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第二章 当主編

第十四話 離反

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 浜松城をはじめ、遠江、三河の大部分を領地となった山本勘蔵は、単なる城主ではなく、事実上、武田勝頼の家臣ではあるが、戦国大名と言っても差し支えなかった。

 しかし、立身出世を心思わぬ者が居た。

 その者は、武田勝頼の重臣、長坂光堅ながさかみつかた跡部勝資あとべかつすけの二人である。

 この二人は、主君の武田勝頼が当主になると、それまでの他の重臣を讒言し、地位を高めていった。

 今回は、山本勘蔵の地位を落とし、三河、遠江の利権を奪おうとしたのである。

 長坂光堅は、気難しい顔をして、武田勝頼に、

「山本勘蔵が遠江、三河での名声が高く、織田信長と徳川家康を破った長篠の合戦の手柄を御屋形様、(武田勝頼)を差し置いて、己の物だと吹聴しているそうな……」

 跡部勝資も、したり顔で、

「前の御屋形様、(武田信玄)のご恩を忘れ、武田があるのは、この山本勘蔵だと、甲斐、信濃、上野、駿河の民まで申しているそうな……」

 元々、直情的で、最近、父、武田信玄以上の領地を得て、織田信長を敗北させた事により、慢心している武田勝頼は、山本勘蔵が疎ましくなっていた。

 更に、この重臣二人の讒言を聞いて、山本勘蔵から領地を召し上げるか? 今より小さな領地に転封させるか? 考え出した。

 だが、この一部始終は、山本勘蔵の間者集団、風魔衆に見聞きされ、その日の内に山本勘蔵が知る事となった。

 山本勘蔵は、重臣を集め裏評定を開き、ある決断をする。

 山本家重臣は、裏評定で決定した事を実行するべく、三河、遠江の各所に向かい、山本勘蔵は、それから二日後に、とある場所に居た。




 その場所は、何と、織田信長の本拠地、岐阜、(美濃)の岐阜城、(稲葉山城)である。

 岐阜に向かったのは、山本勘蔵と、軍師の本多正信、猛将の山上道及、勘蔵の弟、勘平衛かんべいの四人。

 岐阜城に居た織田の小姓に案内され、評定の間に着くと中央の上座に、鷹の様に鋭い眼で、山本勘蔵を睨み付け、不敵な笑みを浮かべている赤い小袖を着た四十代の年齢、身体は細身だが、良く鍛えられている漢が居た。

「長篠では世話になったな……山本勘蔵。この織田信長に何用ぞ? 返答次第によってはお主達の首が胴体から離れるが? 心して申せ!」

 山本勘蔵は、顔を上げ、織田信長を見据え、

「武田勝頼に仕える気が失せ申し、織田信長様の家臣になりたく参上した次第にございます」

「で、あるか。ならば、お主の領地、浜松城を初め、遠江、三河の大半、所領安堵致す。また、武田の領地切り取り次第と致す。だが、全てを信用したわけではない。人質を寄越すが良い」

「有り難き幸せ。まだ、実子が居らぬ故、俺の弟、勘平衛を人質に寄越しましょうぞ!」

「で、あるか……。山本勘蔵。励め!」

「御意!」



 その頃、遠江、三河の山本勘蔵以外の城は、山本家重臣の策略によって落城していた。

 その策略とは、武田勝頼の偽の文を見せ、退去させるもので、無傷で、遠江、三河の全てを山本勘蔵の領地とした。
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