二代目山本勘助 山本勘蔵立身出世伝

轟幻志郎

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第二章 当主編

第九話 戦国乱世の猛者達仕官

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 三河、長篠にて織田、徳川連合軍が武田に敗れ、更に武田が三河を領地に加え、徳川滅亡。

 その立役者である山本勘蔵の名は三十日もしない内に日の本に伝わり各地の国主や浪人達に広まった。

 遠江の山本家には仕官を求める浪人達が集まって来た。

 何故なら、滅亡した徳川の遠江、三河のほとんどの城主達が討ち死にした為、空いてる城や領地がある。

 ならば、儂も上手くやれば城主に慣れる、成れずとも領地持ちじゃ、と、来た者達だ。

 だが、山本勘蔵は、西遠江、東三河に必要の無い城を破却し、領地の城下町や橋、治水の資材とした。

 それでも、城主の居ない城は多いのだが……。

 浪人達の仕官採用は疋田文五郎が担当し、自ら、手合わせする事もある。

 そんな中、昼に、粗末な装束だが二十代後半で、頭が禿げ、鬼を思わせる様な大きく鍛えられた身体、そして巨大な鉄の棒を持った武士が、浪人仕官の予選をしている時、十人纏めて薙ぎ倒していた。

 すぐに疋田文五郎は、禿げの大柄な武士に、

「お主。ただ者ではない。名は何と申す?」
 
 と、尋ねると、

「儂は北条嫌いの山上道及やまがみどうきゅうと申す。山本勘蔵殿に喧嘩を売りに来た者ぞ!」

「わっはっは。山上殿。実に豪気な漢ぞ! 気に入った。殿にお取り次致す!」

 一刻後、山本勘蔵は山上道及と試合の立ち会いをする事となった。

 周りには浪人達も見ており、賭けを始める始末である。

 疋田文五郎は、同じ流派の山本勘蔵の腕前を楽しみにしながら、両者に

「山上殿、山本勘蔵様、始め!」
 
 山上道及は、巨大鉄の棒で、山本勘蔵を薙ぎ倒そうとしたが、全く隙が無い。

 しかし、徐々に山上道及に正面から近づいてくる。

 山上道及は最後まで、金縛りの様に動けず、

「参った!」

 と、降参した。

 だが、山本勘蔵は、

「山上殿。お主は強いな。どれ程合戦をしている。まさか、父、山本勘助直伝の一ノ太刀を使う事になるとは。熊をも気迫で殺す事ができる一ノ太刀を浴びて、意識を保っている。大した者ぞ! 俺の家臣に成らぬか? 山上殿」

「ありがたき幸せ! この山上道及! 喜んで山本勘蔵様にお仕えいたす!」

 



 当然、噂を聞いてわざと騒動を起こす者がいた。

 その夜、浜松城下町に奇抜な格好をした浪人の話を、山本勘蔵は小姓の石田三成から聞き、代官所の牢に向かった。

 三成の話とは、

「奇抜な格好をした浪人が、城下町で酒に酔って暴れ、新たに仕官した元浪人を十人近く殴り倒した」

 という話である。

 その後、三十人の元浪人達が必死に取り押さえたと聞き、驚いた俺は牢に向かったのだった。

 山本勘蔵は実力が全ての猛者である。

 新たに仕官した元浪人達の武勇は戦国最強と謳われた甲斐の武田軍や越後の長尾の武士と引けを取らない程の兵である。

 その強さは戦国最弱と言われている尾張の兵三人から五人分の強さを一人で持っていたはずであった。

 その兵を十人近く殴り倒したと聞き興味をそそられたのである。

 その奇抜な格好をした浪人が牢に閉じ込められていたが、脅える様子も無く、堂々と寝ていた。 

 その浪人は十代後半で、体の大きさが並はずれて大きく、屈強そうな武人で、元浪人達が取り押さえたとは、思えぬほど強そうな浪人である。

 これはわざと捕まり、自分を売り込みに来た浪人、もしくは、この俺の器を計りに来た間者ではないかと直感した。

 牢番から槍を奪い、その浪人に向かい突き出した。

 すると浪人は寝返りをしながら避けたのである。

 更に二回、三回と槍を突き出したが結果は変わらずに寝ていた。

 呆れて、

「俺の負けに御座る。そこの武人、起きては下さらぬか?」

 と問いかけると浪人は、

「なかなかの馳走で御座るな。流石山本家よ! 山本殿は織田信長に勝った猛者と聞いて来たが、その家臣も、なかなかの武人よ! 槍を持っている身分の高そうな漢よ、そなたが代官か?」

「俺がその山本勘蔵ぞ。お主ほどの武人の名を聞きたい」

「それがしは前田慶次郎まえだけいじろうと申す! 少し悪ふざけをしてしまい申した。明智殿は、なかなか意気な計らいをして下さる。如何であろう。それがしを家臣にして下さらぬか? 尾張の織田信長の命令で、城を追い出され、今は宿無しの浪人で御座る。酒などを酌み交わしたい」

 呆気に取られ、

「良かろう前田殿、俺の客人として迎えよう。牢番、酒を持って参れ」

 こうして牢で、山本勘蔵と前田慶次郎は、無言で酒を酌み交わし、この不思議で屈強な傾奇者の前田慶次郎と飲み交わしていると、気分が良くなり、思わず、

「前田殿、そなたは、実に面白い、漢で御座るな。そなたと酒を酌み交わしていると、まるで十年来の友と飲んでいるような気が致す。心が楽しくて、しょうが無いので御座る。傾奇者とは、その様な者で御座るか?」

「そうでも御座らん。傾奇者とて、色々な者がござるが、それがしと酒を酌み交わして、友の様に思ってくれる。明智殿もなかなか安らかな気持ちにさせてくれる。こんな旨い酒は、それがしの友人であり、家臣でもあった。今は多分浪人で居るであろう。奥村助右衛門おくむらすけえもん以来で御座ろう。」

「そうで御座るか。奥村助右衛門殿は、如何なる御仁に御座るか?」

「そうですな、それがしが織田信長の命令で、荒子城の相続を認められず、召し出される時に、儂と二人で籠城し、伯父貴でだった、前田利家まえだとしいえに向かって逆らい、籠城して、抵抗した仲で御座る。山本殿がこれ程の人物であるならば、それがしが奥村助右衛門を探し、共に仕官するのも、一興で御座る。その時はそれがし達を仕官させて頂るか? 愚問で御座った。酒に酔ったのかも知れませぬな……」

 前田慶次郎は寂しげな顔をしながら、過去の思い出を振り返っていると、

「前田殿、いや、慶次郎。そなたの望み叶えよう。奥村助右衛門殿の様な、肝のある御方に仕官して頂くのは有難い。是非、探し出して、俺の家臣と致す。慶次郎! 奥村助右衛門殿を探し出し、説得して、俺の元に仕官させよ。君命で御座る。謹んで受けて貰えるな?」

 前田慶次郎は真剣な顔をし、

「確かに受け賜わった。諸国をめぐり、奥村助右衛門と探し、共に、山本殿に仕官致す。生きる目標が出来た。これにて御免!」

 こうして、前田慶次郎は奥村助右衛門を探す旅に出かけたのだった。
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