒が言うと、口元に笑みを浮かべて、腰骨の横についていた両手が万里緒の足を開く。千歳の目の前に、恥ずかしい部分がさらされている。
 顔をらすと、千歳のモノが万里緒の隙間にあてがわれた。
 そして、ゆっくりと中に入ってくる。
 大きくて硬くて、大好きな千歳が、身体を繫げる。

「あっ!」
「……っ、狭いね」

 ん、と言って大きな目を細めて千歳は自身のすべてを万里緒の中に入れる。
 ピッタリと隙間に入った千歳が、ゆっくりと腰を動かし始める。それがたまらなくて、腰が揺れる。

「腰、揺れてる」
「だ……って」

 笑みを浮かべて余裕を見せながら、腰を動かし、回して万里緒の中を千歳のモノが愛撫する。その間にも大きな手が胸に触れて、先端を揉み上げてくるから堪らず声を出してしまう。
 ゆっくりだった腰の動きが少しずつ速くなる。濡れた音と、肌同士がぶつかって立てる音がやけに大きく聞こえる。

「千歳……っ」

 手を伸ばすと、千歳がおおいかぶさるように万里緒の身体に近づく。千歳の首に手を回すと、万里緒の身体が浮き上がり、千歳の上に座るような体位になる。

「あん……っ!」

 千歳との繋がりがより深くなって、大きな声が出てしまう。
 でもそれが良くて、堪らなくて、こんなに愛されるのは初めてだ、と思う。今までこんなに感じたことはなくて、こんなリアルに中に入ったモノを感じたこともなかった。
 しかも千歳の抱き方は、ゆっくりで情熱的なので、万里緒のほうが先にイってしまいそう。

「も、イキ、そ」
「……っ、そう? じゃあ、イって」
「千歳、一緒、に」
「だめ、まだ君の中に、入っていたい」

 そう言いながら一層腰を動かす千歳は、せわしない息を吐き、耳元で甘い言葉をささやく。

「本当は、イキそうだけどね。万里緒の中、温かくて、気持ちイイから」

 ふ、と息を吐き、万里緒の身体をゆっくりとベッドに戻す。そうして、さらに千歳が身体を揺らしてきて、万里緒は声を上げて達してしまった。でも、千歳はまだだ。そのまま腰を揺らしている。それがいつも堪らない。

「ん、ん……っあ、ち、せ」

 言葉が上手く紡げない。
 腰を揺らす動きが速くなり、最後に腰をグンと奥まで差し入れて、千歳は動きを止めた。

「……っ」

 千歳の腰が震えて、達したのがわかる。
 その表情を見ると、身体の奥がキュッとなった。
 大好きな人の、達したときの表情はこれ以上ないくらい色っぽい。
 見ながら目を閉じると、心地よい眠気が襲ってくる。
 腰が離れて、万里緒の中から千歳が抜けるのを感じながら、万里緒は意識を手放した。
 意識を手放す前、あれだけ情熱的なことをしておきながら、まだ服を着たままだった千歳を見て、星奈千歳のバカ、と思ったことは絶対に言わないが。



   3


「今、何時だ……」
「十二時四十三分」
「……んあ?」
「十二時四十三分だよ、万里緒」

 眉を寄せて、身体を起こす。ベッドの上にぺったりと女の子座りして、髪の毛を掻き上げると、黒のカーゴパンツとベルトが目に入る。ベルトもカーゴパンツのボタンも外されたままだった。

「……ふ?」

 ふと自分を見る、と、全裸だった。

「あ……そか」

 寝起きでめっちゃきついときに、好きな人に乗っかられたのだった。

「星奈先生、ひど、い、です」
「昨日、あれから仕事したの?」
「しましたよ、きのう、朝の二時半までしてた」
「お疲れ様」

 にこ、と笑った千歳はきっと万里緒よりもハードな仕事をしているだろうに、かなり余裕だ。

「よゆ、ですね」
「当直以外はよく寝てるからね」

 近くにあるタオルケットを引き寄せて、身体を隠す。いまさら裸の身体を隠すなんて、どれだけボーっとしてんだと思った。

「もう一度ねた……」

 千歳の言葉の途中で、万里緒は即座に首を横に振る。すると、千歳が聞き返す。

「どうして?」
「だって、きついんです。もう一度はできません。絶対しないです」

 今からもう一度、と思うと体力を使いきってしまいそうだった。
 千歳が近づいて、万里緒をベッドのすみに追い詰める。背中に壁が当たった。眉を寄せて見上げると千歳は万里緒の頬をでた。

「……そんな顔をして、昨日の勢いはなんだったんだろうね?」
「昨日? 知りません」
「ごちそうさま、だったっけ?」

 千歳と深いキスをひとしきり交わして、万里緒は北海道へ帰った。そのときになんと言っていいかわからず、思わずごちそうさま、と口走ってしまったのだった。

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