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第五話(掴の想いと深紅の願い)
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中学生になった未知可にも、いくらウザがられようと俺は真剣に向き合った。
自分の子供に犯罪者になって欲しいなどと考える親がこの世に存在するだろうか。
否。そんなことはない。
そのように考える最低な親は父や母を名乗る資格無し。そいつはただの悪魔だ。人間じゃない。
これは子供を持つ親として誰もが持つ共通の想いだ。そう俺は信じている。
自分のことよりも子供のことを大切にする。それが親としての愛情だと俺は思う。
「なぁ、父さん」
「何だ、息子よ」
「俺、今日さ、シュナちゃんのバスタイム覗こうと思ってるんだけど、一緒にどう?」
いつの間にかおませになっていた未知可から覗きのお誘いがきた。
これは息子なりのスキンシップのつもりなのか。
良い大人がそんなことして許される訳が無い。
歳を取らない言葉通りの永遠の高校生であるシュナちゃんのバスタイムを覗くなど、普通なら逮捕されるレベルだ。
俺が最終的に出した答えは……。
「どうするの?やらないの?」
「参加させて頂きます」
未知可と共に豪邸の銭湯くらい広い風呂の脱衣所まで来て、俺は中にいるのがシュナちゃんだけじゃないことに気付いた。
この声は、来夢か。いや、待て……日向も一緒にいるぞ。
「未知可、やっぱり止めておこう。来夢が一緒にいる時点で無理だ。覗きがバレたらきっと日本刀で斬り殺される。そこでゲームオーバーだ」
「そ、そうだね……母さんもいるみたいだし、今日は止めておこうか」
シュナちゃんだけなら、明るく笑顔で許してくれるだろうが、来夢もいるとなると別問題だからなぁ。ほんとに殺されかねない。
俺と息子は渋々脱衣所を後にした。
「未知可、これをやる」
残念そうにしている息子に俺が渡したのはアンドロイドの体を研究していた時に撮ったシュナちゃんの下着姿の写真だ。
「うおー!すげぇ!シュナちゃん可愛過ぎだろ!」
「それあげるんだから、これからも勉強頑張るんだぞ」
「うん!サンキュー父さん!」
それからの俺はやることもなくとても暇だったので、一人ゲーセンに足を運びクレーンゲームと対峙を始めたのだった。
深紅たんが目覚めた時にパンタヌに囲まれていたらきっと喜ぶだろうなと思っての行動よ。
今の内にパンタヌ百匹集めとかないとな。
「友達百人より、深紅たんにはパンタヌ百匹の方が可愛いもんな」
千円しか使わずに十匹のパンタヌぬいぐるみゲットに成功した俺に店員からのストップがかかったことは言うまでもない。
俺もあの時から比べたら上達したもんだよな。今じゃ昔と違って簡単に景品が取れちまうんだから。
この場所には深紅たん居なくなってから寂しさ紛らわしに何度も来たしな。上手くならない方が可笑しいか。
(もう少し待っててくれよ、深紅たん。もうすぐまた会えるから……)
未知可は十分俺に負けずと劣らない天才に生まれ変わった。
これで高校生になっても父親である俺と比べられ、苛められることは無いだろう。
中学の成績が毎回トップで勉強に物足りなさを感じていた未知可が進学しようと決めていたのは俺と日向が通っていた簗嶋高校ではなく学力がトップクラスの有名な男子校だった。そこには工学部があるらしく、未知可は父親である俺にこう宣言した。
「俺も父さんみたいな科学者になるよ。なって、シュナちゃんみたいな可愛くて自分のお世話をしてくれる、そんなアンドロイドを生み出したいんだ」
そこは全寮制の高校で、未知可はこれから三年間自宅を後にする。
これで俺と皆の役目は終わった訳か。
「お前ならなれるよ。きっと俺をも超える天才科学者になれるさ。行って来い。卒業後の就職先なら俺が用意しておいてやるから」
「ありがとう。三年後には俺専用アンドロイドを連れて帰って来るからさ。楽しみに待っててよ」
「ああ。楽しみにしてる。頑張れよ」
「うん。頑張るよ。それじゃ、行って来ます」
俺の息子も立派になったもんだな。
自分専用のアンドロイドを作りたい何て、そんなこと考えているとは思わなかったぞ。
彼はもう深紅たんの記憶で見た性格の悪い未知可とは違う。通う高校も違うし、学力も明らかに違うんだ。このままずっと優しい子のまま育ってくれたら、きっと深紅たんも喜んでくれるだろうな。
それから三年が経つのはあっという間に感じた。
俺が深紅たんを取り戻す日ももう少しか。
……長かったな。そりゃそうだ、もう俺も三十七歳。
すっかりとおっさんになっちまったんだからな。
「父さん、今日は俺にアンドロイドについて教えてくれる約束だっただろ」
「ああ、良いよ。いくらでも教えてやる」
予想はしていたが、未知可は高校三年間でアンドロイドを作って連れて帰るという目標は達成出来なかった。
そりゃそうだろうなぁ。大学で俺が教わった時も物足りなさを感じたくらいだ。
一つランクが下の高校の授業じゃ講師のレベルが更に低いのは目に見えてる。
「未知可、落ち込むことは無いぞ。父さんが通っていた大学ですら、大した講師は居なかった。あいつ等レベルじゃ何年経とうがシュナちゃん達みたいな人間に近いアンドロイドは生み出せないだろうぜ」
「やっぱそうだよね。俺の通った高校でも教わったのはロボット技術ばっかでさ、オタクみたいのしかクラスにいなかったよ。おまけに女子は一人もいないし、むさ苦しいの何のって」
「それはお前が悪いな。男子校に何て俺だったら絶対に行かないね。まあでも、人間に近いアンドロイドを生み出したいなら俺がいくらでも力を貸してやるよ。お前が今まで教わってきたどの講師何かよりもよっぽど役に立つと思うぜ。何て言ったって俺は……」
「天才科学者だからな。でしょ?」
「そうそう。よくわかってるじゃねぇか。流石は俺の息子」
高校を卒業して立派な社会人となった未知可にはもうあの話をしても良いと思った。
この様子ならわざわざ成人を迎えるのを待つ必要は無い。
現在の、十分に常識を持ち合わせている息子になら俺の生み出したアンドロイドが後一人存在することをそろそろ知っても良い頃だ。
「なぁ、未知可」
「何、父さん?」
「お前に話しておきたいことがある」
俺は目の前にいる息子に語り始める。深紅たんという俺の大好きなアンドロイドとの出会いと、別れ、そして、未知可の未来を変えてくれと願った優しい少女の話を。
「…………深紅、たん…………深紅たん!!」
俺の懸命な呼び掛けに、発明室のベッドで横たわる深紅たんがゆっくりと閉じていた瞳を開く。
どうやら修復した黄色のコアによる起動は上手くいったようだ。
今までずっと、何年間も長い間動くことが無かった体がピクリと反応したその時、俺の瞳から大粒の涙が零れた。
これは嬉し涙だ。決して恥ずかしいことではない。
俺は前から決めてたんだよ。この日は思いっきり大きな声を出して、周りがウザがるくらいに泣いてやろうってさ。
だって、そうだろ?
俺はこの日を、誰よりも一番に待ち望んでいたのだから。
「……やっと……やっとだ……」
「あ、ある、じ……」
「やっと会えた」
久しぶりに抱きしめたその小さな体は、以前と変わらずに温かく人間と同じような体温を感じた。
十七の時と比べてすっかりおっさんになっちまった俺を深紅たんは「主」と確かにそう呼んだ。
……良かった。憶えていてくれたんだね。素直に嬉しいよ。
「ある、じ……主っ!!」
言葉がはっきりとしてきた深紅たんが俺の名を叫ぶ。
俺もそれに応えるように、対抗するように、負けずと大声で叫んだ。
「ああ!そうだ!主だ!幾つになっても、大人になっても可愛い深紅たんのことが大好きな主だよ!」
「主に会いたかった。ずっと……」
「ごめんな。こんなに遅くなっちまって。今日から日向もシュナちゃんも来夢も皆一緒だ。もう深紅たんに辛い思いはさせない。これからは楽しい思い出だけ作って行こう」
「うん。これからはずっと主と一緒。嬉しいな」
……これで、やっと本当のラストスパートだ。
俺は深紅たんのお願い事を叶えて、深紅たんを助けることが出来たんだよな。
これは俺が深紅たんを取り戻した次の日の、朝食の時間の出来事だ。
「奥方、主のこと一日深紅にレンタルして欲しい。駄目?」
「駄目じゃない。良いよ。掴のことしんちゃんになら何日でも貸してあげる」
「やった。奥方大好き」
俺を日向から貸して貰った深紅たんは、本当の子供の様にはしゃいでいてとても可愛らしかった。
そんな姿を見ていたアンドロイド少女好きの未知可は、
「モテモテな父さんが羨ましいよ。俺も深紅ちゃんに好きになって貰いたいな。すげぇ可愛いし」
「お、未知可。お前も目覚めたか、深紅たんの可愛さに。流石は俺の息子だ」
深紅たん大好きな奴に悪い奴は無し。
俺はそう思うね。
だからコイツはもう、あの時の未知可とは別の未知可だ。
奴はロリコンと俺を馬鹿にしたが、俺の息子の未知可は深紅たんを可愛いと言った。
まったくの別人だよ。
「どうだ、深紅たん。俺ちゃんとお前のお願い叶えてあげたんだぞ。見ろ、俺の息子の未知可はアンドロイド大好きな好青年だ。あの深紅たんを苛めていた未知可とは全然違うよ」
「知ってる。昨日廊下ですれ違った時に謝罪された。この時代の若は深紅に何もしていない。だから謝る必要は無い筈」
俺が別の世界の未知可の話を聞かせたからかな。謝れとは言わなかったけど、きっとアイツ自身が耐えられなかったんだろうね。
もし自分が道を踏み外していたら、俺や深紅たん、大勢の人を殺すような犯罪者になっていたかもしれないって。
その話をしたらお礼を言われたよ。
俺を見捨てないでくれてありがとうって。
「深紅たん、ちょっと付いて来て」
「主、何処行くの?」
「いいから、いいから」
俺が深紅たんの手を引いてやって来たのは深紅たんの為に用意した専用の部屋。
そこに飾った百匹のパンタヌを見せてビックリさせ喜ばせたかったのだ。
「わー、すごい。パンタヌ一杯……」
「どうだ、深紅たん。これ全部俺からの生還プレゼントだぞ~。嬉しいだろ」
「すごい、これ何匹いるの?」
「百匹だ。皆深紅たんのお友達になりたいって言ってるぞ」
目をキラキラさせてる深紅たん久しぶりに見たな。相変わらず可愛い奴だ。
「……嬉しい。主、ありがとう」
「いえいえ。どういたしまして」
俺も深紅たんが喜んでくれたみたいで嬉しいわ。長い間ゲーセンに通い続けて良かったよ。
此処まで集めるのには少し年月が掛かったが、サプライズは見事に大成功だ。
「主、主」
「なあに、深紅たん」
「しゃがんで」
「え?」
「良いから早く」
深紅たんが一体何をしたいのかは全くわからなかったが、俺は大好きな天使の言う通りに、言われるがままにそっと腰を下ろした。
すると、
「……え?」
深紅たんが、俺のほっぺにちゅーをした。
もしかして、今の可愛らしい口付けは百匹のパンタヌぬいぐるみをプレゼントしたお礼なのかな。
「深紅は主のことが大好き。主は?」
深紅たんからの突然な告白にドキっとした。
そんなこと今更言わずとも、もうとっくにわかっているだろ。
「そんなに聞きたいなら何度でも言ってあげるよ。俺も、深紅たんのことが大好きです」
お返しに深紅たんのほっぺにキスをする。
一瞬で赤く染まった表情が何とも可愛らしい。
ハッピーエンド。
今の俺達には、誰が見てもその言葉が最も相応しく映っているのだろうな。
自分の子供に犯罪者になって欲しいなどと考える親がこの世に存在するだろうか。
否。そんなことはない。
そのように考える最低な親は父や母を名乗る資格無し。そいつはただの悪魔だ。人間じゃない。
これは子供を持つ親として誰もが持つ共通の想いだ。そう俺は信じている。
自分のことよりも子供のことを大切にする。それが親としての愛情だと俺は思う。
「なぁ、父さん」
「何だ、息子よ」
「俺、今日さ、シュナちゃんのバスタイム覗こうと思ってるんだけど、一緒にどう?」
いつの間にかおませになっていた未知可から覗きのお誘いがきた。
これは息子なりのスキンシップのつもりなのか。
良い大人がそんなことして許される訳が無い。
歳を取らない言葉通りの永遠の高校生であるシュナちゃんのバスタイムを覗くなど、普通なら逮捕されるレベルだ。
俺が最終的に出した答えは……。
「どうするの?やらないの?」
「参加させて頂きます」
未知可と共に豪邸の銭湯くらい広い風呂の脱衣所まで来て、俺は中にいるのがシュナちゃんだけじゃないことに気付いた。
この声は、来夢か。いや、待て……日向も一緒にいるぞ。
「未知可、やっぱり止めておこう。来夢が一緒にいる時点で無理だ。覗きがバレたらきっと日本刀で斬り殺される。そこでゲームオーバーだ」
「そ、そうだね……母さんもいるみたいだし、今日は止めておこうか」
シュナちゃんだけなら、明るく笑顔で許してくれるだろうが、来夢もいるとなると別問題だからなぁ。ほんとに殺されかねない。
俺と息子は渋々脱衣所を後にした。
「未知可、これをやる」
残念そうにしている息子に俺が渡したのはアンドロイドの体を研究していた時に撮ったシュナちゃんの下着姿の写真だ。
「うおー!すげぇ!シュナちゃん可愛過ぎだろ!」
「それあげるんだから、これからも勉強頑張るんだぞ」
「うん!サンキュー父さん!」
それからの俺はやることもなくとても暇だったので、一人ゲーセンに足を運びクレーンゲームと対峙を始めたのだった。
深紅たんが目覚めた時にパンタヌに囲まれていたらきっと喜ぶだろうなと思っての行動よ。
今の内にパンタヌ百匹集めとかないとな。
「友達百人より、深紅たんにはパンタヌ百匹の方が可愛いもんな」
千円しか使わずに十匹のパンタヌぬいぐるみゲットに成功した俺に店員からのストップがかかったことは言うまでもない。
俺もあの時から比べたら上達したもんだよな。今じゃ昔と違って簡単に景品が取れちまうんだから。
この場所には深紅たん居なくなってから寂しさ紛らわしに何度も来たしな。上手くならない方が可笑しいか。
(もう少し待っててくれよ、深紅たん。もうすぐまた会えるから……)
未知可は十分俺に負けずと劣らない天才に生まれ変わった。
これで高校生になっても父親である俺と比べられ、苛められることは無いだろう。
中学の成績が毎回トップで勉強に物足りなさを感じていた未知可が進学しようと決めていたのは俺と日向が通っていた簗嶋高校ではなく学力がトップクラスの有名な男子校だった。そこには工学部があるらしく、未知可は父親である俺にこう宣言した。
「俺も父さんみたいな科学者になるよ。なって、シュナちゃんみたいな可愛くて自分のお世話をしてくれる、そんなアンドロイドを生み出したいんだ」
そこは全寮制の高校で、未知可はこれから三年間自宅を後にする。
これで俺と皆の役目は終わった訳か。
「お前ならなれるよ。きっと俺をも超える天才科学者になれるさ。行って来い。卒業後の就職先なら俺が用意しておいてやるから」
「ありがとう。三年後には俺専用アンドロイドを連れて帰って来るからさ。楽しみに待っててよ」
「ああ。楽しみにしてる。頑張れよ」
「うん。頑張るよ。それじゃ、行って来ます」
俺の息子も立派になったもんだな。
自分専用のアンドロイドを作りたい何て、そんなこと考えているとは思わなかったぞ。
彼はもう深紅たんの記憶で見た性格の悪い未知可とは違う。通う高校も違うし、学力も明らかに違うんだ。このままずっと優しい子のまま育ってくれたら、きっと深紅たんも喜んでくれるだろうな。
それから三年が経つのはあっという間に感じた。
俺が深紅たんを取り戻す日ももう少しか。
……長かったな。そりゃそうだ、もう俺も三十七歳。
すっかりとおっさんになっちまったんだからな。
「父さん、今日は俺にアンドロイドについて教えてくれる約束だっただろ」
「ああ、良いよ。いくらでも教えてやる」
予想はしていたが、未知可は高校三年間でアンドロイドを作って連れて帰るという目標は達成出来なかった。
そりゃそうだろうなぁ。大学で俺が教わった時も物足りなさを感じたくらいだ。
一つランクが下の高校の授業じゃ講師のレベルが更に低いのは目に見えてる。
「未知可、落ち込むことは無いぞ。父さんが通っていた大学ですら、大した講師は居なかった。あいつ等レベルじゃ何年経とうがシュナちゃん達みたいな人間に近いアンドロイドは生み出せないだろうぜ」
「やっぱそうだよね。俺の通った高校でも教わったのはロボット技術ばっかでさ、オタクみたいのしかクラスにいなかったよ。おまけに女子は一人もいないし、むさ苦しいの何のって」
「それはお前が悪いな。男子校に何て俺だったら絶対に行かないね。まあでも、人間に近いアンドロイドを生み出したいなら俺がいくらでも力を貸してやるよ。お前が今まで教わってきたどの講師何かよりもよっぽど役に立つと思うぜ。何て言ったって俺は……」
「天才科学者だからな。でしょ?」
「そうそう。よくわかってるじゃねぇか。流石は俺の息子」
高校を卒業して立派な社会人となった未知可にはもうあの話をしても良いと思った。
この様子ならわざわざ成人を迎えるのを待つ必要は無い。
現在の、十分に常識を持ち合わせている息子になら俺の生み出したアンドロイドが後一人存在することをそろそろ知っても良い頃だ。
「なぁ、未知可」
「何、父さん?」
「お前に話しておきたいことがある」
俺は目の前にいる息子に語り始める。深紅たんという俺の大好きなアンドロイドとの出会いと、別れ、そして、未知可の未来を変えてくれと願った優しい少女の話を。
「…………深紅、たん…………深紅たん!!」
俺の懸命な呼び掛けに、発明室のベッドで横たわる深紅たんがゆっくりと閉じていた瞳を開く。
どうやら修復した黄色のコアによる起動は上手くいったようだ。
今までずっと、何年間も長い間動くことが無かった体がピクリと反応したその時、俺の瞳から大粒の涙が零れた。
これは嬉し涙だ。決して恥ずかしいことではない。
俺は前から決めてたんだよ。この日は思いっきり大きな声を出して、周りがウザがるくらいに泣いてやろうってさ。
だって、そうだろ?
俺はこの日を、誰よりも一番に待ち望んでいたのだから。
「……やっと……やっとだ……」
「あ、ある、じ……」
「やっと会えた」
久しぶりに抱きしめたその小さな体は、以前と変わらずに温かく人間と同じような体温を感じた。
十七の時と比べてすっかりおっさんになっちまった俺を深紅たんは「主」と確かにそう呼んだ。
……良かった。憶えていてくれたんだね。素直に嬉しいよ。
「ある、じ……主っ!!」
言葉がはっきりとしてきた深紅たんが俺の名を叫ぶ。
俺もそれに応えるように、対抗するように、負けずと大声で叫んだ。
「ああ!そうだ!主だ!幾つになっても、大人になっても可愛い深紅たんのことが大好きな主だよ!」
「主に会いたかった。ずっと……」
「ごめんな。こんなに遅くなっちまって。今日から日向もシュナちゃんも来夢も皆一緒だ。もう深紅たんに辛い思いはさせない。これからは楽しい思い出だけ作って行こう」
「うん。これからはずっと主と一緒。嬉しいな」
……これで、やっと本当のラストスパートだ。
俺は深紅たんのお願い事を叶えて、深紅たんを助けることが出来たんだよな。
これは俺が深紅たんを取り戻した次の日の、朝食の時間の出来事だ。
「奥方、主のこと一日深紅にレンタルして欲しい。駄目?」
「駄目じゃない。良いよ。掴のことしんちゃんになら何日でも貸してあげる」
「やった。奥方大好き」
俺を日向から貸して貰った深紅たんは、本当の子供の様にはしゃいでいてとても可愛らしかった。
そんな姿を見ていたアンドロイド少女好きの未知可は、
「モテモテな父さんが羨ましいよ。俺も深紅ちゃんに好きになって貰いたいな。すげぇ可愛いし」
「お、未知可。お前も目覚めたか、深紅たんの可愛さに。流石は俺の息子だ」
深紅たん大好きな奴に悪い奴は無し。
俺はそう思うね。
だからコイツはもう、あの時の未知可とは別の未知可だ。
奴はロリコンと俺を馬鹿にしたが、俺の息子の未知可は深紅たんを可愛いと言った。
まったくの別人だよ。
「どうだ、深紅たん。俺ちゃんとお前のお願い叶えてあげたんだぞ。見ろ、俺の息子の未知可はアンドロイド大好きな好青年だ。あの深紅たんを苛めていた未知可とは全然違うよ」
「知ってる。昨日廊下ですれ違った時に謝罪された。この時代の若は深紅に何もしていない。だから謝る必要は無い筈」
俺が別の世界の未知可の話を聞かせたからかな。謝れとは言わなかったけど、きっとアイツ自身が耐えられなかったんだろうね。
もし自分が道を踏み外していたら、俺や深紅たん、大勢の人を殺すような犯罪者になっていたかもしれないって。
その話をしたらお礼を言われたよ。
俺を見捨てないでくれてありがとうって。
「深紅たん、ちょっと付いて来て」
「主、何処行くの?」
「いいから、いいから」
俺が深紅たんの手を引いてやって来たのは深紅たんの為に用意した専用の部屋。
そこに飾った百匹のパンタヌを見せてビックリさせ喜ばせたかったのだ。
「わー、すごい。パンタヌ一杯……」
「どうだ、深紅たん。これ全部俺からの生還プレゼントだぞ~。嬉しいだろ」
「すごい、これ何匹いるの?」
「百匹だ。皆深紅たんのお友達になりたいって言ってるぞ」
目をキラキラさせてる深紅たん久しぶりに見たな。相変わらず可愛い奴だ。
「……嬉しい。主、ありがとう」
「いえいえ。どういたしまして」
俺も深紅たんが喜んでくれたみたいで嬉しいわ。長い間ゲーセンに通い続けて良かったよ。
此処まで集めるのには少し年月が掛かったが、サプライズは見事に大成功だ。
「主、主」
「なあに、深紅たん」
「しゃがんで」
「え?」
「良いから早く」
深紅たんが一体何をしたいのかは全くわからなかったが、俺は大好きな天使の言う通りに、言われるがままにそっと腰を下ろした。
すると、
「……え?」
深紅たんが、俺のほっぺにちゅーをした。
もしかして、今の可愛らしい口付けは百匹のパンタヌぬいぐるみをプレゼントしたお礼なのかな。
「深紅は主のことが大好き。主は?」
深紅たんからの突然な告白にドキっとした。
そんなこと今更言わずとも、もうとっくにわかっているだろ。
「そんなに聞きたいなら何度でも言ってあげるよ。俺も、深紅たんのことが大好きです」
お返しに深紅たんのほっぺにキスをする。
一瞬で赤く染まった表情が何とも可愛らしい。
ハッピーエンド。
今の俺達には、誰が見てもその言葉が最も相応しく映っているのだろうな。
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