なんちゃって調理師と地獄のレストラン

SAKAHAKU

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第四話(しもつかれと酷似した謎の一品)

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オーガニック開店前、俺はタルトを厨房に呼びつけた。
何故ならそれは重大発表、新メニューのお披露目をするためだ。


「まずお椀にご飯をよそって適量の酢を投入します」

「はい」

「続いて適量のマヨネーズとブラックペッパー、人参ドレッシングを投入しましょう」

「……はい」

なんだろう。この辺からタルトの表情が嫌な物を見る目に変わったような気がした。
何もおかしいことはしてないってのにな。

「そしてそして、お次は具材ですよ~っと。納豆をそいや。とろけるチーズをぱらぱらー。豆腐を1パックドサリ。隠し味に適量の味噌を加えたら~」

「……は、はい」

「最後にこれまで投入した全ての物を攪拌し粉々にしたら完成。一口食べたらたちまちほっぺたが落ちる一品の出来上がりだ」

「とても料理の解説とは思えない実演でしたね……」

タルトがお椀の中を覗きこむ。

「うえ……何です、これ?」

「うえとは何だ。失礼なやつめ」

「これよく見たら、お兄ちゃんが頻繁に食べてる変なのじゃないですか。混ぜご飯とは名ばかりの、端的に言えば犬の……」

こいつまさか……犬のエサって言おうとしてたのか。ほんとーに容赦のねぇやつ。

「おまえが次になんと続けようとしているのかわかる自分が恐ろしいぜ」

「犬の……まで言えば誰でも大抵わかりますけどね。ほんと汗顔の至りです」

「へー。桃之介がまじめに新メニューの試作?感心ね。いったいどんな料理をーーうっわ……」

大方、俺がまじめに出勤しているか確認でもしにきたんだろう。
鬼子のやつが厨房に姿を現して、同じようにお椀の中を覗きこんできやがった。

「おまえまでそんなあからさまなリアクションすんなよ。だんだん自信無くなってくんだろうが」

「いやでもそういう反応になりますよね。本当になんなんですかこれ?例えて言うなら、三角コーナーに吐き出された吐瀉物でしょうか」

「おまえそれ、犬のエサより酷い表現してるからな!?」

「しもつかれと大差ないレベルね。というかアレより酷い。とてもお客に提供していい料理とは思えないから」

「料理と呼べるかどうかも怪しいですけどね」

「おい、失礼なことを言うな。しもつかれは最高に美味い食い物だろ。好き嫌いはよくないぞ」

……まあ、正直なところ意見は真っ二つに分かれるとは思うが。

「鬼子さん、この得体の知れない何かにいつものモザイク処理をお願いします」

「おーけー。わかったわ。ヒスイに毒味させるにしても、女の子がこれを食べている姿とか誰も好き好んでみたいと思わないものね」

あ、なんてことを!
またもや俺の料理にいかがわしい細工が施されていく。

「なんでもかんでもヒスイさんに毒味させるのはどうかと思いますが、ヒスイさんはお兄ちゃんの作った料理なら何でも美味しい美味しいって食べてくれますから非常に助かってます」

「しもつかれってのはさ、温かい内に食うのが美味くてさ。冷めてるとその美味さが半減するんだよな。あれを見た目だけで嫌いだとか決めつけないで一度よく味わってみたほうがいい」

「お兄ちゃんはいったい、何を熱く語ってるんです……?」

「さあ?同じような料理を生み出した料理人として親近感でも感じてんじゃない。言い方悪いけど、あんなんほぼゲーー」

「鬼子さん……それ以上はNGです」

鬼子が次に何を言い出すのかすばやく察したタルトが、発言を途中で止めた。
さすがの俺でもこいつが何を言うつもりなのかすぐにわかったわ。
初めてしもつかれを見たやつ誰もが言う言葉だろ。

「流石に言い過ぎか。あの料理は見た目があれなだけで、味の方は美味しいものね。桃之介の作った正真正銘のゲテモノ料理とは大違いで」

「俺の料理も見た目があれなだけで味は最高なんだよ」

「見た目がおかしいって自覚はあったんですね。なら直してください。見栄えがよければ、誰だって自然とその料理を食べたいって思いますから」

「そんなことより、せっかく作ったんだから試食しろよなお前ら」

「嫌よ。馬鹿じゃないの」

「全力で遠慮させていただきます」

「なんでだよ!?」

タルトに関してはいつものことだが、鬼子は食ってくれてもいいだろ。
自分の作った激辛野菜炒めは強引に試食させようとしてくる癖にな。

「だって、ねぇ……」

「さっきの話聞いてなかったんですか。間違ってもこの料理が美味しいなんて結末はありえないからです」

「万が一にもこのゲテモノ料理が美味しいなんて感じたらアンタと同類になるのも同じだし。それだけは絶対にいや。味覚がおかしいやつだって思われる」

「いやいや、激辛料理を平然と平らげるお前の味覚はすでにおかし……おっと、なんでもない」

「今更ごまかそうとしたって遅いわよ!?また海までかっ飛ばされたいの?」

「本当のことを言ったまでだが?お前の味覚はすでに死んでいる。なあタルト、お前も俺と同意見だよな?」

鬼子の味覚なんか俺と同レベルで大差ねぇよ。よく人のことをバカにできるなって思うわ。

「私に同意を求めないでください。下手げなことを口にすると後が怖いのでノーコメントです」

「大丈夫だ。お前が率直な感想を言おうが、俺みたいに金棒で殴られたりしねぇよ。だから遠慮せずにーー」

「ももちゃん、お昼ご飯食べに来たよ~」

まだ開店前だというのに、ヒスイが昼飯を食べに来店した。

「出たな。毒味役の人魚」

鬼子がとんでもないことをヒスイに言い放つ。

「どくみ?なんのこと……?」

「鬼子さん言ってました。お兄ちゃんの作る料理はとりあえずヒスイさんに食べさせーー」

「こらタルト、余計なことは言わなくていいの……!なんでもないから気にしないで。ヒスイって桃之介の作る料理が本当に好きなんだな~って話をしてただけだから」

「うん。ももちゃんの作る食べ物はどれも美味しいから好きだよ。ひょっとしたらあたし達って食べ物の好みが似てたりするのかなぁ」

「はい。だいぶ似ていると思いますよ。じゃないと説明がつかないですから。別の理由があるとしたらそれはもはや愛です。ヒスイさんはお兄ちゃんを大好きなあまり情けをかけているとしか思えませんね。ほんとうは美味しくない食べ物を気を遣って美味しいと言っているんです」

「たーちゃん、ももちゃんの作る食べ物はなんだって美味しいんだよ。ほんとだよ。それと、あたしがももちゃんを好きなのもほんと!」

ヒスイが実に嬉しいことを言ってくれているが、この二人がいるときにそうはっきり断言されると結構恥ずいわ。

「それならこれを見ても同じことが言えますか?お兄ちゃんがこれを新作としてメニューに加えようとしているみたいです。私はこんな見た目が恐ろしい料理をお客さんが注文するところを想像したくありません」

「このおかゆみたいのももちゃんが作ったの?」

「おかゆだったらどれほどよかったか……残念ながらそれはおかゆとは格段にかけ離れた未知の何かです」

「こいつらせっかく作ったってのに試食してくれなくてな。ヒスイは食べてくれるよな」

「もちろんだよ。ももちゃんが心を込めて作った食べ物が美味しくない筈ないもん」

だよなー。ヒスイなら必ずそう断言してくれると信じていた。
さすがは俺の良き理解者。批判ばかりして容赦がないこの二人とは訳が違う。

「ヒスイさん、本気ですか?ほんとうに実食するんですね。ためらいとか無いんですか?」

「たーちゃんこそだいじょーぶ?あとで欲しいって泣いてもわけてあげないよ?」

「なんで私が泣いてまでこれを欲しがると思うんですか!?そんな未来は万に一つもありえません!」

「そぉ?ならべつにいいんだけど。それじゃ遠慮なく……いただきまーす」

「いったわね」

「はい。いきましたね」

「……うそ、これって……」

一口ぶん食べ終えたあと、ヒスイの動きがピタリと止まった。
まさか、ヒスイに限ってそんな……、

「どうなのヒスイ?美味しいの?」

「この反応、さすがのヒスイさんでもアウトみたいですね」

「なんかドリアとかリゾットに食感が似てる!お豆腐とチーズがいい感じにマッチしてて美味しい!」

味の感想を聞いて、ほっと胸を撫で下ろす俺がいた。
一瞬でもヒスイを疑っちまった自分が情けないぜ。

「重症です……これが美味しいなんてどうかしてますよ。ヒスイさんはなんでもかんでも美味しいの一言ですか」

「いんやヒスイの味覚は正しいんだよ。味の方は俺が保証するからお前らも食え食え」

「もうヒスイが食べたんだから試食会は終わりでいいでしょ。そもそも納豆が入っている時点であたしには無理だから」

「これを食べるくらいなら大嫌いなトマトを我慢してでも食べます」

我が妹のトマト嫌いは度を越して酷い。
そうなはずなのに、俺の作ったコレを食べるのはトマトを食べるよりも嫌らしい。

「まさかお前がトマトの方を選ぶとか。どんだけ嫌なんだよ。俺でも結構へこむわ」

「食べないなんてもったいないよねー。こんなに美味しいのに」

「嘘でしょ……あの子、あれを完食したの……?信じられない」

「ももちゃん、これっておかわりとかできたりするのかな?」

「おう!もちろんだ!」

「ヒスイさん、どれだけ体張るんですか……」

鬼子にタルトの二人は、俺の作った料理(謎)のおかわりを求めるヒスイに凄まじくドン引きしていた。

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